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59話:勧誘と招待

 冒険者協会の建物に着いて早々、俺は先のリアナの言葉の意味を理解することとなった。


「なあ君! 俺たちのパーティーに入らないか⁉」

「昨日の試合見たよ。熊殺しのゴルドを倒すなんて凄いじゃないか」

「こんにちは。私たち、Dランクのパーティーなんだけど……」

「てめえら引っ込んでろ! おい坊主、ウチのところに来い!」


 建物に入るや否や、受付に辿り着くより先に複数の冒険者によって囲まれる。

 最初はゴルドたちの報復かと警戒したが、どうも昨日の戦闘を見た野次馬たちによるパーティーへの勧誘のようだ。何人かはあの場に居なかった顔もあることから、どうやら多少なりとも噂になっているとみえる。

 なんにせよ、鬱陶しいことこの上ない。


「せっかくの誘いだが、あんたらとパーティーを組むつもりはない。悪いが通してくれ」


 それだけ言うと、冒険者たちの言葉をすべて無視して俺は歩き出す。

 話も聞かずそっけない態度をとる俺に、若干の不満を覚えた者も居たようだが効果はてきめんで、大半の者は勧誘は無理だと即座に悟って離れてくれた。中には食い下がろうとした者もいたが、そいつらには少し睨みを効かせて無理やり下がらせる。

 そんな俺が乱雑に追い払った冒険者に対し、フィリアは丁寧な口調でやんわりと謝罪を述べている。俺の態度に文句の声が出ないのは、彼女の柔らかな物腰のお陰であった。

 ……自分で言いたくはないが、この様はまるで道行く人にむやみやたらに威嚇する猛犬と、それを宥めながら通行人に謝罪する飼い主のようだ。

 そんなこんなで、集まってきた時と同じくらいの速度で、俺たちの周りからは人が居なくなった。


「お、おおー……凄いわね。まさかこんなすぐに人を追っ払っちゃうなんて」


 冒険者が集まり始めてから意地の悪い笑みを浮かべて見守っていたリアナは、ものの数分で追い払ってしまった俺たちを見て感心する。若干、俺の態度には呆れているようにも見えるが。


「リアナお前、知っていたなら教えろよな……」

「いやあ、困るアンタたちが見たくて、つい。でも大勢の人に囲まれるの気分良かったでしょ?」

「まさ「そりゃあ、まあ。悪くなかったわね」…………そうか」


 否定の言葉に被せてフィリアが能天気にそう言ったものだから、彼女に呆れつつも俺は言葉を飲み込んだ。俺としては見知らぬ人間に囲まれるのは、煩わしさしか感じないんだがなあ……。


「しかし、まだこっちを見ている奴がいるな。まだ諦めてないのか」


 肌で感じる感覚から結構な数の人がこちらを見ているのがわかる。俺たちが囲まれている間も動かずにいたことから、慎重に品定めをするなり期を伺っているなりしているのがわかる。

 もちろん、それ以外の感情を持った視線もあるが……まあ、こちらは気にするようなものでない。


「そりゃそうよ。昨日あれだけの試合を披露したんだから。アンタを仲間に引き入れたいと考える奴は大勢いるわよ」

「そうは言うが、こちとらFランクだぞ? それも昨日登録したばかりの。集まってきた奴らの中にDランクのパーティーを組んでいるとかいう奴もいたが、その中に最低ランクの冒険者を入れてもいいのかよ?」

「冒険者でパーティーを組むのにランクは関係ないわよ。受けられる依頼ランクに制限が付いちゃうけど、結局のところそれだけね。お節介焼きな人なんかは登録したての新人をパーティーに引き入れて、魔物の戦闘経験を積ませてくれるし」

「意外と優しいのね? こう言っちゃうと失礼だけど、冒険者ってもっと個人の成績を気にするものだと思ってたわ」


 確かに。積極的に新人を育てるのはとてもいいことだが、その分自分たちが得られる依頼数や報酬額も減るだろうに。


「確かに冒険者は個人主義な人が多いけど、それと同じくらい仲間との連携を大事にするのよ。強い魔物を倒したり、金持ちの商人を護衛するのにはどうしても人数が要るからね。ましてやここカルディナは多くの商人が出入りする町だからね。優秀で信頼できる冒険者はいくらでも欲しいのよ。護衛を依頼する商人にとっても、一緒に働く冒険者にとってもね」

「む、そうか……確かに、そうだよな」


 よくよく考えてみれば、普通は魔物と戦う場合は安全を期して複数人で戦うものだ。危険性の低いF・Eランクの魔物ならば、剣を握ったばかりの素人でも対処はできるが、Dランクからは戦闘訓練を積んでいないと一対一では難しい。Cランクともなれば戦闘訓練を積んだ者でも、一対一では十分に負ける可能性がある。俺のように単独でCランクを倒せる奴の方が少ないか……。

 商人の護衛ともなれば、規模によっては冒険者数人程度では利かなくなるだろう。


「なんというか、意外と面倒見が良いんだな。冒険者って」

「まあね。アタシみたいにパーティーを組まないで孤高を気取ってる冒険者もいるけど、基本的にそういったヤツは長生き出来ないらしいわ。アタシはあんまりそう感じたことないけど、仲間がいるのといないのとでは冒険の楽しさは違うわよ?」

「……ま、いいか。さっさと緋露芍薬(それ)提出しようぜ」


 フィリアに持たせた花束を指差し、俺は窓口の方へと急かす。ちなみに、フィリアに持たせた理由は、昨晩の視線を思い出したからだ。あんな辱め、二度はごめんだ。


 しかし、「孤高を気取ってる」ねえ。リアナも自虐なんてするんだな。一見能天気で明るい性格をしているが、これまで色々あったんだろうな。

 ま、他人が深く突っ込むことではないか。


「おはようございます。受注ですか? 報告ですか?」

「報告だ。緋露芍薬の採取依頼を受けていたんだが……」

「では依頼書と採取物を確認しますので、そちらの提出をお願いします」


 職員に言われるがまま俺は鞄から昨日掲示板から剥がした依頼書と緋露芍薬(ひつゆしゃくやく)の根を取り出し、包装の血染布(けっせんふ)を外した花と共にカウンターに提出する。

 窓口の女性職員はまず依頼書と冒険者カードを軽く確認すると、花と根を持って奥へ下がる。

 ふむ、昨日はその場で査定をしていたが今回は違うんだな。受付に立つ研究者(スコラー)の違いかな?

 幸い数分もしないうちに職員は戻ってきた。


「お待たせしました。採取物はどれも良い状態ですね。査定した人が褒めていましたよ。それでは冒険者カードをお預かりします」


 そう言われた俺とフィリアは自身の冒険者カードをカウンターに提出すると、職員はそれを受け取りカウンターの下に潜らせる。そのまま少しうつむいて指を動かしたかと思うと、すぐに冒険者カードをカウンターの上に戻した。そしてその隣に、手慣れた調子で金銭を積み上げていく。


「記録が終わりました。こちら冒険者カードのお返しと、依頼の報酬となります。ご確認ください」

「どうも」


 報酬金額は銅貨三十枚。依頼書に書かれていた報酬金額と齟齬がないことを確認し、俺はカードと報酬を受け取った。

 ……冒険者カードには特に変化は見られないが、これでも業績は記録されているらしい。昨日気になって聞いてみたところ、カウンターの下に【歴精記盤スクリヴァ・アーカイブ】なる特殊な魔道具があり、それを用いて記録しているとのこと。どうやらこれで、世界中に存在する何百万という数の冒険者の業績を記録しているらしい。

 思わずその原理を聞いてみたが、魔道具の仕組みは職員にもよくわからないとのことだった。まあ、魔道具のような複雑な機構はその道の専門家の領分だから、知らないのが普通か。


「依頼達成お疲れ様です。この後のご予定はお決まりですか? 依頼を探すようでしたら、私がお手伝い出来ますが」

「こいつは親切にどうも。仕事はしないんだが、いくつか聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

「冒険者のコーネルという男の情報を集めているんだが、奴がどこから来たか知りたいんだ。冒険者協会なら奴の出身地くらいは記録しているはずだろ?」

「コーネル、ですか? 申し訳ありませんが、お名前だけではなんとも……」


 心当たりがないのか、職員は少し困った顔をして謝罪する。すると後ろにいたリアナが乗り出して、更に補足情報を加えていく。


「Bランクのコーネルよ。こう言えば誰かわかるでしょ?」

「ああ! あのコーネルさんでしたか。そういえば、最近見ておりませんね。どこか長期の依頼を受けたのかもしれませんね。今調べますので、少々お時間を――」

「ああ、違うの! 知りたいのはどこへ行ったかじゃなくて、どこから来たのかってことなの。さっきコイツが言った通り、出身地か、できれば主にどこでどんな依頼を受けていたかを知りたいんだけど……」

「は、はあ……失礼ですが、なぜそのようなことを知りたいのでしょうか?」


 まあ、当然の疑問よな。さて、領主様から色々と伏せられている中で、どうやって事情を説明したものか……。


「……それに関しては、私が説明いたします」


 俺が悩んでいると、今度はフィリアが口を開く。それもやや上品さを感じさせるような口調で。

 フィリアの雰囲気が急に変わったのを感じたのか、職員は軽く驚きやや緊張した様子を見せる。


「先ほど私の冒険者カードを見たのでご存じと思いますが、改めて自己紹介を。私はフィリア・ロスウェル。ここより西の地を治めるロスウェル子爵家の者です」

「は、はい。ええ、っと……お会いできて光栄です?」


 お、おお、凄い。声を荒げるとか、高圧的な口調をしているわけでもないのに、一瞬にして職員をたじろがせた。冒険者カードに書かれた名前から、どこぞの身分のある家の者であるとわかったはずだが、フィリアの冒険者らしからぬ優美な仕草で、職員は一気に身分差を悟り緊張したようだった。

 少し上品なだけの旅装束を纏っているというのに、口調と雰囲気だけでよくやるものだ。


「お話を始める前に少し注意を。これからお話しすることは非常にデリケートな問題を抱えており、ともすれば冒険者協会様の信用にも影響が出てしまう可能性があります。ですのでどうか内密にお願いいたします」

「ええ⁉」

「実は、ここに居るリアナさんは少し前に、コーネルさんとCランク冒険者のカイルさん、エマさんと共に、我が家の依頼を受けてロスウェル村に来てくださったのですが、その途中で少々……いえ、非常に大きな問題が起こりまして。と言うのも、調査の途中でコーネルさんは――」

「ちょ、ちょおーっとお待ちくださいね! い、今、上の者をお呼びしますから!」


 これ以上の話は自分の手に余ると判断したのか、無理やりフィリアの話を遮って職員は大慌てでカウンターの奥の方へと引っ込んでいった。

 その後ろ姿を唖然と見守るリアナと俺。それを成したフィリアを見てみると、彼女は少し申し訳なさそうでありながらも、作戦が上手くいった事に満足したような顔をしていた。


「……ちょっと可哀そうだったかしら? でもあの様子なら、情報は期待できそうね」

「お前、わざとあの職員をビビらせたな?」

「仕方ないじゃない。まだ事態が公になっていない状態だから事情は話せないし、かといって私たちにはは血追いの徒の手がかりが必要なんだから。こちらの事情を伏せつつ個人情報を手にするには、私の貴族という身分を利用しないと」

「別に責めちゃいないさ。流石だなと、思ったところだ」


 俺は冒険者協会からは情報を引き出せないだろうと諦めていたからな。お陰で地道に聞き込みするよりも早く、そして格段に信頼できる情報が得られる。

 感謝の言葉を述べると、フィリアは得意げな様子で胸を張った。


 職員が奥へ下がってから依頼受注・報告の窓口に待たされること数分。後ろに他の冒険者が並び始めたあたりで、先程の職員が窓口からではなく外に出て俺たちのもとへ出てきた。

 しかし何故だろうか、彼女の様子は先程よりも緊張しているように見える。


「お、お待たせしました。皆様のご要望を上に伝えたところ、統括者(ギルドマスター)がお話を聞きたいとのことです」

統括者(ギルドマスター)が?」

「はい。統括者(ギルドマスター)のお部屋は二階にありますのでご案内いたします」


 少し驚いた様子のリアナに軽く肯定すると、職員は俺たちを案内し始める。

 長いカウンターの端にある職員用の出入り口を通る。カウンターの奥では大量の机が並んでおり、同じ青色のスーツに身を包んだ多くの人が膨大な書類に囲まれながら事務作業をしていた。

 書類の他にも、冒険者が提出した多くの植物やら、魔石、その他魔物素材が積まれた机があり、それぞれに立つ職員が丁寧かつ冷徹に素材を査定していた。


 なるほど、これが研究者(スコラー)たちの普段の仕事か。俺たちと同じ冒険者とは思えないが、これはこれで頼もしさを感じる光景だな。ともすれば、討伐者(ハンター)よりも威厳というものがあるかもしれない。


 部屋の奥には金庫と思われる非常に大きく重厚な金属の扉が備えられており、そこに目を見張るほどの大金が用意されている事は想像に難くない。

 ふうむ……あれの中身を全部戴いたら、生涯金には困らなそうだな。魔術で厳重に保護されているから、破るのは熟練の魔術師でも不可能に近いだろうが。


「前に来た時も思ったけど、でっかいわねえ……ねえねえ、あれ盗んだら大金持ちになりそうじゃない?」


 リアナが声を潜めて俺たちに耳打ちをする。まさか同じ思考をする奴が俺以外にもいたとは……。

 思わず俺は苦笑いで応え、正義感の強いフィリアは反対に顔を顰める。


「ちょっと、気持ちはわかるけどそういうこと考えないの。周りに職員さんもいるんだから」

「まあまあ、ただの冗談だろ。ところでリアナ、前にも来たってのはどういうことだ?」

「アンタたちの村から帰ってここで依頼達成の報告したら、アタシたち三人はすぐに統括者(ギルドマスター)に呼ばれたのよ。どうも、村で何があったのか聞きたかったみたい。あ、もちろん子爵様に口止めされてたから何も話してないわよ」

「……ほう」


 ということは、今呼ばれたのはその続きということだろうか。不思議なのは、なぜ統括者(ギルドマスター)がロスウェル村での出来事を知っているのかということだ。喰血哭(ブラッドハウル)のことはロスウェル村にいた者しか知らないはずだが……。


「むう、私としては少しだけ責任のある人が出てくれればよかったのに、まさか統括者(ギルドマスター)が出てくるなんて……これはちょっと気を引き締めないと」


 フィリアも静かに気合を入れる。相手はこの町の冒険者を束ねる協会のトップだ。既に家の名前を出して交渉した以上、迂闊なことは言えないだろう。

 二階に上がり職員はひとつの扉の前に立つと、軽くノックをする。


統括者(ギルドマスター)。お連れしました」

「どうぞ。入ってください」


 扉の中から聞こえたのは、予想よりも若く静かな男性の声。職員が扉を開けて俺たちを部屋の中へと入れると、そこには声の印象から外れていない二十代後半と思わしき線の細い男性の姿があった。


「ようこそいらっしゃいました。私はこの冒険者協会カルディナ支部の統括者(ギルドマスター)を務めています、ライナス・モルテインと申します」


 そう言って温和な笑みを浮かべて、統括者(ギルドマスター)モルテインは俺たちを迎え入れた。

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