ミューリの活躍3
問題はどうやって情報を集めるか?だった。
普通に考えれば付近の住人なのだが、その付近の住人が武器を持って高橋たちに立ちはだかっているのだ。
これでは情報など集められない。
だが、ここでミューリが提案する。
「私が中に入って情報を集めます」
その提案に高橋は難色を示した。
曰く危険過ぎる。
もしバレれば民衆の様子からまず無事ではすまない。
また、潜入と言っても城塞に囲まれた街では侵入も容易ではない。
「高橋さん、私は皆さんと出会う前はそれを仕事にしてたのですよ?」
ミューリは真っ直ぐな目で高橋を見る。
高橋はその目に見られると何も言えなかった。
「わたった・・・」
苦渋が滲む表情ではあったが高橋はミューリの提案を受け入れる事にした。
「・・・ミューリちゃん、使い方は教えたよな?」
その様子を見守っていた井上がミューリに9mm拳銃を手渡した。
弾倉も3つ。
「万が一の時は何としてでも脱出しなさい」
佐藤も心配そうにしながら閃光手榴弾と煙幕手榴弾を一発づつ手渡す。
「本来、君は案内だけでこんな仕事をさせるのは不本意なんだが・・・」
高橋も愛用のナイフを手渡す。
このナイフは自衛隊に入隊した時に購入した米国製のナイフで、元特殊部隊出身の兵士が特殊部隊で使うのに一番向いている物として産み出されたものだ。
「あと、万が一逃げ切れないと思ったら上に向けて使いなさい。最悪、実力で突破して助けに行くから」
高橋は照明拳銃、つまり信号弾を手渡した。
「ありがとうございます。でも使わないで済むと思いますよ?」
自信ありげな様子ではあるが年端も行かない少女にこんなことを任せるのは心苦しい。
「ああ、それを信じるよ」
高橋はミューリの頭を優しくなでる。
夜の闇が辺りを覆うのを待ってミューリはレノンへと向かって行った。
その後ろ姿を心配する高橋たちを残して・・・。
ミューリは暗がりを利用して城壁に近付いていく。
正規の守備兵がいないのか、周辺の警備はザル同然であった。
ミューリは自前のナイフを取り出すと古くなって隙間がある城壁に差し込み、足場を作りながら登っていく。
しばらく慎重に音を立てないように上り、ようやく城壁の上にたどり着いた。
城壁の上には人は居らず、警戒体制が極めて甘いのが手に取る様だった。
だが、ミューリは安心せずに即座に城壁の内側に降りていく。
建物の陰から陰へと静かに移動する様は下手な特殊部隊顔負けだ。
ミューリはそこから木の上に登ると建物の屋根に飛び移り周囲を見渡す。
街中に松明が焚かれている明かりがちらほら見えるが、その数から見張りはほとんどいない様だった。
ただし、一際立派な領主の館だけは明かりが多く、その規模から厳重な警備が敷かれている様だ。
「情報を集めるにはまず人のいる所から・・・が基本よね」
ミューリは呟くと領主の館に向かって行った。
領主の館にはまともな鎧を着込んだ兵士が詰めており、極めて少数だが騎士らしき者も見えた。
しかし、その騎士の姿はミューリが目を丸くする風体だった。
「近衛騎士?それも上位の?」
立派な鎧を着込んだ騎士は、油断なく周囲を警戒していた。
あれの近くには行けそうにない。
と判断したミューリは、裏手に回り込むと手近な木から館の敷地へと侵入を果たす。
そのまま暗がりを移動し、警備の目を盗んで館に入り込むとちょっとした部屋に入り込む。
そこは使用人の控え室だ。
そこでミューリは一計を案じた。
翌朝、警備の兵士たちは休みに入り、代わりに街の住人が警備を行っていた。
城門前では未だににらみ合いが続いている様だ。
そして館では警備に着いていた兵士に食事が宛がわれていた。
「君は、見掛けない顔だな?」
しっかりとした礼儀を身に付けた兵士たちの一人が使用人の少女に声をかけた。
「はい、私にも手伝える事が無いかとお願いしましたらこちらのお手伝いをするようにと・・・」
少女はそう言って緊張していた。
兵士は笑いながら謝ると、食事を受け取り食べ始めた。
使用人の少女は兵士たちの間を歩きながら食事を宛がう。
その少女はミューリの変装した姿だとは誰も気づかなかった。
もう一個続きます。