希望を求めて
ようやく日本が動き出しました。
さて、これからこの国に何が待ち受けているのでしょうか?
それは読んでからのお楽しみに・・・なるかどうか疑問符がつきますねw
西暦201X年5月12日
小松基地を飛び立ったP3Cが日本海上空をひたすら燃料が許す限り西へ向かって飛行していた。
先日に鈴木総理が日本全国に向けて行った日本のおかれた状況、すなわち転移の事実と日本が今、危機的状況にある現実を伝える放送は、全国に戸惑いを与えていた。
だが、それでも思ったほどの同様はなく、何とか国民は冷静さを保っていた。
あるいは現実を直視できずに、ただ楽観的、あるいは他人事の様に感じたのかもしれない。
それは戦後の日本に蔓延った日本人の悪い癖の所為かもしれない。
しかし、それでも国民は不便な生活になってもことさら騒ぎ立てるような真似はしなかった。
ただし一部では政府を糾弾する市民団体や野党、マスコミと言った連中が突き上げをしてきてはいた。
それでもその他多くの日本人は慌てずに助け合う形で苦境を乗り越えようとしている。
これは鈴木も予想外だったのだが、鈴木の先輩で短期間ではあったが内閣総理大臣の座に座ったことのある人物が言っていた言葉が思い出された。
「日本人の底力を疑った事など無い」
今にして思えば、私は悲観的になりすぎて日本を、国民を侮っていたのかも知れない。
鈴木はそうとさえ思っていた。
だからこそ、この日本を救う手立てを何としてでも見つけねばならない。
鈴木はそのために敢えて日本の領空、領海を越えての調査を決断した。
その調査の為に安西康彦一尉を機長とするP3Cは飛行していた。
「一尉、天候が悪化してきてます」
副操縦士の花木浩太が気象情報を確認しながら伝えた。
安西は、これ以上は危険か?と思いながらも燃料に余裕があったためにもう少し飛ぼうと思っていた。
限りある燃料を使ってここまで着たのに、何も所為かも無く帰りたくなかったのが本音だ。
増槽にも余裕がある。多少の天候不良など・・・。
だが、天候はいよいよ悪化してきており、これ以上は危険になってきた。
「一尉、もう無理です。一旦帰還しましょう!」
例年とは違う天候に花木は気が気ではなかった。
例年ではここまで酷い低気圧に遭遇はしない。
しかし、まるで自分達の進路をさえぎるかのように強力な低気圧が行く手を阻んでいる。
「・・・くそ、ここまでか・・・」
悔しそうに安西が呟いた瞬間、落雷による閃光が走った。
と同時に期待に衝撃が発生し、計器類がいっせいに明滅、もしくはありえない表示をしだし、警報が鳴り響く。
「落雷が本機に!?」
花木が悲鳴を上げる。
後ろにいた乗員からも次々と以上を報告してきた。
「一尉!レーダーがやられました!」
「計器が使い物になりません!」
流石に墜落、はしなかったが危険な状態には変わりない。
「無線は!?」
安西の怒鳴り声に花木が辛うじて無線は生きていることを告げた。
しかし、計器が正常に作動しない今の状況ではいつどうなる香などだれにも分からない。
航空機は昔と違い、計器が正常に作動してなければ極めて危険な状態になる。
これは電子制御されているための弊害ともいえたが、まさかこれほど強力で激しい落雷が直撃するなど思ってもいなかった。
「機体が・・・分解しなかっただけましか?」
そういいながら悪天候の中で安西は期待を何とか保とうと必死だった。
計器が使えない今、進行方向も現在地も分からない。
こうなっては生き残った無線がたよりだ。
「こちらリサーチャー4、小松ベース!落雷により現在地を見失った!そちらのレーダーで誘導してくれ!」
安西は無線機のスイッチを入れて緊急事態を宣言した。
しかし、返答が無い。
たしかに無線は生きているのだがどうも届いていないようだった。
「小松ベース!こちらリサーチャー4!応答願う!」
再度の呼びかけにもやはり返答は無い。
誰もが最悪の事態に息を呑む。
(くそ、だめか・・・)
安西の思いもむなしく、無線機はザーと言う空電音だけが鳴り響く。
諦めにも似た重いが場を支配しかけたとき、荒らしが収まりだした。
「・・・?」
と突然、視界が開けてきた。
今だ飛行を続けるP3Cの背後に巨大な積乱雲がとぐろを巻いている。
「抜けた・・・?」
呆けたような花木の言葉に我に返った安西はほっと胸をなでおろした。
と、その時、視界に海のとは違う色が前方に広がっているのを見た。
「・・・陸地・・・だ・・・」
安西の呟きに花木は勿論、後ろにいた連中までもがコクピットに入ってきてその光景を見た。
陸地だ。
それも島ではなく広大な大陸だった。
そして、安西は駄目元でもう一度無線機に向かって叫ぶ。
その叫びは歓喜の篭った叫びだった。
「小松ベース!こちらリサーチャー4!陸地を確認!大陸だ!現在地は・・・計器が死んでるからそちらで確認してくれ!AWACSでも護衛艦でも何でも良い!この声が聞こえるか!」
安西の歓喜の声にこたえるかのように無線から声が聞こえてきた。
「こちら海上自衛隊調査隊。貴機をレーダーで確認した。貴機の現在地は・・・」




