交戦3
クルシアの騎兵部隊は森から回り込む様にして平地に姿を現していく。
高橋は道から飛び出してくるならまだ対処できたが、こうなってはダメかも知れない。
と思い始めていた。
「どうすっかなぁ」
独り言を呟きながらも注意深く様子を伺う。
次第に騎兵は横一列に並び、持っていた槍を構える。
これがかつて西洋で行われた騎兵戦術かとちょっとだけ感動した。
だが、その衝力は侮れない。
馬の突進を人間が食らえばひとたまりもないからだ。
そんな油断せず構える高橋を横目にクルシアは右手を上げた。
「さあ、どうする魔術師?」
にやりと口元を歪め高橋を見る。
いつまでそうやって居られるかな?
そう思いながらクルシアは号令と共に右手を降り下ろした。
「突撃ぃぃぃ!」
待ってましたと言わんばかりに馬が嘶き、一斉に走り出した。
文字通り地響きの様な音を上げて向かってくる騎兵の姿に高橋は顔面蒼白になりながらも己を奮い立たせるように叫び、引き金を引いた。
「うぉぉぉぉ!」
高橋の雄叫びと共に89式から連続して5.56mm弾が吐き出される。
それは人馬共に貫き、騎兵をなぎ倒していく。
しかし、フルオートで撃てばあっという間に弾が切れてしまう。
何人かをなぎ倒したところで89式は30発の5.56mm弾をうち尽くした。
「くそ!」
悪態を吐きながら即座に弾倉を交換し、再装填を終え構えた時には騎兵の集団が高橋の目の前に迫っていた。
「ダメか!?」
「もらったぞ!」
高橋の諦めに似た言葉とクルシアの勝利を確信した言葉が重なった。
その時だった。
「高橋ぃ伏せろぉ!」
高橋を呼ぶ声が聞こえた。
瞬間的に高橋は地面に伏せる。
と同時に高橋の後ろ左右から一斉に聞きなれた89式の銃声が鳴り響いた。
「な、なん・・・」
クルシアは最後まで言葉を紡げなかった。
誰の放った銃弾かは分からないが、右目に5.56mm弾が命中したのだ。
クルシアの右目に当たった銃弾はそのまま突き抜け、脳を破壊して後頭部から飛び出す。
その段階でクルシアは仰け反る様に馬上から吹き飛ばされた。
周りの騎兵が思わずクルシアを振り返るが他人の心配どころではない。
クルシアを吹き飛ばした攻撃は彼等自身にも向けられているのだから・・・。
高橋を狙っていたクルシアを含む数人は真っ先に撃たれ、それ以外の騎兵も順次撃たれていった。
とは言え、幾らなんでもすべての騎兵は撃ち取れるものではない。
どうしてもうち漏らしは出るのだが、少なくとも半数近くは討ち取れた。
こうなれば残りは恐慌を来して逃げ出すしかない。
何せ訳も分からない攻撃により指揮官たるクルシアは元より同僚が次々に倒れて行くのだ。
流石に士気は崩壊してしまう。
結果、残った半数は踵を返して逃走を図った。
しかし、初めての実戦に絶好の追撃が可能であるにも関わらず自衛官たちはそのまま見送るしかなかった。
高橋は九死に一生を得て安堵しながら立ち上がった。
そこに井上が駆け寄り、キツい一発を食らわせてきた。
「馬鹿野郎!いいカッコすんのも大概にしろ!」
井上の怒声に高橋は何も言えなかった。
「幾ら何でも無茶が過ぎるだろうが!死んじまうところだったんだぞ!」
高橋は井上の怒りに何も反論が出来なかった。
いや、高橋自身、無謀とも言える行動で命を落としかけたのは理解出来ていた。
あの場合、それしかなかったにせよ、仲間の存在を考慮していなかったのだから。
「いいか?テメェがどんな無茶をしても俺らが死なせねぇ!逆にテメェが俺らの命を背負ってるんだ!テメェが無茶した分だけ仲間の俺らの命が危険になることを自覚しやがれ!」
高橋には井上の言いたい事が分かっていた。
自分たちの上官たる田淵を信頼出来ない代わりに、仲間は高橋を信頼しているのだ。
その高橋を守るために仲間は命をかける。
だからこそ、高橋は皆の命を背負って行かねばならないのだ。
軽率な行動一つで仲間を危険に晒すのだ。
井上はそう言いたかったのだと・・・。
「すまん・・・」
高橋はようやくそう言葉を絞り出した。
その様子に井上がようやく笑みを浮かべた。
「頼むぜ戦友、こんなところで死ぬつもりはねぇからよ」
井上の言葉に仲間たちが頷いた。
第3話終了です。
戦闘の緊迫感を伝えられたでしょうか?
皆様のご意見をお聞かせください。
ではまた次話で合いましょう。