選択と行動2
だが、伊達が考えるより鈴木は更に辛辣な事を考えていた。
それは鈴木自身に取っても・・・。
「まあ、私は独裁者らしいからね。その独裁者の決定なら仕方ないだろう。私の後に総理になる人には全責任を私だけに被せる様にしてもらえば禍根は私だけに向かうからね」
自虐的でも、悲観論でもなく、ただ将来を考えて自分を生け贄にしようとしていたのだ。
「ちょ、ちょっと待て!それでは名誉の回復など出来んぞ!」
慌てた様子の伊達を珍しい物を見た様な目で見ながらも鈴木は、その覚悟の下に判断している。
そう言ってのけた。
「・・・まあ、その時は付き合う、と言うか付き合わせろ」
伊達は鈴木の奥底にここまで深く、悲しい覚悟がある事を見誤っていた。
そう言う意味でも鈴木の判断に任せようと思った。
―――同日、大陸調査派遣隊基地。
先日の戦闘から今日で5日目。
今のところホードラー王国に目立った動きはない。
明確な線引きはされていないが国境と思われる(戦闘のあった丘)辺りには監視塔や簡単な陣地、そして警戒の為に一個小隊が配置されていた。
しかし、高橋たちは基地内にいた。
先の戦闘に伴う一連の行動や言動に問題があるとして取り調べを受けていたのだ。
そして、一連の行動は高橋だけの行動とされ、槍玉にあげられ拘束、査問委員会まで行われていた。
今日はその査問委員会の最終審理の日だ。
「・・・以上の事から自衛官として不適切な言動、行動があったとされます。また、明らかにこれは一方的な虐殺に等しく、厳しい処分を降すべきと判断されます」
外務省から派遣されている官僚の一人が声高く発言する。
正義感に溢れ、自身の主張に間違いはない、と言う自信の現れた態度ではあったが、高橋自身、概ね間違ってないと思えた。
「異議あり。高橋一等陸士は政府から全権委任された外務省の北野氏公認の下に行動したのであり、そこに何ら問題とすべきものはありません。ましてや、こちらの話を聞かずに仕掛けて来たのは向こうです。高橋一等陸士の責任とするには強弁がすぎると思われます」
弁護に立った若い弁護士が真っ向から官僚と対立する。
この二人のやり取りを聞きながら高橋は好きにしてくれ、と思い始めていた。
何せ平行線をそのまま引き延ばしているに過ぎないのだ。
いい加減うんざりしてくる。
「自衛官は自衛隊に所属し、如何なる場合においても日本国憲法、及び日本の法律に従わねばならない。全権委任などがあっても自衛官は日本の法に従わねばならない」
官僚は弁護士に法と言う盾をかざした。
ただ、法律の専門家である弁護士相手に使う物ではないのでは?
高橋は先日の戦闘の時とは打ってかわって暢気にそう思った。
「これは緊急避難を適用出来る案件です。ならば法から外れても問題はないと判断できます。また、あなたは高橋一等陸士は日本の法に従い、無抵抗で戦死すればよかったと言いますか?」
弁護士が極めてキツい口調で反論する。
(半分挑発じゃないか?)
自分の弁護をしてくれてる弁護士に対し、心のなかで突っ込みを入れる。
「それは極論です。例えどの様な状況であれ自衛官は法に従わねばなりません。また、それが死ぬ事に繋がってもそれもまた任務であると言えます」
流石に自分で反論したい思いに駆られたものの、一応弁護士と相談して対処を決めていた高橋は自身の憤りを押さえ込んだ。
「では、高橋一等陸士のみならず、同僚及び難民にも犠牲が出るとしても、それでも無抵抗であれと言うのですか?」
ようやく官僚から反撃の機会を得た弁護士は意気揚々と用意していた対処をする。
しかし、外務省官僚も負けじと反撃していた。
「それは推測であり結果ではありません。本査問委員会は結果についての是非であり推測に対しての是非ではありません」
冷静を装いながらも、僅かに動揺している様が見て取れる。
ここまで来たら高橋は両者どちらが勝つかと他人事の様に観戦する一人になっていた。
「結果だけで言うならば与えられた任務をこなし、更に難民、同僚にも犠牲者を出さなかった彼の判断を尊重し、評価すべきです」
これで詰みだ!と言わんばかりに弁護士が切り込む。
流石の官僚もたじたじになっていた。
だが、勝敗は決まらなかった。
外務省調査派遣隊責任者の北野が来たからだ。
「茶番劇もいい加減にしなさい」
冷徹な目が査問委員会に注がれる。
北野は官僚から問題とすべきだと言われ、やりたきゃ勝手にやれと答えていた。
しかし、延々と引き延ばされる査問委員会に、貴重な時間をかけてる場合じゃないと考えてここに北野だ。
最も、問題とすべきだと主張する部下の能力を把握する意味でも有効ではあると思っていたのも事実だ。
「本査問委員会は私の権限により終了とします」
北野の一方的な宣言に部下の官僚は不満を露にする。
弁護士は弁護士で不完全燃焼気味だ。
「しかし!これでは政府の統制が!」
食い下がる官僚に北野は冷たくいい放った。
「君はバカか?いや、アホだな」
北野の言葉に査問委員会に沈黙が支配した。