作戦開始
ついに決戦の火蓋が落とされる。
しかし日本は既に2手3手先を見ていた・・・。
そして、日本は遂に・・・。
第10話「作戦開始」お楽しみいただけると幸いです。
ホードラー王国軍は総勢3万を駆り自衛隊の丘を目指した。
途中、狭い平地でクレイモアが炸裂し将兵を吹き飛ばしたが、あまりにも多くの兵士が殺到してくるためその勢いもあり心理的効果は一部分にとどまってしまう。
だが、自衛隊もクレイモアだけで撃退出来るとは元から思っていなかった上に、この機会にホードラー王国軍を壊滅させようと図っていた。
「撃ち方始め!遠慮は要らん!ありったけ撃ってやれ!」
伊藤が丘の上に設置した砲撃観測所より指示を飛ばす。
脇に控えていた64式81mm迫撃砲から次々に撃ち出された迫撃砲弾が殺到するホードラー王国軍に降り注ぎ吹き飛ばして行く。
更に接近を阻む様に各塹壕にこもりし自衛隊員が手にした89式小銃やMINIMI、更には後方に配置した155mm溜弾砲がホードラー王国軍を逃がさぬようにその退路に容赦の無い砲撃を行った。
開始から一時間経たずに接近出来ないホードラー王国軍は自衛隊に良いように攻撃され後退も出来なくなっていた。
アトレーの近くに着弾した迫撃砲弾がアトレーを守る護衛兵をバラバラにする。
そのおかげもありアトレーは無傷だったが、アトレーは全身に土と血と肉片を頭から被っていた。
見事な意匠を凝らされた白銀の鎧は無残にも赤黒く汚れていた。
「な、何なんだ!?一方的過ぎるではないか!?」
ある程度の力があるとは思っていたが、見ると聞くでは違い過ぎる。
自衛隊の圧倒的な火力の前にホードラー王国の精鋭軍が手も足も出ない。
「こ、これでは・・・虐殺ではないか!」
アトレーの例えは正しい。
だが、今までやる側だった者が今更自分がやられる側になったからと言って非難できる立場ではない。
それでも彼等の中ではそれが「正しい」のだろう。
そんな彼らに降り注ぐ弾丸と砲弾は今まで好き勝手やってきた彼等にたいする裁きの様だった。
逃げ惑う者、果敢に攻撃に向かう者、ただ呆然とする者、神に救いを求め祈る者・・・。
それぞれが等しく死に直面し、そして惨劇の煙幕により塗りつぶされていく。
それを行いし自衛隊もまた苦しんでいた。
初めての戦争が一方的虐殺の様相になったため、攻撃を行いたくないものが続出したのだ。
ある意味、戦後日本の最大の弊害である「自分だけは正義の味方である」的な思考だ。
それは平時においてはうっとおしいだけの存在だが、この様な殺るか殺られるかの状況では足を引っ張る。
案の定、一部で攻撃が弱体化し、その分ホードラー王国軍が突出してきてしまう。
だが、89式戦闘装甲車の35mm機関砲が接近してきたホードラー軍を軒並み吹き飛ばしてしまう。
目の前で自分達が作り出した惨劇に耐えられる者はともかく、耐えられないものは発狂してしまったり、戦闘拒否して自らの行いに統帥していた。
そんな彼等は気付いていないのだろうか?
彼等の肩に乗るものは決して軽いものではない。
保護した村人の命、日本国民の生命と未来を背負っている事を・・・。
彼等が戦わねばそれらが犠牲になると言うことを・・・。
だが、自衛隊は軍隊だ。
名目では軍ではなくても軍隊なのだ。
だからこそ、例え虐殺の様になっても、自らの主義主張と違えども所属する以上は軍人なのだ。
そして日本と言う国家そのものを背負った防人なのだ。
だから・・・だからこそ、意思ある者は最後まで気を緩めず引き金を引き続けた。
例え殺人者、虐殺者と言われても国を守り、国民を守れたなら本望と言わんばかりに・・・。
結果、ホードラー王国軍はこの日の攻撃を諦めた。
否、壊走した。
圧倒的な火力を前に3万の兵力による総攻撃も一日で崩壊し、戦う何どころでは無くなっていた。
日本が唯の一回の戦いで戦争に勝った瞬間であった。
しかし、まだ王国内には戦える力がある。
逃げた兵もまた集い(強制的に集結だが)、牙を剥くだろう。
それを防ぎ、王国の戦意を根本から打ち砕くために高橋たち特殊任務部隊は協力者たるアイン、シャイン、ミューリと作戦に参加する将兵と共にレンジャー部隊と合流し、後方を遮断していた。