思惑
第9話です。
早いのか遅いのか・・・w
まあ、何はともあれお楽しみください。
アルトリア領域南部での戦いは以外な事に膠着状態に陥っていた。
圧倒的な戦力を持ちながらも、一度の戦いでホードラー王国軍主力を完膚なきまでに叩きたかった日本。
そして本隊を待ち、その本隊到着を待って攻勢に出ようとするホードラー王国軍。
両者の奇妙な膠着状態は3日続いた。
その間も自衛隊は毎度毎度嫌がらせ的ゲリラ戦術でもってホードラー王国軍を翻弄していた。
だが、自衛隊側も苦しい状況だった。
どんなに圧倒的戦力を持とうと武器弾薬には限りがある。
日本本国より補給は来るが、海という存在が補給を難しくしていた。
何より、海に隣した調査派遣隊基地には未だに港湾設備がなく、荷の上げ下ろしに一苦労なのだ。
そのため、3日間の間は日本は補給、ホードラーは本隊を待つ為に互いに陣に引きこもっていた。
「ホードラーの本隊が到着する模様です」
森に潜伏するレンジャー部隊からの連絡に指揮所の空気が引き締まる。
これから始まる戦いの凄惨さを想像したのだ。
「やっと来たか。機動力が悪いのだな」
現代戦術から考えれば先鋒軍の展開もそうだが、戦力の展開が想像よりも遅くなる。
「それは仕方ないでしょう。基本的に軍のあり方が我々とは異なるのですから」
森の言葉に柿野が答える
「我々は緊急展開を常に準備してきましたが、彼等は開戦が決まった時に兵と物資を集めます。そして移動は基本的に徒歩ですから」
戦国時代の戦術、戦略をつぶさに研究してきた柿野ならではの答えだ。
この答えはその場の全員に自分たちは反則している気持ちになった。
何せ此方はある程度ではあるがホードラー王国軍の動きが予測できる上に、中世レベルの戦力を相手にするのだ。
現代知識や装備を持った自分たち自衛隊はオーバースペックどころか、最早、反則ではないか?と思えるのだ。
「さて、取り敢えずホードラーの主力が合流した様ですが、一気に踏み潰しますか?」
柿野の提案に森が首を横に振った。
「何があるか分からない以上は無駄に弾薬の消耗はすべきではない。万全の体勢を取るためにも補給を待ってからやりたいな」
慎重になり過ぎれば臆病者呼ばわりされかねないが、展開する自衛隊員を預かる森は慎重に慎重を期したかった。
森の言葉に伊藤は即時攻撃で相手を付け上がる隙を与えずに戦意を挫いた方が良いと思った。
が、やはり森の判断を尊重した。
伊藤は勇猛ではないがやるべき時は徹底的に、が持論だ。
されど今回ばかりは慎重の方が良いと考えた。
何せ先日、保護した村人のなかにいた若者が食料を運ぶ手伝いをしてくれたのだが、その中のシャインと言う少女が魔法の存在を教えてくれたからだ。
呪文の詠唱で何も無いところに炎を産み出したりするその力を前に自衛隊の幹部のみならず、魔法がおとぎ話でしか存在しないと思っていた日本人は驚愕していたからだ。
この時ばかりはシャインは自衛隊でも知らない、もしくは使えない力があると知り得意になっていた。
そのシャインから魔法を使える人は素質の問題から極めて少ないが、国がそれなりの数を抱えていると言った。
射程はそれほど長くない様だが威力は侮れなく、この情報により下手な接近は無用な犠牲を強いると判断されたのだ。
また、中には治療の力もあるらしいので、万が一にも発見した場合は本人の意思にもよるが積極的に確保したいと思っていた。