日本での休暇4
三人はそのまま井上の実家で安平の歓待を受ける事になった。
「明日からあっちこっち案内するよ」
初めて日本に足を踏み入れたミューリを井上は案内することにした。
―――同日、小松基地
小松基地では外出許可取消しを受けた高橋は、これを機会に特殊任務部隊によるアルトリア、ホードラー両地域の町や村を回る計画を立てていた。
ホードラー占領の当初より領主が存在しないため、野盗などに身を変えた傭兵や兵士に対する備えが甘くなっている。
ついては自衛隊の駐留が必要な主要地域を除いた集落に対し、自衛隊から幾つかの部隊が定期巡回する事になったのだ。
そして時と場合によっては野盗の根拠地に対する攻撃を行う事になったのだ。
元々はその仕事は休暇の後に行う予定ではあったが、思いがけずに時間ができたから丁度良かったと言えた。
「高橋少尉、お茶でも如何ですか?」
そんな高橋のところに四宮が来た。
「ああ、ありがとうございます」
高橋はそう良いながらも書類からは目を離さなかった。
今高橋は机を借りて書類を書いている。
案外書類仕事が向いているのかテキパキと仕事を進めていた。
そんな高橋を後ろから四宮は見ていた。
実は四宮は調査派遣隊に志願していたが、選定に漏れてしまいアルトリア(当時は呼び名が無かったが)に行くことが出来なかった。
父親が大学で植物学を教えているのもあって、彼女も植物学を学んでいた。
それ故にアルトリア帰りの高橋に自分もアルトリアに連れて行って欲しいと考えていた。
しかし、それ以前に現地国家と最初の接触をし、交戦し、終戦までアルトリアで戦った高橋に興味を持っていたのもまた事実だ。
「高橋さんはまたアルトリアに行かれるのですか?」
休暇が終わってから現地にまた行くかは本人の意思次第だ。
高橋は既に自分の意思を明らかにしているので行くことは決定している。
「ん?ああ、行くよ」
高橋はお茶を手にしながら答えた。
「もし宜しければ私も行きたいのですが?」
予想してない言葉に高橋は、は?と間の抜けた声を出してしまう。
「私もアルトリアに行きたいのです。選考漏れしましたが、やっぱり未知の世界に興味がありますので」
四宮の言葉に高橋はう~ん、と唸った。
高橋はアルトリアは四宮が思っている様な良い世界ではない。
今のアルトリアやホードラーはともかく、今度は不穏分子の警戒に向かうので何が起きるか分からない。
最悪、また戦いが起きる可能性もある。
「単純に興味本位なら止めときなさい。そんな甘い物では無いから」
言葉を選びながら高橋は無駄かもしれないとおもいつつ言ってみた。
「何が起きようと覚悟はあります」
威勢の良い四宮に高橋はため息をつく。
「何の覚悟だ?」
高橋の問いに答える四宮に、やはり、と思わざる得ない。
「勿論、万が一の時に命を落とす事になってもいい、と言う覚悟です」
高橋は四宮にそんなものは求めていない。
それを理解してもらわねばならないと思う。
「そんな覚悟は要らん。俺が覚悟すべきだと思うのは『殺す』覚悟だ」
高橋がそう言って四宮の目を見る。
明らかに動揺したのか目が泳いでいた。
「殺す・・・覚悟・・・?」
動揺した四宮は高橋が何を言わんとしているかが分からない。
「はっきり言って殺される覚悟なんざ邪魔なんだよ」
分かるまで考えろ、と言わんばかりに高橋は書類にまた向かった。
それを見ながら四宮はただ黙って立っているしか出来なかった。
お待たせしました。
これで第16話終了です。
うん、色々まとめ切れてないorz
もっと話を見直して繋げ方を考えねばなりませんね。