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スリープレス・サンシャイン

 『閉店セール』で掘り出し物を探すなんてこと、人生の中でそんなに多いことでもないのかも知れない。具体的に今欲しいものがあるのかと言われたら『素敵な物』と答えるしかないんだけど、旅行に行ったらスーベニアを必ず買ってしまう性格のわたしはたぶんそこでも何かを見つけるんじゃないかと思っていた。


 目に留まったのは『向日葵のおもちゃ』。だいぶ昔に流行ったという品で、愛らしく見えてしまったのはたぶん普段よりもずっと控えめな数字の値札と顔の陽気な感じがどこかコミカルな組み合わせだったからなのだろう。



『ヘイ!おねえさん!今オレを連れてゆかないときっと後悔するぜぃ!いつだって貴女の前でグルーヴ感抜群に揺れてあげますよ!』



<ふむふむ、『君』はそういうキャラクターなんだね。うーん、、、どうしよっかなぁ…うちには観葉植物もあるから…>



『オレはおねえさんに『パッション』を伝える義務があるんだぜい!』



<パッション?>



『そう!むかし、オレたちが誕生したあの『熱い時代』のパッションさ!』



<そうなの?わたしも君みたいになれるかな?>



『ハッピーゴーラッキー!スリープレスサンシャイン!!』



 そうしてわたしと向日葵くんはテレパシーによる会話で意気投合した。箱が付いていなかったで買ってそのまま手で抱えて持ち帰る。ちょっとだけ恥ずかしい気もしたけど、向日葵くんは『職場』を見つけられて上機嫌そう…に見えてしまった。



☆☆☆☆☆☆☆


 そんな向日葵くんも真冬になって動きが鈍くなる。いつもなら目の前を通りがかる度に揺れてくれていたのに、反応してくれない時がある。それは単純に『電池切れ』の証。けれど、わたしにはそこに何か寂しさのようなものを感じてしまう。やっぱりいつまでも熱い気持ちを保っていることは出来ないんじゃないかなって。わたし自身の『職場』でも仲の良かった人が突然退職する流れになって、業務についての支障はそれほどでもないようだけれどどこか活気が無い。



「冬は嫌だなぁ…」



ぼそっと呟いた一言に反応して向日葵くんが僅かに身体を揺らしたように見えた。



<電池替えてあげた方がいいよね>



よいしょと立ち上がり、押し入れを探してみたら運悪くストックが切れていることに気付く。単三電池なのでコンビニに行けばすぐに手に入る。丁度紅茶のような暖かい飲み物を欲していたところだったので、いそいそと準備して家を出た。




小雪の舞う世界。うっすら積もった道に残る足跡。小学生くらいの男の子が除雪されて出来た塊をしげしげと見つめている。



<わたしの感じていることって何だろう>



そんなことを考えながら歩いた。答えがないまま辿り着いたコンビニで電池を見つけて一安心したところで店内にあったチラシに目が留まる。



『ハーブ専門店SOLEIL オープン』



開店を知らせるその情報は偶然にも閉店した雑貨店の後にできたらしいことが分かった。『ハーブ』にあまり多くのイメージは持っていなかったけれど、ハーブティーが身体に良さそうということは何となく知っていた。



 せっかくだからとその後『SOLEIL』に向かったわたし。確かに雑貨店があった店舗がすっかり改装されて見栄えのする温かな印象に生まれ変わっている。ソワソワしながら入店して、すぐにわたしの目は奪われた。



「いらっしゃいませ!」



<え…?男の人?めちゃくちゃ若い!!>



『ハーブ』だからと漠然と女性が経営しているものと思い込んでいたけれど、中にいたのはどうみても高校生くらいにしか見えない若い男性。というか肌のツヤからして明らかに若い。



「え?オーナーさんですか?」



わたしは思わずそう訊ねてしまった。すると男の子は首を横に振って、



「いえ、バイトです。姉がオーナーです」



とにこやかなスマイルで答えてくれる。何故だろう、その爽やかさが眩しくて何も考えられなくなってしまった。結構ロングな髪型で細身だからなのか勝手にバンドをやってそうなだなと思ってたけれど、後で実際そうだったという事を知ることになる。彼は「呼んできますか?」とすぐオーナーを呼んできてくれて、これまた華やかな女性が現れる。こんな姉弟が居るものなんだなぁと感心するような空間で、肝心のハーブも品揃えが豊富でハーブのブレンドもしてもらえるシステムらしい。



「どんなハーブにしましょうか?」



お姉さんにそう訊ねられて少し緊張しながら「じゃあ、元気の出るハーブってありますか?」とリクエストしてみた。彼女から『タイム』とか『ペパーミント』とか色々なハーブを効用をその場で教えてもらい「寒いのでお茶にできると嬉しいです」と希望を告げたら、



「分かりました。ブレンドしてみますね!」



と言ってもらえた。待っている間、弟くんとちょっと目が合ったので、



「このお店の名前の由来もやっぱりハーブに関係しているんですか?」



と訊いてみた。



「フランス語で太陽とか『向日葵』を意味するんですよ。姉が夏が好きだからって」



思わぬ答えが返ってきてビックリした。目を輝かせて教えてくれた弟くんもなんだか向日葵とか太陽のような感じなんだなってその時思った。




 ブレンドしてもらったハーブを持ち帰って、『職場』で静かに待機してくれていた『向日葵くん』に今一度エネルギーを充填する。途端に<こんなに激しく動くんだっけ?>と思うような元気を取り戻した向日葵くん。


『パッション、パッション』


と歌い出しそうな姿ではあるけれど、ブレンドしてもらった物にも『パッションフラワー』というハーブが含まれているらしい。スリープレス…じゃなくて安眠効果があるらしいけど。

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― 新着の感想 ―
文章の端々から面白さがにじみ出てきていて、ぐいぐい読んでしまいますね。 これは作者さんの視点が面白いから、と思うのですけれど(#^^#) スタート部分もついにやりとしてしまい、続くテレパシー会話もおも…
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