圧倒4
隠れる場所もない平地で我先に逃げようとする王国軍兵士は、容赦なくクレイモアと狙撃の餌食となっていく。
特に騎兵などは良い的だった。
他より目立つ分、狙いやすく撃ちやすい。
指揮官を重点的に狙っていたが、流石に完全な見極めなどできない為、誤認された不運な騎兵が狙撃で馬上より叩き落とされていく。
最早夜襲どころではなくなった王国軍部隊は散り散りに逃げ惑うしかなくなっていた。
結局、王国軍は戦果を挙げるどころか、ただ損害を増やしただけで終わった。
その報告を受けたラークは損害の多さに絶句していた。
主だった面々は軒並み討ち取られ、500の兵も陣に戻って来たのは僅かに80名程だ。
実際の損害はそこまでないとしても、初日だけで4000の戦力の1割が失われたのだ。
「・・・奴等は悪魔なんて生易しい物じゃないぞ」
ラークは口を重々しく開いた。
余りにも常軌を逸した損害に目が眩む思いだった。
「日本と戦争したのは間違いだったかもしれんな」
自分の配下しかいないのもあって憚る事なく言う。
勿論、異を唱える者はいない。
誰もが同じことを考えていたからだ。
これは・・・王国は自らの滅びを選択したのかも知れない。
ラークの中に芽生えた日本に対する恐怖心は、ラークに予感めいた物を感じさせた。
翌早朝。
まだ日も出ていない時間帯でありながら森の中に動くものがあった。
王国軍が来る前に森の中に潜伏したレンジャー部隊だ。
彼等は無言で森の各地に掘られた蛸壺陣地から這い出ると素早くホードラー王国軍の陣地に近付いていった。
あまり接近しすぎて発見される愚は犯さず、ただ所定の位置に着くと素早くL16 81mm迫撃砲を組み立てた。
このL16はイギリスで開発された物を日本がライセンス生産していた物だ。世界各国に採用されるほどで、何よりも81mmクラスでありながら36.6㎏と言う圧倒的な軽量さがある。
日本の64式81mm迫撃砲が52㎏ある事からもその軽量さは断トツである。
その軽量さを生かしてレンジャーは敵地にありながら逆奇襲のためにL16を持ち込んでいた。
あっと言う間に組み立てられたL16は、事前に行われた調査を元に射角を調整し射撃体勢に入る。
無言で81mm迫撃砲弾を数発撃ち込んだレンジャーは組み立てた時と同じ様に解体して森の奥へと姿を消していった。
その頃、まだ眠りに付いていたラークは激しい爆発と振動に慌てて剣を持ち天幕を飛び出した。
何度か起きた爆発により辺りは血と肉片と死にきれなかった負傷者のうめき声や悲鳴が支配していた。
無事だった兵士が負傷者を救助に向かうが、中には兵士が眠る大型の天幕を吹き飛ばした物もあり、その被害は相当なものになっていた。