68話:リアナの想い
「なによアイツ……自分が強いからって偉そうに……」
こらえきれない怒りをぶつぶつと溢しながら、人がまばらに行き交う夜道を当てもなく歩く。
いつもならそこら辺の酔っぱらいに声のひとつもかけられるものだけど、アタシの怒気が伝わってか近寄ってくる男はひとりもいなかった。
まあナンパなんかが来たらその時は腹に【振土】をぶち込んで、胃の中を直接かき混ぜてやるけど。
『別に仲間ってわけじゃないんだから、確認もなにもないだろ?』
酒場で言われたことが頭の中で再生されて、どうしようもない苛立ちが募っていく。
「そりゃあ確かに、パーティー組んではないけどさー……ふんっ! 結局アタシは万年ソロ冒険者よ!」
八つ当たりに道に転がる小石を蹴ると、想定よりも力が入ったのか、石は地面を転がらずまっすぐ飛んでいき建物の壁にぶつかった。
「待ってー! リアナ―!」
「……うん?」
その時、背後からここ数日ですっかり聞き馴染んだ声が聞こえ足を止めた。
「フィリア……追いかけてきたの?」
軽く息を弾ませながら駆け寄るフィリアに軽く驚いた。てっきり酒場に残って打ち合わせをすると思っていたんだけど……。
「う、うん……ふぅ……アゼルのこと、謝りたくて」
「むっ……」
アゼルの名前が出たことでまた怒りが湧いてきたけど、それをフィリアにぶつけるのは筋違いだと考えて、喉元から出かかった言葉を飲み込んだ。
……とは言え、湧き出た怒りをコントロールできる程アタシは大人じゃないから、どうしてもちょっとした不満は顔に出ちゃうんだけど。
「別にフィリアが謝ることじゃないわ。もう暗いから、アンタはもう帰って……まあ、いいか。折角だから少し付き合ってくれない?」
「え? え、ええ、良いけど……」
本音を言うと今はひとりになりたい気分だったんだけど、せっかく追いかけてくれたんだし、この際だから二人っきりで話でもしておこうっと。
アタシはフィリアの手を掴むと、半ば強引に引っ張っていく。フィリアも戸惑いはしながらも、抵抗はせず大人しくついて来てくれた。
辿り着いたのはフィリアが泊っている宿屋「樫の木のリス」に併設された酒場。アタシは酒場の入り口に近い席に座って、店員に適当な酒を同時に何杯か注文した。
アゼルが帰って来て鉢合わせる可能性があるけど、別の酒場へ連れまわしてフィリアをひとりで帰らせるのは心配だからね。いくら怒っていても、それくらいの分別はアタシにもある。
いちおう鉢合わせした時のささやかな対策として、アゼルが入るであろう宿泊客用の出入口とは反対側にあって、なおかつすぐに外へ出られるように酒場用出入口に近いこの席を選んだの。
「その……ごめんなさい、リアナ。アゼルったら、昔からあんな感じで……」
「さっきも言ったけど、フィリアが謝ることじゃないわよ。実際、アイツが言ってたことは正しいしね」
店員が酒が来たタイミングで、フィリアは気まずげな様子でそう切り出した。
フィリアがあまりに申し訳なさそうに言うものだから、かえってアタシまで悪いことをした気分になって、それを誤魔化すように波々と注がれた酒を一気に飲み干す。
既に冒険者協会の酒場でも何杯か飲んでいたからか、その一杯でアルコールが一気に回り、ふわふわとした酩酊感が来る。
空いたジョッキを脇にどかして別の一杯に手を付けながら、酔いの勢いに任せて口を開く。
「そうよ、正しいのよアイツは……むしろ悪いのはアタシ。パーティーも組んでいないくせに、勝手に仲間意識持って、それを否定されて勝手に怒って、好き勝手に喚いて出て行ったアタシが全面的に悪いのよぉ」
「そ、そんなことないわよ! 悪いのはアゼルよ! 確かに言っていることは正しかったかもしれないけど、だからって友達に向かってあんな言い方をするのは間違っているわ!」
慰めるためか、少し熱の入ったように同調するフィリアに、アタシは少し嬉しくなった。しかし、それでもなお一つの単語が気になってしまう。
「友達……友達ねぇ……ねえ、フィリア」
「なあに?」
「アンタとアゼルって付き合ってんの?」
「ぶふっ――!」
アタシは控えめに気遣うように尋ねてみたら、フィリアは苦しそうに咽た。
「な、何を言ってるの⁉ そんなわけないじゃない⁉」
「ほんとに? 照れて隠してないの?」
「ほ・ん・と・う・よ! ……それ以上からかうなら怒るわよ?」
その割にはやや焦っているように見えるけど、本当に付き合ってないのかしら?
だけどこれ以上この話を詰めると本当に怒られそうだから、この疑問は飲み込むことにした。質問の本題はこの話じゃないしね。
「ふーん……じゃあなんで、アゼルはパーティーを組んでくれないのかしらね……」
もはや半分独り言のようなものだったが、アタシの言葉にフィリアははっとした顔をした。
アタシが怒っていたのはまさにそこ。
アゼルが言っていた通り、アタシたちはパーティーを組んでいるわけじゃないけど、組もうという提案は自体はゴルドとの喧嘩が終わった後から何度もしていた。
提案した時、フィリアは賛成してくれたんだけど、何故かアゼルからは頑なに拒否されていた。それでも諦めずに、ことある毎にアタックしていたんだけど……結果は全敗。
自分で言うことじゃないけど、アタシってばCランク冒険者だから実力は申し分ないはずだし、アタシをパーティーに入れるメリットはそれなりに高いと自負している。それでも断るということは、アタシの性格自体が問題か、それかアタシが入ることそのものに不都合があるかだ。
「でも他冒険者からの勧誘も拒絶していたし、アタシが依頼について行くことには何も言ってこないしさ……それでもパーティーを組むことを断るなら、それはもう「二人の空間をジャマすんな」ってことかと思って……」
「なんでそこに着地したのかはわからないけど……その質問をした意図は理解できたわ、うん」
アゼルの態度からアタシの性格の問題じゃなさそうだと感じ取れたから、ワンチャン押せばイケるんじゃない? と思ってここしばらくは一緒に依頼をこなして自分の魅力をアピールしていた。まあ今日とかもそうだったけど、時たま別行動してCランクの討伐依頼をこなしていたこともあったけど、基本的には何をするにも一緒に行動していた。
そんなんだからアタシはもう勝手に仲間意識が芽生えていたし、そうでなくても友達として一定の信頼は築けているものだと思っていた。
……だからこそ、アゼルのあの他人のような言い方には腹が立った。
あの時のアイツの顔を見れば、そこに悪気がなかったことはわかったんだけど、それを笑って流せるほどアタシは性格ができてない。
「そりゃあ、アンタたちの旅の目的は聴いたし、それがどれだけ厄介かは知っているわよ? 血追いの徒に目を付けられたら危険だってことも理解してる。もしかしたらアゼルなりの気遣いなのかもしれない。でもアタシは、それ全部わかっていて誘っているんだけどなあ……」
「リアナ……」
血追いの徒の噂はアゼルたちと出会う以前から何度か耳にしていた。血追いの徒が引き起こす事件は決まって殺人や刃傷沙汰に発展していて、信者のほとんどは自身を含めた人の命を軽んじる異常者だと聞いたことがある。
そんな危険な奴らを追ってるんだから、無関係な人間は遠ざけておきたいというのがアゼルの考えなんだろうけど、アタシはむしろその冒険心のある二人の姿勢に強く惹かれた。
俗っぽい言い方をすると、そんな聞くからに波乱に満ちて良そうな冒険には一枚噛んでおきたいというのが本音。もちろん、そんな悪い奴らを許せない、許してはいけないという正義感もあるけど。
「危険だっていうのはわかるのよ? アゼルが強いってのもわかってる。でもさ、アタシだってCランクの冒険者なのよ? 魔物ならまだしも、同じ人間相手なら後れを取らないっての……アタシの実力を認めてくれてるなら、何で断るのよ……」
せっかく気の合いそうな人と出会えたっていうのに……。
「……ねえリアナ。リアナはどうして、私たちと組みたいと思ったの?」
「うーん?」
「私たちじゃなくても、リアナなら他にもパーティーを組みたい人が居るんじゃないかしら? そりゃあ、この前のゴルドさんたちみたいなのとは嫌なのはわかるけど、リアナほどの実力者なら同じCランクのパーティーからも引く手数多だと思うの」
「それは……」
フィリアの質問に、自分でも珍しく言葉に詰まった。アタシにとってそれは、一種の黒歴史でもあったから。
「フィリアさ、アタシの異名のこと覚えてる?」
「えっと、確か「狐走」だったかしら?」
「そっ。いつの間にかついた名前だけど、アタシこの名前大っ嫌いなのよねー」
「そうなの?」
「そうなのっ。「孤走」だなんて、まるで「ひとり孤独に、バカみたいに走ってろ」って言っているみたい。アタシだって誰かと一緒に下積みしたかったわよ……「狐」なんて、どうせ露骨すぎるから適当に文字って無理くり聞こえ良くしただけよ」
「そ、それは流石に被害妄想な感じがすると思うけど……」
おっといけない。思ったよりも酔いが回ったのか、ついつい愚痴っちゃう。普段から閉じたままではいられないこの口だけど、お酒が入ると更に緩んじゃうのよね。
「アタシね、どういうわけか昔から人一倍体力があって足も速かったの。どれくらいかって言うと、子どもころのアタシが全速力で逃げたら、大人でもなかなか捕まえられなかったくらい」
アタシは「オルン」っていう狩りと林業が盛んな村出身で、そこの男連中の多くは木こりになって上質な木材を他所に卸すか、狩人になって獣や魔物からとれる肉や毛皮を卸すかして生計を立てていた。アタシの家も例に漏れず父親が狩人をしていた。
そんな一般的な家庭に生まれたアタシだけど、幼少期は他の女の子が母親にせがむような「お姫様の物語」よりも、狩人たちが語る「強い魔物の話」や元冒険者が語る「冒険の物語」を好んで聞いていた。
小さい頃はよく父親にねだって狩りにつれて行って貰っていろいろと教えてもらったし、同年代の子とはよくかけっこしたり、木の棒をぶつけあって剣術ごっこをしていた。
そんな元気の有り余っているような子どもだったから自然と、将来は狩人か冒険者になるんだ! って決めていた。
「まあ、紆余曲折あって狩人になる選択肢は無くなったから、村を出て冒険者になったんだけど、すべて理想通りってわけにはいかなくってね……」
「紆余曲折?」
あ、気になるのはそっちなの? なんてことない、ただの喧嘩別れよ。
ウチの村、男は森へ行って力仕事をするのに対し、女は家のことをするというのが当たり前みたいな風潮がちょっと強かったのよね。別段この国では珍しくはない考えだけど、ウチの村はちょっと「こうあるべし!」みたい考えを持つ人が男にも女にもあったってだけ。
当然アタシも、それなりの年頃になれば家事の勉強をさせらるようになって、狩へは連れて行って貰えなくなった。それどころか、家を出ることもだんだんと少なくなってきた。
そんな生活、ずっと続けるのは少なくともアタシにはムリ! っていうことで、ある日思い切って家族に言ったんだけど……まあ「何言ってんだ!」って怒られたのよね。
そのままお互いにヒートアップして、その翌日アタシは家を飛び出しちゃったのよね。
閑話休題。
「まあ話を戻すと、簡単に言えば他人と足並みがどうにも揃わなかったのよ」
村から出たばかりの頃は色々と逸っていたのか、とにかく早く偉大な冒険者になるべくランクを上げるために駆け回った。人より多い体力に物言わせて、一日にいくつもの依頼を受けたり、自分より上のランクの魔物を討伐したりしていた。それこそ、周囲を追い越してしまう勢いで。
「一時期、Fランク同士でパーティーを組んだこともあるんだけど、その時のアタシは何と言うか、両親を見返してやる! って気持ちが強くってね。他の人と足並みを揃えるっていうのに意識が向いていなかったんだ……」
もっと本音の部分を晒してしまえば、周囲から認められたいという気持ちが強かった。
具体的にアタシが何をしたと言えば、戦闘では盾役よりも前に出てひとりで片付けちゃったり、仲間が魔物と鍔迫り合いしているのをピンチだと勘違いして横から獲物を奪っちゃったりとか……。有体に言えば、仲間の活躍の機会を全部奪っちゃってたのよね。
「多分、才能ってやつがあったんだと思う。とにかくアタシは身体的に優れていたんだと、冒険者になってしばらく経ってから気付いた。別段他の人を見下してはいなかったつもりだけど、どうして仲間がEランクの魔物を倒すのにアタシの倍の時間をかけているのかがわからなかった」
足を引っ張るんじゃなくて、先走ってしまうことで、パーティーの和を乱してしまう。今はどうか自分ではわからないけど、少なくとも駆け出しの頃のアタシはそういうヤツだった。
そういったことが一回や二回であればどうにでもなったんだろうけどそれがずっととなると、なんとなくパーティー内で疎まれるようになってくる。そうしてアタシは少しずつ疎外されていって、最終的には半ば追い出されるような形で最初のパーティーを抜けた。
「そのパーティーに追い出されたときに、何が悪かったか自省できていればよかったんだけど……アタシはバカだから、アイツ等とアタシの相性が悪かったで片付けちゃったのよね」
アタシが、アタシ自身に問題があると気付いたのはDランクの冒険者に上がった頃だった。
最初のパーティーを抜けた後も何回か別のパーティーと組んだけど、似たような感じでパーティーを抜けることが多かった。そうやってパーティーへの加入と脱退を繰り返している内に、あんまり聞こえの好くない噂が立つようになって、だんだんとパーティーに誘う奴が減ってきた。
パーティーの加入履歴は冒険者協会の方でも経歴として記録されるから、ちょっとした問題なんかがあるとメンバーを募集しているパーティーへ紹介する時なんかにそれとなく警告されてて、更に避けれるようになっちゃうのよね……。
幸いにと言うべきかわからないけど、ひとりでも余裕で依頼はこなせたからランクを上げるのにそんなに時間はかからなかった。それこそ同時期に冒険者になった人たちよりもずっと早くにね。
「そんな感じで、アタシはソロの冒険者として活動するようになったってわけ。それでいつの間にか「狐走」なんて異名が付けられたの。まったく……異名ってのは普通、偉業を成し遂げた人に付けられるものでしょうが」
その点に関しては、あのゴルドが羨ましい。アイツもアタシとは別の方向で問題アリの冒険者だけど、「熊殺し」だなんてまっとうな戦果を現した異名を貰っているんだから。
「それでもパーティーに勧誘してくれる人は何人か居たには居たけどね。その人たちはランクも高かったし、経歴や実力もしっかりしていたんだけど、その分歳も離れていてね……活動範囲も拠点にしている町からあまり離れない感じだったから、アタシのあっちこっち行くスタイルとは合わなくってね」
実際Cランクの冒険者の大半が二十代後半から三十代と、今のアタシとは年齢がかなり離れている。まだまだ現役だから頼りにはなるけど、冒険のパートナーとして過ごすにはアタシは若すぎる。
はっきり言っちゃうと、世代が違うから流行やらなんやらの話がふと出た時に話が合わないのよね。嫌と言うほどではないけど、ちょっと窮屈に感じるのよ。
「だからもう、最近までは仲間を作るの諦めてたの。実際Cランクまではほとんどひとりでやってこれたんだから、アタシはアタシらしくひとりで冒険をしようってね。でも……そんな時、アンタ達がここに来た」
アタシはじっとフィリアを見つめる。
「アタシね、びっくりしたんだ。アタシと変わらない年齢なのに、アタシなんかよりもはるかに凄いヤツが、アタシと所と同じような村で狩人やっていたんだもん……」
アゼルと最初に出会った時の印象は最悪だったけど、アイツの強さは本物だった。その強さの秘訣はあの固有魔術にあるんだろうけど、それでAランクの魔物と対等に戦えるのなら何の文句もつけられない。あれこそ、真に天才と呼ぶべき人間よね。
「アゼルだけじゃない、フィリアだって同じよ? アタシは魔術のことなんかからっきしで、唯一覚えられた【振土】だって、使いこなせるようになるのにすっごい時間かかったんだから。それをアンタは中級まで使えているじゃない」
これまで中級の魔術はCランクの冒険者しか使っているのを見たことがなかったけど、フィリアはアタシと変わらない年齢にもかかわらず見事に操っている。
アゼルと比べるとどうしても見劣りはするけど、フィリアだって天才と称するには十分だった。それに、登録試験ではアタシを投げ飛ばして見せたしね。
「アンタたちと冒険者協会でまた会って、アンタたちが冒険者になるって聞いたとき、アタシ驚いちゃった。驚きすぎて……運命なんじゃないかって、そう思ったの」
そして二人から夜王の遺物の話を聞いてから、その思いはさらに強くなった。この二人について行けば、きっと何かが起こる。それも、アタシでは想像もつかないような冒険が。
「ま、全部アタシの勝手な妄想だけどね。ここ最近で少しは仲良くなったと思ったけど、全部アタシの思い込みだったみたいだし……」
「そんなことっ……アゼルがどう思っているかはわからないけど、少なくとも私はそうは思ってないわ!」
フィリアは少し必死になったように身を乗り出して言い放つ。その真剣な眼差しからはフィリアの本心が見えて、沈んだ気持ちが幾分か解消された。
「ありがと、フィリア。さーて、愚痴ってすっきりしたし、アタシはもう帰るね」
「え、もう?」
「うん。アイツと鉢合わせしても面倒だしね。アタシの話を聞いてくれてありがと。嬉しかったわ」
アタシはいつの間にか飲み干していたお酒の勘定をテーブルに置いて、簡単に別れを済ませてフィリアに背を向けて店を出ようとする。
「リアナ!」
「うん?」
しかし大声でアタシを呼ぶフィリアに思わず足を止めて振り返る。
「アゼルがパーティーを組みたがらない理由の全部は私もよくわからないけど……多分、その内のひとつはあいつが隠したがっている秘密にあると思う」
「秘密? それって――」
「ごめんなさい……私の口からは言えない。私も最近知ったことだし、あいつは自分の両親にも隠していたことだったから。それでも……パーティーの件、私も説得してみるから」
そう言うフィリアの目は強い決意に満ちていた。
正直、あの気難しい性格のアゼルを説得するのは、いくら昔馴染みのフィリアでも難しいと思う。だけど同時に「フィリアならもしかしたら……」という気持ちもあった。
「そう。なら少し期待しとく……」
そう返して、アタシは今度こそ店を出た。お酒のせいで少し火照った肌を夜風が軽く撫でて心地良い。
自分が泊っている宿へ帰る最中、アタシはあまり回らない頭で先ほどのフィリアの言葉を考える。
「秘密……秘密ねー。あんなひん曲がった正確になるくらいだから、何かはあるとは薄々感じていたけど……」
むしろ、何かがなければああも人を信用しない性格にはならない。アイツの家が原因か、それとも村の外から来た人が原因か……。
ロスウェル村に居た時のアゼルの言動からは、村人や家族に対して悪い印象を持っているようには見えなかった。それどころか、とても大切にしているように見えた。
だから、過去に村の外から来た人に何かされたのかと思ったんだけど、もうひとつの気になっていたことを思い出した。
「それか、もっと別の……それこそ自分自身の何かが原因か……」
例えばそう、アゼルが持つ固有魔術とか。
【武具製造】――武器を想像する固有魔術と村に居た時に聞いたけど、これまで何度かその能力を見ていたことで、そんな単純な魔術じゃないと察していた。
村に居た時は何故か魔術を出し惜しみしていたのが、この町で会ってからは隠そうとしなくなっていた。きっとこれは、村に居た頃には何かしらの理由があって見せたがらなかったんだと思う。その理由は見当がつかないけど、まああまり口にしたくない類のものなんでしょうね。でもだからこそ、アイツの固有魔術に疑問を抱いた。
そして極めつけは数日前、二人と一緒に夜王の遺物の調査をしていた時に、遺物の見分け方を教えてもらった時。あの時はあまりに自然で口を挟めなかったけど、アイツは何故か自分の剣を指して、夜王の遺物はコレと同じだと言った。
それはつまり、アゼルは血追いの徒と同じように夜王の遺物を所持していると公言したということ。話が終わったタイミングでそれとなく指摘したら、慌てて取り繕ったところからアイツもつい油断して漏らしちゃったんでしょうね。
それに……アイツが作る武器って、どこか変な臭いがするのよね。
「まぁ、どれも想像なんだけどねー」
怪しいところは多々あるけど、それでも人間には悪いヤツではないと思う。これも自分の直感からの判断だけど、アタシはこの直感を信じて良いと思ってる。
少なくとも、コーネルとは違ってアタシたちを見捨てず大怪我をして、その怪我を抱えたまま村の人たちを守るために戦い抜いたのは事実なんだし。
「はあーあ、止め止め。わかんないことを考えたって、アタシにはわかんないんだから」
それよりも、明日どんな顔して皆に会えばいいのか、そっちの方が重要よ。
それまでの疑問を放り投げて、アタシはベッドに横になるまでずっとそのことに頭を悩ませることになった。
そして翌日。
結局、「これだ!」という結論は出ないまま夕方を迎え、自分でも珍しくおずおずとした足取りで冒険者協会へ向かうと――
「昨日はすまなかった」
開口一番にそう言って頭を下げるアゼルの姿がそこにはあった。
思った以上に筆が乗ってしまいました。まさかメインヒロインよりもサブの方が先にバックストーリーを展開してしまうとは……。




