日本での休暇2
ミューリは四宮のキツそうな表情に怯えた。
井上も内心、怖そうなネーチャンだ、などとは思っていたが表には出さない。
「さて、今回の事態に対しては既に箝口令が敷かれています。万が一にも洩らした場合は防衛機密に抵触し罰せられますのでそのつもりでいてください」
そう言ってから書類を広げる四宮はミューリを安心させる為に笑いかけた。
「大丈夫ですよ。一応お客様との扱いになりますから」
その言葉にこの事件に対してかなり上の方で対処されたのが分かる。
ただし、まさか防衛省長官や内閣総理大臣や幹事長が関わっているとは思いもしないが・・・。
「これから提示する書類すべて一通りに署名捺印して頂きます。その上で監視付きでの行動を許可されました。つきましては・・・」
この四宮の様子から長くなると悟った高橋はため息を付きながら温情措置に感謝した。
結局、高橋たちも動けるのは翌日になったが、ミューリの行動に対しての罰則はなかった。
ただし、C-130Hの乗員は規定の確認を怠ったとしての罰則(これも軽くはなった)、そして隊の責任者である高橋はしばらく基地から出られなくなった。
もっとも高橋はあまり外に出る気も無かったので、せいぜい1日でも出られれば色々買って来れると考えていた。
一方のミューリは監視として隊の中からくじ引きで(誰が監視になるかで決着が着かなかった)二名が選出されミューリと行動を共にする事になった。
くじを引いたのは井上と佐藤だ。
狙った様な選出に隊の誰もが「井上さんのイカサマだ!」と口にしたが、井上はくじを引く前に見抜けないのが悪い、と一蹴した。
「すみません、私のせいで・・・」
休暇で基地から出る他の面子を見送る為に高橋はゲート前に着ていた。
「・・・」
外出不許可になった高橋にミューリが頭を下げるが高橋は沈黙したままだった。
泣きそうなミューリの頭に高橋は手をおいて優しく撫でた。
「済んだ事は仕方がない。俺の事は良いから楽しんで来なさい」
泣きそうになったミューリに高橋はそう言った。
いつまでも引きずっても仕方がない。
むしろこれを口実に外出しなくて済んだ事を喜ぶべきかも知れない。
「佐藤、これ俺の口座から出して置いたからミューリの為に使ってやってくれ」
アルトリアに行っていた時の分の給与と手当て分の資金を佐藤に渡す。
「何で親友の俺にじゃないんだ?」
井上が不満そうに言ったが高橋は冷たく言いはなった。
「お前は無駄遣いするのが目に見える」
その答えに井上が抗議してきたが無視した。
「いいんですか?」
佐藤の問いかけに高橋は頷いた。
「どうせ俺が使うにしても使い途は限られているんだ。構わないよ」
むしろ使ってやってくれと思う。
もっとも、色々物資が不足する中でどれだけ意味があるかは不確定ではある。
だから使いきってもいいぐらいだ。
「あ、あの・・・」
そんな高橋にミューリはおずおずと前に出てくる。
「いいから行きなさい。大丈夫、もう怒ってないから」
そう言うと宛がわれた一室に仕事があるので向かっていく。
「すみませんでした!」
ミューリが高橋の背中に向けて頭を下げた。
高橋はそれを振り返らずに手を振って答えると仕事に向かって歩き出した。




