女王陛下は太傅の元ルームメイト
挿絵の画像を生成する際には、「AIイラストくん」と「Ainova AI」を使用させて頂きました。
その御方と初めて御会いしたのは、私が十代の頃の話でした。
父の事業における知人の御令嬢が、交換留学の間だけルームメイトとして私の家に滞在する事になったのです。
「初めまして、日本の神戸より参りました海紅蘭と申します。シンガポール滞在の三ヶ月間、夕華さんを始めとする完顔家の方々には御迷惑をお掛けしてしまいますね…」
神戸育ちの華僑には上品な方が多いと聞き及んでおりましたが、この方は別格で御座いましたよ。
「いえいえ、紅蘭さん!何か御困りの事が御座いましたら、御遠慮なく仰って下さい。私に出来る事でしたら、何なりと御協力致しますよ。」
この一言があの御方との末永い御縁の始まりだったなど、当時の私には思いもよらぬ事でした。
交換留学の三ヶ月間、私達は良き学友として円満な関係を構築する事が出来ました。
しかし所詮、ホストファミリーと交換留学生の一時的な間柄。
やがて私達の付き合いは、国際郵便を時折交わすだけの物となったのです。
それが再び急接近する事と相成ったのは、学業を修めた私が父や兄の事業を手伝い始めた頃の事でした。
「紅蘭さんからの親書ですか、懐かしいですね…」
対面で旧交を温めようという先方の提案を、私は至って気軽に快諾したのでした。
そして会談の当日、私の自宅に黒塗りの高級車が乗り付けられたのです。
「御無沙汰をさせて頂いております、夕華さん。海紅蘭改め愛新覚羅紅蘭、御会い出来て光栄で御座います。」
穏やかな微笑も柔らかい声色も、昔日のまま。
しかしその気品と威厳は、あの時とは桁外れで御座いました。
「夕華さん同様、今は私も満州姓を名乗らせて頂いているのですよ。宣統帝の孫娘として、私には成すべき事が御座いましてね。」
驚くべき事に、それは王政復古による大陸の秩序回復だったのです。
「旧体制の崩壊により、今や大陸は混迷の一途。清朝皇位請求者として看過は出来ません。中華の民達の安寧の為に、そして私の為に。今こそ貴女の御力をお借りしたいのです。」
「御任せ下さい。この完顔夕華、及ばず乍ら御力添えさせて頂きます。」
こうして私は嘗てのルームメイトの手を取り、臣下として忠誠を誓ったのです。
やがて嘗てのルームメイトは清朝の後継国である中華王朝を興し、初代女王として即位されたのです。
そして今では私も、太傅と呼ばれて紫禁城で執務に励む毎日ですよ。
予想外の形では御座いましたが、こうして義を果たす事が出来たのは何よりですね。