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日本への帰郷2

記者会見に望み、国民に報告し終えた鈴木に記者が一斉に質問を浴びせてきた。

埋蔵量は?

石油関連の統制は?

今後の予定は?

等々質問には暇がない。

しかし、この正式発表に伴い明るい兆しはまだ未開発のアルトリア地域へと意識を向けさせるには十分だった。


アルトリアと言うフロンティアを目指す動きは民間で大きな勢いを持つ事になる。

近い内に渡航を制限付きでも許可すべきかも知れないと鈴木は思った。


アルトリア地域への渡航許可は未だに無いが、これを機会に制限付きでも企業を中心に渡航が許可されだす。

その第一陣は月も変わった7月9日にアルトリアに向けて出発した。

この第一陣が新たなる出会いをもたらす事になる。



―――7月18日、アルトリア地区アルトリア基地。


アルトリア基地と名を変えた調査派遣隊基地は以前とは違い活発な様相になっていた。

久し振りに日本に帰れる高橋たちは一週間の休暇が与えられたのだ。

「う~ん!やっぱり日本に行けるとなると嬉しいねぇ」

井上が久し振りのアルトリア基地に感慨を覚えつつも、一月以上離れていた故郷に思いを馳せる。

「そうですね。何だか何年も離れていた様な気分ですよ」

佐藤もそう言って井上に同調した。

ただし、高橋はあまり気がない様だった。

「なんだ?日本が恋しくないか?」

井上がそう言って高橋の様子を不思議そうに見る。

「・・・別に、ただ帰ってもする事が無いだけだ」

井上はその様子に何かを察した。

だが、空気を読めなかった佐藤が、何故不満そうなのか分からないために言ってしまった。

「家族に会えるじゃないですか?」

井上が佐藤の不用意な言葉に、バカ!と言った。

「家族・・・家族ねぇ・・・」

高橋のその様子に佐藤も漸く理解した。

高橋はその家族との関係に問題があった為に調査派遣隊に志願していたのを・・・。

その時後ろから声がかけられた。

「家族に何かあるんですか?」

振り向いた三人は、そこにシャインとミューリが居るのを見た。

今聞いて来たのはシャインだな。

と井上は理解した。

好奇心が強いシャインは何にでも首を突っ込みたがるのだ。

とは言え厄介事には基本的に首を突っ込まないのだが、今回は何が厄介事なのか分かっていない。

「あ~・・・それは・・・なぁ?」

「僕に振らないでくださいよ!僕は事情を知らないんですから!」

井上と佐藤が騒ぐが高橋はそれを無視した。

「俺の両親はな・・・俺が兵隊やってるのを嫌がってるんだ」

高橋の言葉にシャインは何故?と言う表情を見せた。

「高橋の両親は・・・平和市民団体のメンバーだからなぁ」

井上も諦めた様に話し出した。

そして説明する。



「それじゃ、ご両親は高橋さんが自衛隊なのを・・・」

佐藤はかける言葉が見付からなかった。

平和市民団体、と聞けば聞こえは良いが、内容は現実を知らない夢想集団と言えたからだ。

高橋はその両親がやってる活動に疑問を持っていた。

まだ小さい自分を保育園などの施設に預けて平和運動とやらに熱中する姿を見れば疑問も生まれよう。

常に家に居ない、学校の行事にも全く来ない、学校で作った物を見せて誉めて貰おうと思い持ち帰っても興味も持たない両親・・・。

しかし、休みの日には家族で出掛ける事もある。

ただし、それは平和運動と言う活動に、ではあったが・・・。

結果、高橋は高校までは両親の言う通り出た。

だが、大学には行かなかった。

両親は落胆したが、高卒でアルバイトなどでお金を稼ぎだした高橋に両親は熱心に平和とやらの話をした。

多分、そのまま自分たちの活動に息子である自分を引き込もうとしたのだろう。

だが、高橋は20歳を迎えた春、自衛隊へ入隊を決めた。

言わば両親への当て付けだ。

反対する両親に高橋はいい放った。


「子供を放置してやる平和運動は楽しかったかい?俺はあんたらを許さない。あんたらが反対するならなおのこと自衛隊に行く!」


当時の事は今でも思い出された。

あれから6年は経つが、両親から来る手紙は「早く辞めてくれ」ばかりだった。

だから高橋は手紙は読まずに処分していた。

読む価値がない。

万が一謝罪の手紙だったとしても、もうどうでもいいと思っているからだ。


「だから今さら日本に帰るにしても友人も居ないしな」

事も無げに言う高橋だったが、佐藤は何を言うべきか言葉が見付からない。

そんな佐藤に高橋が笑いながら、お前が気にしてどうする?

と言った。

「まあ、なんなら俺の家に来いよ。妹を紹介するぜ?」

重たい話を聞かされたにも関わらず暢気に井上が言った。

もっとも、井上は知っていたから今更なのだ。

「紹介してどうするんだ?確か一人暮らだろう?」

井上の妹は確か今年で大学三年生のはずだ。

「何なら貰ってやってくれ」

馬鹿な事を言うなと高橋は頭が痛い思いで一杯だった。

何より井上を「お義兄にいさん」と呼ぶことにゾッとしかしない。

「いいじゃ・・・」

「ダメーーー!」

意外なところから反対意見が出た。

その出所に井上は、あれ?と言った感じだ。

佐藤は先程の重さからいきなり軽くなった場に着いて来れていない。


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