(4)
魔法ちゅ〜代物を使うには、精神集中ちゅ〜やつが必要だ。
でも、この体の脳味噌は……疲れが溜ってくばかりだ。
ウチの意識か、この体の元々の持ち主のド腐れオス畜生の意識のどっちかが……この体の脳味噌を占領しとる。つまり……脳味噌が休む暇が無いのだ。
意識は朦朧としてるのに、意識を失なえん……無茶苦茶な状態だ。
危ない真似やけど……やるしか無い。
まだ、何とか魔法を使える程度の「意識が朦朧」の内に……あそこに行って、あれを手に入れさえすりゃ……。
呼吸を整える。
普段なら、精神集中だけで魔法を使えるけど……今のこの状態では……。
でも、ド腐れオスの手下どもは寝静まっとる筈やけん、呪文を唱えても……。
「あ……だ……駄目……やめて……」
「やめない……お姉様、今日は寝かさないわよ……」
ん?
何の声ね?
「で……でも……あんな事が起きたばかり……」
「残念だったけど、これも死んだ王女様の弔いよ。あの方は、女好きなだけじゃなくて、他人がこういう事をしてるのを眺めるのも大好きだったでしょ」
……困ったねぇ……。この声が気になって……精神集中が出来ん……。
「そ……そうだけど……」
「知らぬは馬鹿勇者ばかりってね。あいつも死ねば良かったのに……」
あ〜あ……。
薄々、そうじゃなかろかと思っとったけど、このド腐れオス畜生、女子からの人望は、とことん無かったようだな。
ん?
待たんね……「あいつも死ねば良かった」?
まさか、こいつら、知っとるとね?
何で、こん世界の生と死ば司っとる神さんが、他ん世界の人間の魂ばこん世界に転生させとるかば。
こん世界の「あの世」で、どぎゃんロクデモなかこつが起きとるかば。
何で、こん世界でアンデッドさえ生まれんごつなったかば。
まさかね……。
でも……女司祭とエルフ……「絶対に知ってるはずが無い」とは言い切れ……。
ん?
大地から……とんでもない霊力が吹き出し……いや……。
あの2人、単に女同士で@#$しとるだけじゃなか……。
この霊力を吸収して……自分達の体力とか霊力とかを回復させとる……。
回復の薬をわざと使わんってこつは……知っとる……こいつら、絶対に知っとる……。
考えるのは後だ。
この霊力の余波を吸収して……た……たすかった……。
頭がスッキリ……絶好調だ。
「ラプタン達、全員、早よ、ここに来んねッ‼」
あ……しまった……思い切り叫んでしま……。
「えっ?」
「えっ?」
ウチの声を聞いて……エルフと女司祭が……ああ、さっきまでお楽しみやったんやね、って感じの格好で……。
「あ……あなた、まさか……勇者様じゃないのッ?」
「何が『勇者様』ねッ? さっきまで、このド腐れオス畜生の事を『脳味噌じゃのうて@#$でモノを考えとる歩く性犯罪そのものの馬鹿・阿呆・マヌケ・自称現実主義者』呼ばわりしとったやろうがッ‼ 聞こえとったでッ‼」
「そこまでは言って……」
女司祭が大ボケをかました……と思うた次の瞬間……。
「うわっ?」
見事なコンビネーションたい。
ボケ役がボケとるのに気を取られとったら……ツッコミ役の「裂風刃」で唐竹割りになる所やった。
でも、本当は魔力増幅具を兼ねた細身の剣から放つ筈の「裂風刃」やけど、今は、剣に見立てた手印の指から放ったせいで……威力も半減、発動タイミングも一瞬だけ遅れ……ギリギリで魔力防壁を発動。
「誰に取り憑かれてるのか知らんが……」
助かった……ウチの正体には、まだ気付いとらんようだ。
「この際だ。あの野郎の魂が、その体に残ってたとしても……魂ごと、その醜悪な体を切り刻んでやる」
ウチも、なるべく、このド腐れオス畜生を苦しませて死なせたかったけど……ごめん、このド腐れオス畜生の体を破壊されたら、ウチのど〜なるか今んところ、判らんし……。
「おい、糞勇者。聞こえてるなら、最後に教えてやる。念の為、言っとくが冥途の土産じゃないぞ。今回の人生を最後に、お前の魂は転生出来なくなる。お前の魂は、無事にあの世に逝けるかさえ怪しい状態だ」
や……やっぱり……知っとったとやね……この世界の秘密を……。
「お姉様、やっちゃって下さい♪ あの勇者の残り復活回数は、もう0の筈です」
えっ?
……まさか……。
そ〜ゆ〜事やったとね?
他の転生者は……「固有能力」頼りの阿呆どもばかりやったとに……こいつだけ、「固有能力」を使ったのを見た事が無かった……。
ただ……特別な能力は無かとに無茶苦茶手強かった。
なるほど……そ〜ゆ〜事ね……。
死んでは生き返り、死んでは生き返り、死んでは生き返り……経験だけは貯めに貯めて強くなった訳やね……。
そして、ウチが死んだのと、ド腐れオス畜生が生き返ったのが、すぐ近くで、ほぼ同士に起きたせいで……ウチの魂が、この体に入ってしもうた訳やね……。
「終りだッ‼ あのクソ勇者と同じ下衆野郎になるのだけは嫌だから……せめて、楽に死なせてや……」
「ふんぎゃ」
「ふんぎゃ」
「ふんぎゃ」
次の瞬間……ようやく来てくれた……。
ある者は地を走り……ある者は宙を舞い……。
ウチの可愛くて忠実な友達……龍と鳳凰を合わせて小さくしたよ〜な姿の……「ラプタン」達が……。
「ふんぎゃ?」
「ふんぎゃ?」
「ふんぎゃ〜?」
「ウチたい、ウチっ‼ このド腐れオス畜生の体を乗っ取たとたいッ‼」
そう言って魔力を放つと……。
「ふんぎゃッ♪」
「ふんぎゃッ♪」
「ふんぎゃッ♪」
「ふんぎゃッ♪」
よかった……みんな、体は精液袋でも、中身はウチやって判ってくれたようだ……。
「まずは、この縄を解いてくれんね。あ……そいつらは、殺す必要は無か。しばらく足止めしてくれんね」
そして……「ふんぎゃッ♪」×多数。
「く……くそ……やめ……」
「く……く……く……くすぐったい……」
ラプタン達は、エルフと女司祭に、じゃれつき、じゃれつき、じゃれつき……そして、じゃれついとる。
「ああ、そうだ。あの御方は、無事、転生出来たとね?」
「ふんぎゃっ♪」
「良かった……じゃあ、あの御方の御美体が完全体になるまで……一番安全な隠れ家に御連れして、あんた達が御世話してくれんね……」
「ま……待て……何を言ってる?……おい、まさか……王女様の腹の子供は……魔王の転生体かッ?」
エルフが、そう叫んどるけど……はい、大外れ。
王女様のお腹の子供に転生したとが、どこのどなた様か……あんたらには想像も付かんやろな。ま、予定とは、か〜な〜り、違ったけど……結果オーライたい。
王女様の子供として転生体したとは……少なくとも、あんたらが「魔王」と呼んどった奴では無か。
だって、あんたらが「魔王」と呼んどった奴が、今、どこに居るかちゅ〜と……。
あんたらの目の前、こんド腐れオス畜生の体ん中たい。