勝者と敗者3
「貴方が指揮官ですね?」
森が連れて来られたラークを前に聞いてきた。
ラークは奇妙な格好の兵士にも驚いたが、指揮官たる物も相変わらず奇妙な姿なのには驚いた。
何よりも自分を誇示する様に意匠を凝らした甲冑などを着込まず、一般の将兵と変わらない姿をしているのだ。
「貴方が日本の将軍ですか?」
ラークは森の立場を知らないため将軍と思い込んでいた。
「いえ、私は1部隊を預かる立場です。将軍ではありませんよ」
笑いながら答えた森にラークは、1部隊に負けた事実をその時初めて知った。
二人は互いに自己紹介をすると席についた。
「日本の指揮官に尋ねたい」
最初に切り出したのはラークだった。
どうぞ、と言われラークは日本は何処にあるのか?と聞いてみた。
「そうですね、船で1日ぐらい海を渡れば着きますよ」
森の答えにラークは疑問が浮かんだ。
アルトリア領域は未開の地ではあるが海ではたまに船が通る。
だが、島一つ存在しない海域で、しかもそこに国があるとは聞いた事がない。
「失礼ながら、そこは島すらないはずですが?」
森は何と答えて良いか分からなかったが、どちらにしても隠す事でもないので答える事にした。
「今から一月前に別の世界からこの世界に転移して来ました」
森の目は真剣だったが、ラークには信じられない事だった。
「転移?異界からですか?」
聞いた事もない事態にラークは混乱する。
「信じられないでしょうが事実です」
ラークには森が嘘を言っている様には見えない。
だが、信じる根拠がない。
その板挟みに頭を抱えたいとさえ思える。
「我々は別に貴方の国に興味はありません。ですが、貴方の国は我が国に対して非礼にも程がある態度を取りました」
森の言葉にラークは何も言えない。
始めはラーク自身、それが当たり前だと思ったからだ。
「また、我が日本国は人道上、貴国のやり方を認める訳には行きません」
森は先日の村人保護の話をする。
「しかし、異教徒は・・・」
ラークはファマティー教の教えである異教徒討伐が定められている旨を主張したが、その言葉に森は声を荒げた。
「異教徒だから殺しても良いとは思いません。彼等もまた人間です。異教徒であっても救うのが神様では無いのですか?」
その言葉にラークは衝撃を受けた。
ラーク自身ファマティー教徒ではあるが、それが当たり前の世界に生まれたのだ。
だが、それとは別の価値観を突き付けられた時、ラークの中にあった信仰に揺らぎが出来た。
「我々は貴殿方の信じる宗教を否定しませんが、ですが受け入れる事も出来ません。何故なら異教徒だからと言って迫害する様な宗教などあってはならないと思いますから」
そう言われたラークは森が偉大な存在に感じられた。
宗教という垣根を越えてこの男は物を見ている。
そして、隔てなく人々を守るのが宗教だと言われた時、これこそが本来あるべき宗教の姿ではないのか?
と思いだした。
「まあ、私達の方が本来この世界では異端なんでしょう。ですが一つの主義主張や宗教が正しい訳ではありません。こう言う考えもある、とご理解ください」
会談はここまでだった。
だが、ラークに取って得られた物は極めて大きい。
彼等ともっと接する事が出来ればもっと変われるのではないか?
ラークは今までの自分が矮小な存在に感じられ、そこから抜け出すには日本をもっと知る事が必要ではないか、と考えていた。
第11話終了です。
突っ走って急ぎ足でココまで着ましたが如何だったでしょうか?
さて日本の圧勝に終わった戦いですが、まだまだこれからが本番です。
果たして日本はどうするのか?
次回をお楽しみに。
ご意見ご感想心よりお待ちしております。