圧倒
さて、8話目になります。
ついに衝突する日本とホードラー王国。
数で勝る王国軍は、自衛隊を打ち破らんと挑んでゆく・・・。
今回の第8話、ちょっと長くなります。
では第8話「圧倒」お楽しみください。
―――6月5日アルトリア領域ホードラー王国国境付近。
高橋たち特別任務部隊、総勢30名が早期警戒部隊として派遣されていた。
ここは初めてホードラー王国の騎兵と戦ったところだ。
「またここに来ちまったな」
ちょっとした要塞の様になった丘を懐かしそうに眺めた。
本の二週間ばかり前に来たばかりだったはずなのに、ずいぶんと訪れていない様な気分になる。
それだけ今までか充実していたと言う事だろう。
だが、高橋たちはまたここに立っている。
それもホードラー王国からの攻撃を食い止めるために・・・。
ホードラー王国との交渉決裂(交渉ですら無かったが)により、いつ軍勢が押し寄せて来るか分からない。
その為にここには特別任務部隊以外にも多数の部隊が展開していた。
丘の後ろには特化大隊が展開し、丘の稜線沿いには89式装甲戦闘車四両、丘の中腹には高橋たち特別任務部隊の他に三個普通科大隊が配置についている。
更に平地にはクレイモア対人地雷が設置されている。
流石に戦車は燃料の問題から来てはいないが、この戦い如何によっては今後の行動はますます難しくなるだろう。
それでもやらない訳には行かない。
ここでホードラー王国軍を壊滅状態にしなくてはならないからだ。
「奴等・・・来ないな?」
M24狙撃銃を手に井上が愚痴る。
いつまでも来るのを待つぐらいなら此方から攻めた方が有利なのだが、あくまでも先制攻撃は向こうにさせなくては国内の反対派がうるさいのだ。
下らない形式だとは思うが、一度でも攻撃を受ければ逆撃し逆に敵地に乗り込める。
「油断するなよ。奴等も軍勢は揃えているはずだ」
高橋はそう言って双眼鏡を片手に森を眺める。
さすがに森の中を見通せる物でも無いのだが、何となく何かしてないと不安なのだ。
「しかし、特別任務部隊と言ってもやることは普通科と同じですね」
分隊支援火器MININIを拭きながら佐藤は不満げだった。
もっと別の任務になると思っていたのだ。
「そりゃあ仕方ないさ。本格的に稼働する前だったんだから」
そう良いながら特別任務部隊の任務について思い返していた。
与えられる任務は司令部よりから直接与えられる。
つまり司令部直轄の実働部隊なのだ。
多分、一番厳しい状態の所に送られるんだな。
と諦めた気持ちになっていた。
「その代わり優先的に補給を受けれるんだから感謝しよう・・・」
微妙な顔になっていたが高橋はそう言って自分を誤魔化した。
「そうだな、おかげさまでまともな狙撃銃が支給されたし」
井上は陽気に支給されたM24のスコープを覗いた。
その時、各所に配置された無線のスピーカーが敵の襲来を告げる。
「センサーが多数の移動物を探知、総員配置に着け」
後方の指揮所からの報告に全員が塹壕に入り込む。
「安全装置解除、井上たちは後ろから指揮官を見付け次第優先的に排除、佐藤たちは敵の突出に備えろ」
高橋の指示にそれぞれが素早く移動する。
高橋たちのいる敵正面はもっとも激しい攻撃さらされるだろう。
だが、相手を攻撃可能範囲まで入れるつもりはない。
此方は持てる火力で相手を粉砕する。
高橋はそう思いながらも、本当は戦いたくない思いに駆られていた。
前方に目的の丘が見えてきた。
以前、今は無きアンストン卿が初めて日本と接触した地だ。
その敵を今こそ討たん。
ホードラー王国先陣4000を率いるラーク・カドミック子爵は決意していた。
「どうやら奴等は既に布陣していたようです」
配下の報告にラークは丘を見る。
なるほど、総勢800程度の兵が見えた。
実際にはまだ居たのだが、塹壕に隠れていて見えていないのだ。
「ふむ、数が少ない様だが・・・伏兵か?」
ラークは慎重に辺りを確認するが、伏兵らしきものが居るとは思えない。
「周辺を偵察しましたが、特にそう言った物は確認出来ません」
言われてラークは少し警戒した。
アンストンは隠れていた兵により討たれたと聞いていたからだ。
「よし、先ずは一度当たって様子を見るか」
ラークは自分の判断を即座に実行させた。
様子を見るために動かされたのは1000名程の民兵と、1500名程の傭兵部隊だ。
「弓兵は如何しますか?」
配下の話にラークは頭を横にふった。
800程の弓兵の弓では射程が短く届かない。
「ここで使うよりは後で使おう。先ずは小手調べだ」
そう言うと右手を行け、とばかりに振る。
それを見た各部隊の隊長がラッパを吹かせた。
辺りにラッパの音色が響き渡り、その音色を合図に民兵が槍を構え前に歩き出した。
「横陣か・・・中世ヨーロッパみたいだな」
高橋はホードラー王国軍の動きを見て以前の騎兵の突撃よりはマシだと思った。
「まだ撃つなよ・・・」
その指示は高橋自身にも向けられていた。
この距離でも当たるが、相手にそれを悟らせない為だ。
と、突然民兵の一角で爆発が起きた。
どうやらクレイモア対人地雷に引っ掛かった様だ。
爆発のあった箇所では大半が死傷していた。
彼らの戦い方の常識がどうなのかは分からないが、密集していたのが仇になっている。
爆発に民兵や傭兵に動揺が走るが、後退指示はなかった。
そして今度は盾を構えて注意深く接近を再開する。
だが、今度は二発のクレイモアが起爆され、更に多数の死傷をだす。