王国領へ
ホードラー王国軍を打ち破った自衛隊は当初の予定に従い王国領内に歩を進める。
一方のホードラー王国の王宮では日本に対する対応が協議されていた。
徹底抗戦か?降伏か?講和か?
選択しだいで国が滅びる瀬戸際で彼等がとった方法とは?
第12話「王国領へ」お楽しみください。
―――日本、内閣総理大臣官邸。
記者会見を終えた鈴木が疲れた体を倒れる様に椅子に預ける。
連日の激務もさる事ながら、油田発見?の報に色めきたつ国内をまだ確定ではない、として宥めるのに四苦八苦していたからだ。
「どれだけ石油に依存していたかが明確になるな」
鈴木は一人部屋の中で呟いた。
石油発見と決まれば次に必要なのは採掘だ。
数年はかかる物を半年で何とかせねばならない。
一応、何時でも採掘施設を造れる準備はしているが、それでも無茶と言えば無茶な話でもある。
だが、やらねばならない。
でなければ日本が持たないのだ。
備蓄原油のタイムリミットは来年の3月と見通しはあるが、今でも不足が目立つのだ。
「確定してもまだ埋蔵量がはっきりせんうちは・・・安心できん」
それが鈴木たち閣僚が出した結論だ。
更に日本が確保した広大な地域、アルトリア領域の南にあるホードラー王国との戦争をどうにかせねばならない。
「・・・完全に制圧すべきか、それとも和平か・・・」
目下、鈴木の苦難はまだまだ道半ばだった。
ホードラー王国王宮では先日行われた会戦で王軍3万とファマティー教から派遣された聖堂騎士500が壊滅し、聖堂騎士に至ってはハーマン大司教を含む全員が戦死したと言う報に慌てふためいていた。
「徹底抗戦あるのみ!」と主張する者や「講話すべき」とするものが衝突し、結論が出ないままになっていた。
何より、教会への報告を行わねばならない。
これも頭の痛い問題だ。
「まだ我が王国は戦える!」
「集められる軍勢の大半を喪ったのにか?」
「それよりも講和して・・・」
「講和など蛮族が認めるとは思えない!」
「左様。何より教会も認めますまい」
「そうだ、ハーマン大司教や聖堂騎士を皆殺しにされているのだからな」
「では奴等により王国が蹂躙されるのを受け入れよと!?」
「周辺国から援軍は・・・?」
「無駄だ。周辺国は我が国に従属していた国ばかり。この機会に反旗を翻す動きさえある」
「このような時に・・・」
「やはり何とか講和せねば・・・」
「だから無理だと言っている!」
結論の出ない水掛け論を前に宰相カルタス・ラ・キュレーは王国が崩壊する様を見た気になっていた。
どちらの言い分も分かるのだが、どちらにしても王国が存続するのは難しい。
徹底抗戦すれば王国は灰になり、講和してもその力を大きく奪われるだろう。
そして、座視すれば今まで虐げてきた周辺国が王国に攻めいる。
これは誰の目にも明らかだ。
しかも密偵の報告では日本と接触しようとする動きさえある。
八方手塞がる思いだ。
戦うにしてもアトレーを始めとして名だたる将軍の多くが戦死、もしくはヴァスターやラークの様に囚われの身になっている。
まだ軍の指揮を取れる者はいたが、近衛だったり地方の守備についていたりで動かせない。
講和するにしても外交的接触は初期の頃に自ら断っている。
また、日本と言う国が突然現れている為に中立国を介しての対話もない。
普通なら教会を通して講和の場を持つのだが、日本はファマティー教を信仰してないと聞く。
これでは教会は協力どころか日本を制圧しろとしか言わない。
こうなっては手の打ちようがないのだ。
「最初の交渉から我等は失敗していたのだろうな」
宰相たる立場にある身で、交渉内容に関わりあるカルタスは我が身の不明に敢えて言及した。
その言葉に会議に出ていた諸侯がカルタスに視線を向ける。
「我々はかの国を蛮族としてしか認識していなかった。それがそもそもの間違いだったのだ」
カルタスが疲れた様にため息を吐きながら言った言葉に反論は一切でない。
いや、出しようがない。
何故ならその場にいた諸侯誰もがカルタスと同じ様に見下していたからだ。
「この上となっては国王陛下を守り王家の存続を最優先としたい。何か言うべき事はあるか?」
カルタスの言葉にやや遅れて発言があった。