撃退2
「奴等は何処だ?」
アンストンは平地に出たものの予想する攻撃を受けない事に疑問を持っていた。
目の前には狭い平地と細い道、そして打ち倒された騎兵の屍が転がっている。
「まさか・・・増援を呼びに行ったのでは?」
部下が考えられる可能性を口する。
しかしアンストンはそう思わなかった。
「馬鹿馬鹿しい。異教徒に援軍があるなら逃げ出す事もあるまい。大方、異教徒らしく汚い罠でも仕掛けているのだろう」
アンストンは逃げ帰った部下の曖昧な報告に見向きもしなかった。
妙な男の放つ魔法にやられたなど信頼性に欠ける。
そもそも放つ魔法が離れた位置から人の体に穴を開けるなど信じられない。
「アンストン卿!丘を御覧ください!」
アンストンは突然の声に思考を止めて丘を見る。
そこには妙な格好をした男が一人立っていた。
「ほう、なるほど、奇妙な姿だな・・・だが!」
アンストンは剣を振り上げ前進を命じた。
「そんなこけ脅しに屈する私ではない!」
その様子を見ながら高橋は背後から近付いてくる音を聞きながら、目の前の集団に向かって銃を構える。
「どうやら、こちらの勝ちの様だな」
高橋の自信にミューリが不思議そうな顔をする。
先程は逃げるのに必死で高橋たちがどうやって騎兵を追い返したのかは分からない。
だが、あれだけの数を前に何故ここまで落ち着き払っていられるのか?
そして段々と近付いてくるこの音は何だろうか?
だが、今ミューリに言える事はただ一つ。
この人たちなら・・・どうにかしてしまうかも知れない。
そんな気になった。
「全軍、突撃ぃぃぃ!」
アンストンが突撃を号令する。
それに伴い300もの騎兵集団が一気に丘を駆け上る。
そして高橋の元に向かい殺到してきた。
それこそが高橋の罠とも知らずに・・・。
「ははは、本当に横陣を取らずに来やがった・・・」
笑いと共に高橋の作戦が上手く機能していることに井上はそら恐ろしささえ覚えた。
「あいつが敵じゃなくてよかったぁ」
井上の呟きが終わった直後、高橋が合図の銃弾を放った。
僅かな後に騎兵の先頭集団に正面とその左右から銃撃を喰らわせる。
教科書に載せたいほど理想的な十字砲火だ。
2方向からでも十分な攻撃力を発揮する十字砲火は、射線が丁度十字を描くように行う。
これにより本来、線にしか発揮出来ない攻撃力を面で行える。
これが3方向ともなると逃げ場さえなくなる。
この中に入り込む事は死地に飛び込むのと同義になる。
そして、それはアンストンの騎兵集団で現実の物となった。
「なんだ!?なんなんだ!!」
アンストンが怒声をあげる。
アンストンの騎兵部隊が為す術なく打ち倒されて行くのだ。
辺りは一気に悲鳴の嵐を巻き起こす修羅場となっていた。
「み、味方が!」
騎兵の一人がそう言った瞬間、頭を撃ち抜かれて地面へと落下する。
アンストンは何も出来ない状況に怒りを露にした。
「えぇぇい!進め!進まんか!進まぬなら私が斬る!」
そう叫ぶと前に行こうとしない部下を切り捨てる。
「進め!それ以外に神の信徒たる我々に取るべき途はない!」
このままではただ殺されてしまう。
しかしだからといって味方に殺されたくはない。
萎えた戦意を奮い立たせて騎兵は丘の上をひたすら目指した。
味方の死体を文字通り踏み越えて・・・。
だが、それは更なる絶望へと繋がる事になる。
流石に高橋たちの所持弾薬から言って300の騎兵と正面切って戦う事は不可能だ。
このまま前進されれば高橋たちこそが為す術なく蹂躙されるだろう。
だが、既に高橋たちの直ぐ背後に援軍が駆けつけていた。
『こちらワルキューレ、目標を捕捉した。これより攻撃を開始する』
爆音を轟かせて姿を表したのは陸上自衛隊の多用途ヘリコプター、UH-1J「イロコイ」だった。
ベトナム戦争に初登場し以来、世界各地で現在も活躍している多用途ヘリコプターだ。
UH-1Jイロコイは固定武装を持たない。
逆に言えばある程度武装を自由に選べると言うことだ。
そして、今飛んでいるイロコイは機体左側面にM134ミニガンを積んでいた。
本来、自衛隊はミニガンを装備していなかったが、一緒に転移して来ていた在日米軍(彼等の現在は後程)から供給されたのだ。
そしてイロコイが左側面をアンストンの騎兵隊に向ける。
そこから突き出ているミニガンが凄まじい勢いで銃弾を吐き出した。
その瞬間、アンストンの目の前で騎兵が馬もろとも肉片へと姿を変えていった。
アンストンはまるで悪夢を見ているかの様な心境だった。