作戦開始3
制圧された村跡に終結した高橋たちは直ちに始末した兵士たちの遺体などを片付ける。
それを手伝いながらミューリは悲しそうな表情を見せる。
「あんなに平和だったのに・・・」
元々この村出身のミューリからすれば今の村の有り様は余りにも酷いと思った。
皆静かに暮らしていた。
なのにファマティー教を受け入れなかったという、ただそれだけの理由でこの有り様だ。
この大陸ではそれが常識なのかも知れないが、異なる者や異なる思想はそんなに許されない事なのだろうか?
高橋たちを始めとする日本と言う存在と出会う事でその思いは益々強くなっていく。
その時、頭にポンッと手がおかれた。
「そんなに思い詰めるな」
優しい手の感触に思わず顔が赤くなる。
「あ、いえ・・・」
言葉に詰まるミューリに高橋が優しい表情を見せてくれた。
「昔から住んでた村の有り様に色々思うところはあるだろうけど、皆無事だったんだろう?それだけでも良かったじゃないか」
高橋はそう言うと優しく撫でていた手をよけて作業に戻って行った。
ミューリはその後ろ姿に何か熱くなる物を感じずにはいられなかった。
「後は・・・」
井上と佐藤は自分たちの作業が終わり周りを見渡した。
大体片付けた村は何事もなかった様になっている。
しかし、これから撤退してくるホードラー王国軍がここを目印にやってくるだろう。
統率が取れていないなら各個撃破だが、統率がまだ残っているならレンジャー部隊と共に後退を阻止、自衛隊の追撃と合わせて挟み撃ちにして壊滅させる。
それがこの任務だ。
「レンジャーは村の外にクレイモアを仕掛けてるみたいですね」
佐藤がぼー、としている井上に声をかけた。
井上はそうだな、と言うとホードラー王国軍の補給物資、食料を見てみた。
小麦や干し肉などを中心とした食料だが、中には少数ながら生鮮食品もある。
「これ、使えないかな?」
井上の呟きに、傍に来ていた高橋が答えた。
「食品は食うぐらいにしか使えないだろ?」
本来あるべき食品の姿を口にするが、井上は別の考えがあった。
「いやさ、これは一応3万の兵隊に食わせるだけの量だろ?なら食料でも苦労してる日本に役立たないかなぁ・・・と」
いくら目処は立っていても食料生産は一日にしてならない。
やはり現状はギリギリの日本に取って少しでも必要なんじゃないかと思ったのだ。
その井上の考えに高橋が驚いていた。
「・・・お前でも真面目な考えをするんだな」
酷いと言えばあまりにも酷い言葉に井上はがっくりと項垂れた。
「お前、俺を何だと・・・」
「聞きたいか?」
即座に答え様とする高橋に井上はごめんなさい、と何故か謝っていた。
「まあ、このまま焼き捨てたりするよりはマシだろう」
はっきり言って日本から食料を送って貰わないと食って行けない調査派遣隊がこれらを手に出来れば日本の負担を幾らか押さえられるだろう。
「その為にもここで連中を潰さないとな」
高橋はそう言って塹壕を掘る手伝いを井上に指示した。
「よし、食い物の為にもここは死守するぞ」
張りきりだした井上に呆れながら高橋は現金な奴、と感想を持った。
「なあ、アンタらはいつもこんな旨いのを食ってるのか?」
ホードラー王国軍の撤退を無線で聞いた彼等は、ホードラー王国軍が来る前に食事を取っていた。
その時にアインが自衛隊の携帯食料の沢庵を食べながら聞いてきた。
アインの言葉に自衛隊の面々は顔を見合わせる。
たしかに元の世界のレーション関連では世界的に旨い分類に入るが、彼等自身はそれほど美味しいとは思わなかった。
ただ、以前サマワに派遣された事のある高橋と井上は米軍連中の食べてたレーションを交換して食べた事がある。
その時の不味さに比べたらたしかに日本のレーションは旨いのかも知れない。
もっとも、あの不味さから考えたら何処の国のでも旨いのだろうが・・・。
「・・・一度、日本に飯屋に連れて行きたいな」
井上はこの程度で喜ぶアインに呟く。
「・・・普段どんだけ不味いものを食べてんだ?」
逆に高橋はこれで美味しいと言うアインに、レーション交換して喜ぶ米軍兵士を思い出した。
今は在日米軍として来ていたはずだが会う機会は無かった。
「え?なにその反応?」
アインは楽しそうな井上と哀れみの表情の高橋の表情に戸惑いながら次のレーション、鯛飯に手を出していた。
第十話終了です。
凄惨な戦いとそれに伴い新たに巻き起こる戦い。
その合間の一度の急速をイメージしてみました。
それはさておき記念すべき第十話です。
如何だったでしょうか?
正直、この戦いは日本に取って必要なのか?
別のやり方もあったはずでは?
と書きながら思ってたりします。
しかし、彼等は生き残るためにも戦いを選択した(させてしまいました)以上は中途半端な終わりは許されません。
次回からはそんな彼等の苦悩も上手く書ければ、と思います。
では次話でお会いしましょう。