混乱
駄文ではありますが多少なりともお付き合いしていただければ幸いです。
西暦201X年5月初頭
日本は酷く混乱していた。
その混乱は唐突に起きたある事件故にだ。
しかし、多くの人々に取ってそれは突然でも、予兆は以前からあった。
ただ、誰もそれに気付かなかった。
そのために唐突に思われたのだ。
「食料は現状で1年程度は持つと思われます」
補佐官の言葉に日本国内閣総理大臣、鈴木友平はただ黙ってうなずいた。
鈴木は歯噛みしていた。
(気付くのが遅すぎた。もっと早くにわかっていれば・・・)
鈴木は現在、日本に起きている事態が何であるかを把握していた。
原因は分からなくても日本が現在どの様な状況にあるかはわかっていたのだ。
それは、以前からあった変化の予兆に人々よりも早くに知ったからだ。
そのため、災害時における緊急物資の確保と言う名目で様々な準備をしてきていた。
しかし、それも僅か3ヶ月程度ではたかが知れている。
それでもやらないよりマシではあるから、鈴木は敢えて汚名を被る事を覚悟の上で強硬に行動してきた。
「総理、石油資源は残念ながら1年も持ちません。早急にどうにか確保しなければ・・・」
経済産業大臣である阿部忠勝はそう言って額ににじんだ汗をふき取った。
阿部の言葉に内閣官房長官の伊達正行が怒鳴り声を上げた。
「確保?あるかどうかも分からんのにどうやって確保するんだ!?」
伊達はやや気性が荒く、過激な発言を繰り返してきたことからタカ派の筆頭になっている。
そんな伊達に怒鳴られて気弱な阿部はうつむきながら汗を拭いてなんとかやり過ごそうとするしかなかった。
「伊達、怒鳴らなくても聞こえる。落ち着きたまえ」
鈴木がそう言って伊達の矛先を自分に向けさせた。
そして鈴木の思惑通り伊達はその矛先を鈴木に向けてきた。
「落ち着けるか!国内の混乱は自衛隊や警察による治安維持活動で一時的に抑えてはいるが、それだっていつまでももたんぞ!」
伊達の言葉通り、日本全国どこの都市でも街角に自衛隊や警察が立っていた。
首都である東京は更に87式偵察警戒車や96式装輪装甲車が各所に配置されていた。
このため、一時は警察庁が縄張り意識の為か鈴木に直談判し「治安は警察の手で守れる」と豪語した。
しかし、異変が起きてから3日目にしてその言葉は崩れた。
一部外国人が中心に暴徒と化した群集により各都市で暴動が頻発したのだ。
そのため、鈴木は事態の沈静化を名目に陸上自衛隊に出動を命じ、これを実力で鎮圧したのだ。
これにより野党やマスコミから大きく非難されたが、鈴木は先に出していた緊急事態宣言による超法規的活動として無視した。
結果として、日本に起きた異変から1週間経つが連日非難キャンペーンが行われていた。
「焦っても事態が好転するわけではない。ここは周辺の調査に出ている海自や空自の報告を待つしかないだろう」
鈴木にそういわれ、やり場の無い怒りを押さえ込んだ伊達は憮然とした表情のまま椅子に腰掛けた。
「しかし・・・」
鈴木の呟きに室内の全員が鈴木を見ていた。
「まさか日本そのものが転移などとは・・・」
その呟きは誰もが思っていたことであった。
そう、日本は見知らぬ世界へと転移したのだ。