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共存への出発地点2

そんなミューリの眼差しに井上が苦笑いを浮かべた。

「いや、流石に今日明日じゃ出来ないから。一週間は見て貰わないと・・・」

とは言うものの、それでも早い。

川までの距離にもよるが数日で出来るなんて魔法の様だ。

だが、高橋が井上のセリフを訂正する。

「井上、そんなレベルじゃない。二、三日もかからん。施設科舐めんなよ」

最近、様々な科の事も学ばされている高橋は知ったばかりではあったものの、施設科の並外れた気合いと根性と情熱(施設科責任者談)から、奴等ならやる。と断言した。

「・・・なにその愛と勇気な物語は?」

呆れた様な井上の様子に高橋が施設科がそう言っていたと告げた。

「ええ~い!日本の技術者魂は変態か!」

説明を聞いた井上が叫ぶ。

そんな井上を見たミューリは全力で引いていた。

「ほら、アホな事は良いから仕事だ」

高橋の言葉に井上が唖然とする。

「え?今日は休みだよ?仕事なんか無いよ?」

ふざけた調子の井上を叩きながら高橋は良い笑顔を浮かべた。

「たった今仕事が出来た。なんで休み返上で働け」

悪魔の様な話に井上はただ呆けるしかできなかった。

「施設科が来る前に村人と何処にどう水路を掘りたいのか確認する事、並びに耕作地の確認だ」

休みで暇だったとは言え、ホイホイと高橋に着いてきたのが間違いだったと井上は後悔していた。

「俺の休みはどっちだ・・・?」

井上のぼやきに答える者は居なかった。


高橋は村人(難民と呼ぶのも悪いと思った)から希望する畑の規模や水路の配置を確認している。

紙や鉛筆を使い簡単な概略図を使っての説明に、村人たちは頻りに感心していた。

高橋たちにとっては紙や鉛筆は子供のお小遣いで気軽に買える代物だが、彼等に取っては凄まじく珍しい高級品だ。

そもそも紙は羊などの皮を使った羊皮紙(正確には獣皮紙)で、かなり高級な代物だ。

そして鉛筆などは存在せず、墨や顔料、染料を使った混合物のインクを羽ペンなどにのせて使う。

だから、削っただけで物が書ける鉛筆は王候諸侯でも持ってはいない。

そんな本来の目的からずれた光景に高橋は教育が重要だと再認識した。


「取り敢えず大体は出来ましたね」

簡単ではあるが大まか水路の配置と畑の耕作面積から高橋は大規模な工事にはならないと判断した。

だが、いずれはしっかりとした工事をして面積拡大も視野に入れなければなるまい。

それは治水、つまり水害対策の観点からも必要な事だった。

「何から何まですみません」

村人の代表である長老が高橋に頭を下げた。

彼は支配者がその支配する民衆にこう言った事業をする事などまず無かった為、高橋たちの施しの厚さに恐縮していたのだ。

「いえ、市民に最低限の生活を保証するのは国の役目です。日本の市民となりたいと言う皆さんの申し出からすればこれぐらいは当たり前です」

信じられない話ではあったが、高橋の話を聞いて長老は納得できた。

日本はそうやって発展してきたのだろう。

支配者が民衆を支配して搾取するのではなく、民衆が富めば国も富むを実践してきた。

だからこうも手厚く接してくれるのだと・・・。

「まあ、流石に即完成、とは行きませんが近日中には形になると思います」

高橋の柔らかい物腰にだんだんと信頼が寄せられて行く。

狙ってやっていないのが高評価につながっている。

「それまでは取り敢えず開墾して置いてください。農業支援もそれまでに来ますから」

先日決まった調査派遣隊の規模拡大と増員に伴い、高橋は北野を通して支援体制の確立を要請していたのだ。

単に食わせる為の支援ではなく、自立して生活する為の支援は必要な事だった。

「農業支援・・・ですか?」

長老の疑問に詳しくは後日になりますが、と高橋は前置きした。

「肥料や作物の苗、種や農具の一部、そして効率の良いやり方などです」

高橋は彼等村人たちにより収穫が望めるやり方がある事を説明した。

これには調査派遣隊に追従してきた専門家が協力してくれる事になっており、日本からの支援が到着しだい指導する事が決まっていた。

そんな中、村人の一人が不安げな表情で高橋に聞きたい事があると声をあげた。

「税はどのくらいですか?」

その村人の言葉に誰もが騒然となる。

確かにこれだけの援助をされたら、徴収される税は半端なく高くなる。

今までの支配者とは違うとは分かっていても、やはりそこは気になる事だからだ。


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