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63話:露店巡り

「さて、この後はどうするかねぇ」


 統括者(ギルドマスター)との話を終えて冒険者協会の酒場の一角に腰を落ち着けた俺は、意見を求めるように二人に言葉を投げかける。

 しかし、対面に座ったフィリアはその言葉には応えずに、代わりに半目で不満げな様子で俺を睨みつけた。


「なんだよ?」

「なんであの時、私に任せてくれなかったの? わざわざ喧嘩腰になって、自分だけが責任を負うような言い方をして」

「……単に面倒臭くなっただけだよ。お前も知っての通り、こんな性格だからな。あんな風に無駄に小洒落て小難しい言い回しをされても、長ったらしいだけで時間の無駄だ。あのまま続けても遠回しに断られて、欲しい情報は期待できなかった。それだったら多少強引でも腹を割って話した方が手っ取り早い。教えた内容も、言いふらしていいものじゃないが、別に俺たちが悪いことをしたわけじゃないしな」

「だからって、あんな風に脅すような真似をしなくても……はあ、もういいわ。モルテインさんが良い人で良かったわね」


 フィリアは溜息を吐きつつも、結果オーライということで水に流したようだ。

 別にこちら側の要求も土台無理なものではなかったはずだし、対価として支払った情報も機密性の高いものだったのだから、奴に対する交渉材料としては価値は十分にあったと思う。

 ただ俺は話を真剣にかつ手っ取り早く聞いてもらうために、ほんの少しの威圧を与えただけに過ぎない。

 ああいう口が達者な人間は、口で言いくるめようとするよりも力を見せつけて、ある程度の要求を飲んだ方が時間が早く事が済むものだ。

 前世でもこういった人間とは話をしたこともあったし、時たま対価がわりに合わないと感じることもあったが、俺個人で収まる程度のものであれば大抵は肉体と魔術を駆使すればどうという程でもない。


「それが良くないって言っているんだけど……」

「まあまあ、なんだかんだ面倒だった調査を引き受けてくれることになったんだから良しとしましょうよ。それより、時間が空いたならまたFランクの依頼でも受ける?」

「依頼かあ」


 受けても良いが、今日はやらないと言った手前、仕事をするのもなんだかなあ……。かと言って何もしないもの、それこそ時間の無駄だ。


「いや。やっぱり当初の予定通り、こっちはこっちで調査はしよう」

「……て言うと、当初の予定通り冒険者に聞き込みをするの?」


 フィリアの問いに俺は軽く首を振る。

 統括者(ギルドマスター)が持ってきてくれる情報がどの程度のものか定かではないが、冒険者協会の情報網を使って調べてくれるのなら俺たちがあっちこっち聞きまわるよりもよほど良いはずだ。

 それなら俺たちはもうひとつの物の手がかりを集めたほうが良いだろう。


「コーネルのほうじゃなくて、例の遺物……魔道具のほうを探してみようと思う」


 統括者(ギルドマスター)も言っていたが、ここカルディナは多くの商人が交わる商人の町だ。その中には当然、魔道具を取り扱う商店もあるはずだ。もしかしたら珍しい魔道具に関する情報――つまり夜王の遺物に関係する情報を持っているかもしれない。あわよくば、魔剣として店に並んでいればいいなと思っている。


「と言うわけで、適当に店を見て回ろうと思うんだが、魔剣やら魔道具やらを扱う店に心当たりあるか?」

「そういうことなら、いくつかお店を知ってるわ」

「アタシも、露店程度なら」

「なら、さっさとここ出て適当に回るか」


 いつまでも協会の建物に居るんじゃ、いつ勧誘目的で声を掛けられるかわからないからな。職員にカウンターの奥へ通しされたことで、なんだか変に注目されたような気もするし……。


 冒険者協会を出て俺たちが真っ先に向かったのは、多くの露店商が立ち並ぶ区画。そこには飲み物や串料理、携帯食といった食べ物を扱っている屋台はもちろん、珍しい織物やアクセサリーといったやや高価で物珍しい物を売っている屋台や、靴磨き、刃物の研ぎといった技術を売りにしている屋台もある。

 屋台を見るに、飲食の屋台を経営しているのは地元の人間が多く、珍しい品やジャンルをひとつに固めていない雑貨店などはこの町に寄った行商という感じだな。

 行商人が経営している屋台の中には、魔道具を売っているところもある。そういった所は、まさに狙い目だ。


「しっかし、人が多いな。まだ昼前だっていうのに……」

「そうは言うけど、これでもまだ少ない方よ。お昼になると食べ物を狙って、一気に人が多くなるんだから」

「マジか。なら、もたもたしてられないな」

「……アンタってほんとに人混みが嫌いなんだね」


 リアナが呆れたように言う。嫌いと言うか、俺の周りにこんなにも人が居るのが慣れないという感じだ。

 村に居た時も、子どもの頃を除けば特別な行事以外で集団に混ざることも少なかったし、前世じゃそもそも周りの人間が俺を避けていたからなあ。気疲れするというか、人に酔うと言うか……。


「それよりリアナ、魔道具を売っている露店てのはどこだ? 出来れば他所から来た行商のところが良いんだが」

「こっちよ。アタシも数日前に見つけたところでね、王都から来たらしいの。扱っていたのはアクセサリーとかが多かったけど、ちょっとした魔道具とかも売ってた気がするわ」


 そう言ってリアナに案内されて、商店街の道を進んでいく。道中にも魔道具を取り扱っている店があったので立ち寄ったが、売られていたのは火打石やマッチ代わりによく用いられる【着火(イグ)】の魔術が刻まれた長短様々な棒状の魔道具「魔導松明(マギトーチ)」や、暑い日や竈に空気を送るのにも役立つ【煽風(ゼフィル)】の魔術が刻まれた筒形の魔道具「送風筒(ブリーズロッド)」といった、稼ぎに余裕のある一般家庭にもあるような魔道具ばかりだ。


 そうして時折寄り道をしながら辿り着いたのは、大きな馬車を改造したやや豪華な印象を受ける露店だった。組み立て式の棚には細々(こまごま)とした仕切りがあり、そこに多様な商品が整然と並んでいた。


「いらっしゃいませー、いらっしゃいませー。王都で流行りのアクセサリーはいかがー? ああ、そこのきれいなお嬢さん方。良ければ見てきませんかー」


 カウンターのように馬車の窓から覗く、ややふくよかな店主が俺たちに気が付き手招きをして見せる。

 誘いに便乗して露店に近付くとリアナの言った通り、店頭に並んでいるのは主にアクセサリー類だったが、その他にも丈夫そうな水筒や火打石、魔道具用の魔石といった雑貨も並んでいた。

 いや、よく見るとアクセサリーにあしらわれている石も、宝石以外に魔石を使っている物が有るな。金属部分に刻まれている魔術紋様を見るに下級の耐性系魔術が込められた魔道具だろう。

 ただそれ以外には先の露店で見たような家庭用の魔道具しかなく、変わり種としては冒険者を対象にしたような魔剣もどきくらいだ。【着火(イグ)】を付与した小杖やら、【湧水(フォンテ)】が付与された短剣やら……これ買う奴いるのか?

 しばらく魔道具たちを眺めていたが、しかし残念ながらというか予想通りというか、棚に夜王の遺物はないようだ。


「なあ店主。魔道具はここに並んでいる物が全部か?」

「はい、そうですよ。何かお目当ての品がおありで?」

「ちょいとな。俺はちょっとしたコレクターでな。魔剣とか――あー、その……いわゆる呪われた道具ってのを探しているんだ」

「はあ、それはまた……珍しいですね。あいにくと、私のところではそういった物は扱っておりませんね」

「それなら噂とかどうだ? 例えばそうだな、奇妙な不死骸(アンデッド)が出るとか、不気味な魔剣があるとか」

「さて……どうだったでしょうね」


 店主は不自然な間を空けて言いながら、ちらりと視線を商品棚へ向けた。

 ふむ、万引きへの警戒……ではなく、話が聞きたかったら何か買え、といったところか。視線の方向が、フィリアが見ている棚――アクセサリーに向いた気がするのは、俺の気のせいではないだろう。

 どれどれ……値段の振れ幅は広く、高いもので銀貨三から五枚、安いもので銅貨十から二十枚といったところか。安い物は本物の宝石ではなく、硝子や質の悪い魔石を用いているのだろう。


「フィリア、リアナ。奢ってやるから、そこから好きなもの選びな」

「え、良いの⁉」


 俺の言葉に真っ先に反応したのはアクセサリーを見ていたフィリアではなく、雑貨を見ていたリアナだった。彼女は勢いよく俺の顔を見ると、驚きと期待に満ちた瞳で確認する。


「財布には余裕がある。とは言え、高すぎるのは勘弁しろよ? それから買ってやるのはひとつだけだ。もちろん、アクセサリー以外で欲しいやつがあればそっちでもいい」

「やった! どれにしようかな~」


 俺がそう言うと、リアナは上機嫌にアクセサリーの棚を物色し始める。リアナと入れ替わるように、今度はフィリアが心配そうな顔をして小声で確認してくる。


「……いきなりどうしたの?」

「なにか知っていそうだ。教えてほしけりゃ何か買えってさ。ここに遺物は見当たらないから、せめて情報ぐらいはな」

「そういうことね。でも大丈夫なの? その……お財布的に」

「心配するな。村で領主様から、たんまりと報酬を貰っている。露店に売られている程度の物を買ったくらいじゃ破産すらしねえよ」

「そういうことなら……うん、遠慮なく。店主さんとのお話は任せるわね」


 そう言って離れるフィリアの様子は、どことなく嬉しそうだった。やはり宝石のような高価でキラキラした物を身に着けるのは、女性の憧れなのだろう。

 かく言う俺も、宝石は好きだ。少なくとも見ていて退屈はしないし、何よりひとつで通貨何十枚分にも匹敵するからな。持ち運びに便利だ。


「さて。うちの連れが選んでいる間は退屈だし、俺との世間話に付き合ってくれるよな?」


 俺がそう言うと、店主は満足げな笑みを浮かべて応じる。


「もちろんですとも。それにしても、素敵な女性に――それも二人も、プレゼントを贈るとは。もしや、御高名な冒険者の方で?」

「そんなんじゃねえよ。少し前にやった仕事で上手く稼げただけだ。そんなことよりほら、勿体ぶったってことは、なんかあるんだろ?」

「ええ、まあ。とは言え真偽のほどは確かではありませんが」

「構わない」

「――ここから北東にドランデルという鉱山都市があります。そこでは鉄鉱石の他、上質な火属性の魔石――火精石がよく採掘されることで有名ですが、同時に奇妙な伝説もございまして……曰く、秘密の財宝が眠っているのだとか」

「財宝?」


 店主曰く、大昔のドランデルの鉱山には凶暴な火竜が住み着いており、麓に住む人々を脅かしていたという。そこに魔剣を携えた冒険者が現れた。

 魔剣の威力は凄まじく、刃は一振りで大岩をも断ち切るほど鋭く、刀身からは火竜よりも熱い炎が噴き出したという。

 人々は魔剣を持つ冒険者に火竜を倒すよう頼み込み、冒険者はこれを引き受ける。

 山へ向かった冒険者は火竜と死闘を繰り広げ、その戦いは山が崩れ形を変えるほどに激しかった。

 最終的に、火竜はその冒険者の命と引き換えに見事打ち倒された。山は死した火竜の火の魔力を受けたおかげか、火精石が取れるようになった。

 しかし、死した冒険者と見つかってはおらず、今も山には火竜が溜め込んだ財宝と共に冒険者の亡骸と魔剣が眠っている。


「――というお話ですな。面白いでしょう」

「うーん……」


 胡散臭い。というか、ただのよくあるお宝伝説だな、これは。

 話に出てきた魔剣の特徴を聞く限り、残念ながら夜王の遺物ではないな。

 ……つーか、それが本当に魔剣かどうかも定かではないな。竜と言っても種類によってその危険度は異なるが、一部の種類を除いてそのランクは大抵「A」に割り振られる。弱い個体でもAに近いBランク程の脅威度。長く生きた個体なんかはSランクにも届き得る。

 世界最強の生物の称号を欲しいままにしている――それが竜だ。

 そんな竜と対等に渡り合える冒険者となると当然冒険者ランクもAランクだろうが、そこまで来ると魔剣でなくとも大岩を断ち切ることができても不思議ではないし、同様に熟練の魔術師ならば魔術の炎を剣に纏わせることもできる。


 もちろん、話に登場した魔剣が本物である可能性もある。竜殺しの武器というのは昔から研究されてきた分野だ。それこそ前世の時代からな。

 Aランクに届かぬ常人でも最強生物の竜を殺せるようにと、鍛冶師と魔術師がその技術を鍛え上げて作り出した物が魔剣というものだ。

 本当に竜を殺せる程に強い力を秘めた物はそれこそ伝説の中や人伝に聞いた噂でしか聞かないが、それでも実在はしている。


 そう考えれば、なるほど夢はある。しかし、俺にとっては興味のない話だったな。

 そんな俺の雰囲気を察してか、店主は「とある森でBランクの魔物が現れたらしい……」とか「何々という町には呪われた屋敷があるらしい……」だとか、気を遣って他の噂話を聞かせてくれたが、どれも信ぴょう性に欠けた上、魔剣の話からは逸れていた。


 そうこうしている内に、女性陣はアクセサリーを選び終わったようだ。

 フィリアは、先ほど話に出ていたドランデルから掘り出されたという火の魔石が使われた指輪を。リアナは、銀の鎖に土の魔石があしらわれたネックレスを選んだ。

 ふむ、二人とも遠慮してか実用性を加味して選んだようだな。どちらも戦闘で魔術を使うし、魔力が枯渇した際の備えとしては悪くない。

 財布から取り出した銀貨を手渡すと、店主は満面の笑みを浮かべた。


「お買い上げありがとうございます!」


 店主が手を振りながら送り出すのを背に感じながら、俺たちはその露店を後にした。

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