選択と行動
難民を保護し、新しき世界の文明を持つ国家と戦った日本。
その両方に難問を抱えたままでありながら日本は次の一手に打って出る。
それは日本に存在する因縁との惜別のための決断だった。
第5話・・・「選択と行動」お楽しみください。
―――5月20日、日本内閣総理大臣執務室
難民の保護、及びホードリー王国と呼ばれる国家との交戦についての報告書を読み終え、鈴木は疲れた目に手をやった。
いくら何でも早まったか?
だが、鈴木は即座に思い直す。
日本を救う為には鬼にならねばならないと自身で誓ったからだ。
「難民の処遇だが、どうする気だ?」
鈴木から読み終えた報告書を受け取りながら伊達が鈴木に尋ねた。
日本は元々難民や亡命を原則的には認めていない。
もしくは受け入れない様にしてきた。
それは元々の世界における地理的位置関係と国土面積や人口の観点から、やむを得ない処置と言える。
当時は移民をもっと受け入れろ、と言うのが多かったな。
鈴木は思い返して少しだけ当時を懐かしんだ。
だが、いつまでもそうしては居られない。
やる事は山積みなのだ。
「取り敢えず、方針が決定するまでは現地で保護をつづけさせろ。必要な物は送ってやってくれ」
鈴木の判断に伊達が口を挟む。
「ただ飯食らいを養う余裕はないぞ?ただでさえ食い扶持が多いんだぞ」
伊達は立場上、苦言を言わねばならない。
鈴木の判断を両手を挙げて受け入れてはならないのだ。
それを分かっている鈴木は苦い笑いをしながらも、現地の情報料代わりとしてくれ。
とだけ言った。
「それならば仕方ないな。それに情報と引き換えならただ飯にはならんしな」
伊達も正直強弁がすぎると思ったが、それしか無いのでそれに従った。
「まあ、後々は現地で普通に働いて貰うさ。彼等に日本の下に付く気があれば、だがね」
鈴木自身抱えている疑念をそのままに告げる。
「考え過ぎだ。彼等の話じゃ行く当てもないらしいし、普通に日本の保護下に入るさ」
そう言ってやや楽観的な意見を伊達は口にした。
しかし、次に鈴木が口にした疑念は伊達だけではなく閣僚全員を悩ますことになった。
「日本国民と現地人の扱いをどう区別するかだよ」
この一言に伊達も体が強ばった。
「・・・それは・・・難問だな」
伊達はそこまで考えてなかった自分の迂闊さを呪った。
「もし彼等が日本の保護ではなく、日本の市民として生きる事を選択したとして、国民とするのか在日外国人とするのかが問題だ。国民とするのは間違いなく現在の在日外国人と摩擦になるだろう。そして在日外国人とした場合は今度は日本人との間に摩擦が生まれかねない。最悪、不穏な在日外国人と組まれでもしたら現地から追い出される可能性もある」
鈴木の追い討ちとも取れる話に流石の伊達も声を失った。
転移前から日本には在日外国人と呼ばれる人々がいた。
日本が転移した為に祖国に帰れなくなった在日外国人の中には、暴動を起こすものがいた。
その為、現在は在日外国人の帰化制度の停止、取り分け特定アジア出身者に対しては秘密裏に監視対象にさえしていた。
残念な事に特定アジア出身者がもっとも暴動などを含めた各種犯罪を多く起こしていた為だ。
酷いのになると、配給制にした食料、燃料を強奪したり、保管庫に押し入ったり、はたまた、それら盗品を闇市で売りさばこうとしたりした。
それらは何とか食い止めたが、氷山の一角であるのは明白だった。
「はっきり言ってどっちを取っても問題しかないな」
伊達はそう言って日本に巣くう獅子身中の虫の大きさに辟易とした。
「伊達の台詞ではないが、ただ飯食らいの厄介者を飼う余裕はない」
腕を組ながら冷たい感じでいい放つ鈴木に、伊達は一瞬強ばる。
こいつはこう言うのがあるから侮れん。
率直かつ、長年親交を持った伊達ならではの心中だった。
「いっそ、適当な土地を与えて独立でもしてもらうか?」
鈴木が続け様にいい放った言葉に伊達も絶句してしまった。
「日本と共に生きる気がないなら日本に居て欲しくない。そもそも、我々から居てくださいと願った訳じゃない上に不法入国者の子孫が大半なんだからな」
本来、公然の秘密である在日外国人(取り分け特定アジア出身者)をはっきりと厄介者としたのだ。
だが、確かにいい案でもある。
問題は、転移して大変ではあるものの、住みやすい日本を大人しく離れるか?
ではあるが・・・。
「国民が、と言うよりマスコミや野党が煩いんじゃないか?」
鈴木の恐るべき発言に伊達は心胆寒からぬ思いをしながらも、今後に禍根を残すのではないか?
と思い、伊達には珍しく慎重な意見を述べた。
「なに、元から存在しない禍根をさもあるように作り出して来たんだ。今更新しい禍根など・・・それに、嫌われ者の私を更に嫌われ者にしようと嫌われ者には変わりないさ」
大した事でもないと笑う鈴木の姿に、本来在るべき公僕を見た気になった伊達だった。