混乱2
日本が見知らぬ世界へ転移した原因は分かっていない。
しかし、以前から僅かばかりではあったが予兆は存在していた。
例えば衛星からの画像で日本だけが写らなかったり、日本全土で体感可能な群発地震が発生したり、一時的に日本国外への一部地域で通信が不能になったり、と・・・。
それらの不可解な事態に関連性は認められなかったが、とある学者が磁場の著しい乱れを観測し、それが日本の転移に繋がると唱えたのだ。
しかし、世間一般から見ればそんなのは狂人の戯言に過ぎない。
当然の事ながら誰も信じなかった上に、その学者は虚言を理由に学会から追い出されてしまった。
だが、学者はそれでも自説を曲げず、遺書として幾つかの予言を残し命を自ら絶った。
その遺書は総理官邸あてに送っていたのだが、当然ながら総理の手に届く事は無かったはずであった。
米国では大統領あての手紙はどんなものであれ、実害が無ければそのまま届くが、日本ではそうは行かない。
内容次第ではあるが、大抵はゴミ箱行きだ。
しかし、この遺書もゴミ箱行きだったのだが、どう言う手違いか鈴木の手に届いたのだ。
鈴木も初めは与太話程度にしか思わなかったが、突拍子もない内容だったが気分転換に読んでみた。
その後、読み終わった遺書は机の肥やしにされたが、ある日起きた通信障害が鈴木の意識を再度、この遺書に向けさせる事になる。
それは平日の真っ昼間に起きた。
---12時21分
その時刻を持って日本全国で一斉に通信障害が発生したのだ。
それも有線、無線問わずにだ。
しかもその障害は15分間続き、後の試算で数百億もの経済的損失を発生させた。
全国で混乱が起き、鈴木も出先から総理官邸に急遽戻る羽目になった。
しかし、短時間の出来事だったため、最終的に通信は回復し、以後目立った動きはなかった。
そのため鈴木は総理官邸に戻ってから原因の調査と損失の調査を指示し、再び予定に戻ろうとした。
だが、鈴木は言い知れぬ不安に襲われていた。