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51話:依頼を探す

「ありがとう。世話になった」

「いえいえ、何かわからないことがありましたら、今後も遠慮なく訊ねてください。我々職員が誠心誠意対応させていただきます。この後すぐ依頼を受けるのであれば、壁の掲示板からご自身のランクに合った物を選んで、隣の依頼受注窓口まで来てくださいね」

「依頼かぁ。どうする?」


 フィリアに視線を送ると、彼女は非常に張り切った様子で頷いた。


「せっかくだからやりましょう! どんな依頼があるのか確かめておきたいし」


 気合は十分だな。

 窓口を離れて掲示板の方へ向かうと、人だかりはだいぶなくなり依頼が見やすくなっていた。あれだけの人が居たから張り出されている依頼もだいぶ減ってはいたが、それでもかなりの数が残っている。俺たちのランクであるFランクの依頼はほとんど減ったように見えない。

 貼り出されている依頼内容を見てみると、どれも雑用や採取系の依頼ばかりで討伐依頼は限りなく少ない。あったとしても民家に出たネズミの駆除や畑を荒らす害獣の駆除程度のものだ。中には飼い猫の捜索や排水溝の掃除などが、探索者(シーカー)用の依頼として張り出されている。


「うーん、こうして見るとどれから始めたらいいか悩むわね。街の中での雑用も多いし」

「確かにこうもいっぱいあるとねー。でも、そんなに難しく悩まなくても良いと思うよ? Fランクの依頼はどれも一日で終わるようなものばかりだし、気軽に出来るものかやってみたいと思ったものを手に取れば良いんじゃない? あ、いちおうEの依頼も受けられるから、手応えのあるものをやりたいならそっちもお勧め」


 悩むフィリアにリアナが助言をする。

 やってみたいもの、か。改めて見るとFランクは、圧倒的に探索者(シーカー)の依頼が多いな。一つ上のEランクからは討伐依頼が増え始めたが、そちらもあまり多くはない。人を襲うこともある魔物と戦う程度の危険度か。


「ん? この依頼……」


 ざっと依頼書を見渡していたところ、知っている名前が目につきそれを手に取る。


緋露芍薬(ひつゆしゃくやく)の採取依頼……ここら辺に生えているのか?」


 緋露芍薬(ひつゆしゃくやく)は増血薬にもなる植物で、緋色の花が特徴の多年草だ。薬効が有るのは根っこの方だが、花の方も観賞用として一定の人気があると聞いたことがある。花弁が雨などに濡れると雫が緋色に染まり垂れることから、その愛らしい見た目とは裏腹に別名「血涙草」とも呼ばれている。

 ロスウェル村の近辺にはなかったが、(ぜんせ)は俺もよく世話になった植物だ。

 内容を読んでみると町の外へ行って五株程採取して来いとのこと。どうやら花と根の両方を必要としているようだ。報酬は銅貨十枚で、一株増えるごとに銅貨が二枚増えるようだ。

 ちなみに依頼ランクはFで、探索者(シーカー)向けの依頼だ。


「へー、アゼルは採取依頼(そっち)取ったんだ? てっきり討伐の方を選ぶと思ってた」


 後ろから依頼用紙を覗き込んだリアナが、少し意外そうな顔をした。


「そんなに意外か? Fランクはそもそも討伐系の依頼が少ないから、自然と採取とか雑用の依頼を選ぶと思うんだが?」

「意外とそうでもないよ。特に、アンタみたいな腕に自信のあるヤツはね。腕っぷしを自慢しているヤツは大抵、始めっから魔物の討伐をしたがるわ。アタシも登録して最初に受けた依頼はEランク依頼の小悪鬼(ゴブリン)の討伐だったしね」

「血気盛んだな。冒険者らしいっちゃらしいが」


 ちらりと壁に貼られた討伐依頼に書かれている報酬額に目を向けると、やはり採取よりも金額が高い。低ランクでは魔物の強さも報酬額も高が知れているが、ちまちまと草を毟るよりかは労力も実入りも良いのだろう。

 その分怪我をするリスクはあるが、血気盛んな若者は短時間で稼げるというリターンを求めて、進んで魔物と戦いたがるのだろうな。

 俺がそう言うとリアナは呆れたように溜息を吐く。


「何中年のおじさんみたいなことを言ってんのよ。冒険者なんて魔物と戦ってなんぼの世界よ? ほら、フィリアだって討伐依頼に目が行ってるじゃん」

「うえっ⁉ いやあ、あはは……」


 不意に名前を呼ばれたフィリアは変な声を上げた後、誤魔化すように笑う。その手には粘魔(スライム)の討伐依頼の用紙があった。


「だいたいアゼルだって戦うのは嫌いじゃないでしょ? アタシの見間違いじゃなければ、アタシとの試合も楽しんでくれたみたいだし?」

「楽しんでた、か。否定はできないな」


 実際、リアナとの試合は俺も楽しかった。後半はほぼ俺が一方的に攻めていたが、【血濡魔術ブラッティー・マジック】を使うくらい――それも一対一ではあまり使わない【血織刃(けっしょくじん)絡繰蜘蛛(からくも)】を見せるくらいには興は乗っていた。


「戦いが好きというよりかは、厳密には「試合」が好きなだけだ。試合は命の危険もないし、純粋に武を競う楽しさがある。だが、魔物の討伐は試合じゃなくて「殺し合い」だろ?」


 試合は楽しいさ。命の危険は無いし、ルールで身を守られている。守られているということは、遊ぶ余裕があるということだ。だから俺も普段と違い、無駄なことをするし、効率を無視して大技を繰り出したりもする。

 だが、殺し合いともなると話は別だ。ルールなんてない。どんな手を使おうが、先に殺した方が勝ちだ。殺しの場で求められるのは、どれだけ無駄を排し、効率的に殺せるかだけだ。

 命がかかっているような場で楽しみなんて要らない。愉しんだら、それこそただの異常者だ。俺は間違ってもそんな風にはなりたくないね。


「えっと……なんかごめん。結構真面目に考えていたんだね」


 リアナが戸惑ったように謝罪する。そばで聴いていたフィリアも心なしか静かになっている。

 しまった、つい過去の暗い気持ちを思い出して言ってしまった。


「……こほん。あー、そこまで気にするな。人間にとって魔物は脅威であることは変わりない。魔物なんて放っておいたらぽんぽんと増えるんだ。動機はどうであれ意欲的に討伐してくれるのなら、結果的には人のためになることだ、うん」


 空気が悪くなったことを察知した俺は、急いでフォローする。初仕事前にするような話ではなかったな。


「それよりフィリア、依頼は決まったか? 俺はこの依頼を受けようと思っているが、もし悩んでいるな今持っているその粘魔(スライム)の討伐依頼を受けたらどうだ? 同じく外に出る依頼のようだし、丁度いいんじゃないか?」

「……そうね。そうしましょうか」

「決まりだな。受付にはこの依頼用紙を持って行けばいいのか?」

「そうよ。じゃあ、さっそく行きましょう!」

「わわっ、そんなに引っ張らなくても大丈夫よリアナ!」


 これ以上水を差さないように、俺は少し急いで受付に向かった。その気配を察してか、リアナも瞬時に調子を合わせて急かすようにフィリアの手を引いた。

 登録試験を挟んだおかげでだいぶ人が捌けた依頼受注窓口へ向かうと、受付には先ほどの職員が笑顔で待ち構えていた。

 彼女に二枚の依頼書を渡すと、リアナと同様に少し意外そうな顔をした。


「あら? 粘魔(スライム)の討伐に採取依頼ですか? てっきりEランクの討伐依頼から始めるかと思っていました」

「あんたもか……そんなに意外か?」

「正直に申し上げますと、少し……Cランクのリアナさんを圧倒する実力を見せてくださったので、受ける依頼も難易度が高いものを選ぶかと」


 確かに、そう思われるのは当然か。

 とは言えFランクで選べる討伐依頼なんかにさほど魅力は無い。低い魔物に歯ごたえは期待できないし、そもそも受けられる数も少ない。それなら討伐に拘るよりも、街中の雑用なんかを大量にこなして地味な実績を積み上げたほうが、早く上のランクに上がれそうだ。

 カイルたちや職員の話を聞いた限り、Cランクまではこなした依頼数と信用で順調に上がっていくようだしな。


「えーっと、『緋露芍薬×5株の採取依頼』に『粘魔(スライム)の討伐依頼』……はい、二件とも確認しました。粘魔(スライム)に関しては町の北側の街道で見つかったようですので、街道付近を探せばすぐに見つかると思われます。討伐した証明として粘魔(スライム)の魔石を持ってくることをお忘れなく。魔石の提出後、その数に応じた報酬をお渡しいたします。緋露芍薬も北側の森に有るのですが、少し奥の方へ行かないと生えていないかもしれません。見つけるのはそう難しくは無いと思いますが、少し時間がかかるかもしれませんよ?」

「大丈夫だ。採取したらここに持ってくればいいんだよな? 根と花は切り離して運んでいいか?」

「問題ありません。ただ、植物の状態次第で報酬金額が変動するので、運ぶ際には細心の注意を払ってください。緋露芍薬の情報に関してですが――」

「大丈夫だ、こいつに関してはそれなりに知識がある。せいぜい花を傷つけないよう、運ぶのだけ気を付けるよ」

「わかりました。それでは、定員二名でこの依頼を受理しました。お二方、頑張ってくださいね」


 そう言って、俺たちの初の手続きが終わった。さて、採取には時間がかかるらしいし、速いところ行くとしようか。


「よーし、それじゃあさっそく北の街道へ出発(しゅっぱーつ)!」

「おー!」


 リアナの音頭にフィリアが乗っかる。

 初の冒険者の依頼ということで張り切っているようだ。元気なことは良いが、張り切り過ぎて途中でへばらないか少し心配だな。


「……いや、待て。フィリアはともかく、なんでリアナが仕切っているんだ?」


 別にお前がこの依頼を受けたわけではないのだから、テンションが上がるのはいささか変じゃないか?

 そう思っての発言だったが、リアナはきょとんとした顔でさも当然かのようにこう言った。


「え? アタシもついて行くからに決まってるじゃん?」

「「……うん?」」


 俺と職員の声がまたもや重なった。

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