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50話:冒険者カードと門出

「はい、お待たせしました。こちらが、お二方の冒険者カードの()となる材料板です」


 そう言うと職員はカウンターの上に何も書かれていない二枚のカードと、謎の魔道具を乗せた。

 リアナとの試合を終えた俺とフィリアは、合格を言い渡され登録の窓口へ戻っていた。そこで冒険者としての身分を示す「冒険者カード」なる物を作るらしい。


「まずはこちらの「魔力記録機(アウラ・レコーダー)」と呼ばれる魔道具に魔力注いでください。道具の上部にある空の魔石に魔力を注ぐと、魔力が魔石の中に溜まり下部にある針を震わせます。その針は波のような模様を描き、それを材料板へ刻みます。これによってお二方だけの、唯一無二のカードが作られるというわけです」


 なるほど。魔力というのはすべての生物に宿るものだが、その性質は個々人によって異なり、そしてこの世に二つとない。いわば魔力の記録とは究極の個人証明に他ならない。

 おそらくこの魔石にも昨日フィリアが教えてくれた「魔石から魔力を引き出す術式」が使われているのだろう。魔道具自体は魔石と針だけの単純な構造だが、なかなか優秀な魔道具だな。


「それでは、どちらが先にやられますか?」

「あ、それじゃあ私から」


 フィリアが右手を魔道具の魔石に置くと、魔石に赤系統の光が灯った後、下の針が小刻みに揺れて材料板に波の模様を描き始める。

 魔石に灯った色は内包する魔力の色と関係しており、その色が目立てば目立つほど色に対応した魔術が得意であることを示している。赤であれば火属性、青であれば水属性、黄色であれば土属性、緑であれば風属性、といった具合だ。

 フィリアの得意としている系統は火属性であるため、魔力の色も赤色となっている。しかし、光をよく見てみると、赤以外にも複数の色味が混じっているのがわかる。

 ふむ、青と緑はそこそこあるが、黄色はごく僅かしかないな。このことからわかるのは、フィリアは土属性の魔力量が他の属性と比べても非常に少ないということだ。

 魔力総量は訓練次第で増やすことができるが、内包する魔力の属性は生まれ持ってのものだ。いわゆる才能のようなもので、どれだけ鍛えようが少ない属性が優勢の属性を塗り潰すことはない。

 もしフィリアが土属性の魔術を最上級魔術まで習得したいとなると、地道に魔力総量を増やして小さい土属性の魔力を膨らませるしかない。だがその頃には、得意の火属性は最上級魔術を何百発も撃てるようになっているだろう。


「はい、終わりました。これで、フィリア様の魔力の形が冒険者カードに記録されました。この模様は写しが作られ、冒険者協会の方でも保管されます。ですのでカードを紛失したとしても、またこの魔道具で魔力の形状を描き、協会に保管した記録と比べて本人確認ができれば、冒険者の活動実績を失わずに再発行ができます。次はアゼルさんですね、どうぞ魔道具に手を」

「……ああ」


 フィリアの記録も終わりついに俺の番が回るが、俺は僅かに緊張していた。

 実のところ、俺は「今の」自分の魔力の色がどうなっているのかを知らない。魔力を可視化する技術自体は前世でもあったが、グラディア帝国では魔術を学ぶことのできる特権階級しかこういった魔道具に触れることはできなかった。そのため、俺の記憶にある俺の魔力の色は先生の下で暮らしていた時の物だ。

 通常であれば、どれだけの時が経とうとその時の色のままなのだが、俺の場合は色々と事情があるからな。そもそも話として、この魔道具は俺の魔力で正しく機能するのだろうか?

 そんな不安を抱きつつ、俺は魔道具に手を乗せて魔石に魔力を流していく。

 果たして結果は――


「あら? これは……」

「へえ……」

「……ふむ」


 魔石の中に生じた色は「赤」。色味だけで言えば火属性の魔力と同じだが、見れば明らかに違うことがわかる。

 フィリアの魔力が、白いカンバスに淡い赤色の絵の具を塗ったような「魔力の光」であるのに対し、俺の魔力は、黒いカンバスに暗い赤い絵の具を塗ったような「魔力の闇」と言うべきもの。

 暗い魔力は瘴気の魔力の特徴だ。そしてこの色は、俺の記憶にある物とまったく同じものだった。


(なんだ。てっきり【夜闇呪文(ノクターン・スペルス)】の影響が魔力にも出ていると思っていたが、まったくそんなことなかったな。いやあるいは、影響が出ていたけども【夜闇呪文(ノクターン・スペルス)】が抜けると共に、本来の色に戻ったのか?)


 なんにせよ、俺の魔力は正常に魔石に取り込まれたようだ。

 フィリアと同様に針が小刻みに動き、俺の分のカードに模様を描いている。


固有魔術(ユニークマジック)の魔力を魔石に込めたら、こんな風になるんだ」


 フィリアが興味深そうに魔石を眺める。だが俺が気になるのは、彼女よりも職員の方だ。

 試験の時点で俺の魔術は見られているから、俺が固有魔術(ユニークマジック)使いであることはわかっていると思うが、それによってどんな反応をするかは未知数だ。あまり悪い反応をしないで欲しいものだが……。

 俺は職員に悟られぬように視線だけを動かして伺うと、俺の悪い予想に反して彼女の反応はフィリアと大して変わっていなかった。


「私もそれなりに長いこと冒険者協会の受付をしていますが、固有魔術(ユニークマジック)の魔力を見たのはこれが初めてです。なんと言いますか、思っていたよりも普通の色味ですね? 色が明るくないのは魔物の魔石と同じですし……」

「そうですよね……道中で遭遇した木陰狼(シェイドファング)の魔石も暗い色味をしていたし、これがアゼルの言う瘴気の魔力ってやつの特性なのかも?」


 そんな感じで職員はフィリアと共に感想を言い合っていた。なんというか、かなり普通だ。色味が見慣れたものであったというのもあるかもしれないが、せいぜい不思議なものを見た程度の反応しかない。

 俺の試合を直接見ていた上でのこの反応だ。試合終了直後の彼女の表情は、フィリアの時とはまた違った引き攣り方をしていたが、案外【血濡魔術ブラッティー・マジック】の名前を出したところで、なんとも思われないのかもしれない。

 そんなことを考えていたら、魔力の記録が終わった。職員は俺とフィリアのカードを回収すると、それを持って一時カウンターの奥へと行ってしまった。

 ……そうそう、試合で思い出した。


「……なによ」


 先ほどから俺たちの背後で静かに佇んでいるリアナを見やると、彼女は不機嫌そうに頬を膨らませたまま、半目で俺を睨みつけていた。


「まだ怒ってんのか。いい加減機嫌直してくれよ。俺もやり過ぎたのは認めるが、全力を出せって言ったのもそっちだろ?」

「別に怒ってないし……」


 駄目だ、完全に不貞腐れている。

 試験でフィリアに一本取られたのもそうだが、それ以上に最後に俺の魔術でおちょくられたのが余程気に障ったらしい。


「まあ、あれはアゼルが悪いわね。試験とは言え、もうちょっとやり様はあったんじゃない?」

「そうよ! だいたい何なのよアレ⁉ 全然逃げられなかったんだけど⁉」

「あれは身の回りの防御と攻撃の手数を追求した鎧みたいなもんだ」


 本来【絡繰蜘蛛(からくも)】は多数の敵に囲まれたときに使って死角を守る技なんだが、リアナとの戦いで見せた通り対個人戦においてもかなり有効だ。

 今回は試合ということで刃を潰していたから逃げられないように囲ったが、実戦では逆に相手に接近させないように立ち回っている。たまに刃を捌いて接近してくる奴もいたが、並の敵だったら自分の武器の間合いに届くよりも先に【血織刃(けっしょくじん)】で死ぬ。


「鎧っていうか、もはや人型の魔物みたいなもんだったわよ……今着ている外套(コート)の素材ってどうなってるの?」

「素材自体はどこにでもある毛織物(ウール)だ。だが魔力を流してやれば、その強度は最高で鉄製の甲冑並になる。だから身に着けているんだよ」

「なにそれ、軽いのに甲冑と同じ防御力なんてズルじゃない! しかも防御も攻撃もこなせるって……もしかしてそれ着ている限り無敵?」

「いや、実はそこまで都合よくはないんだ。便利なのは間違いないがな」


 素材が布だから鉄装備よりも軽くて動きやすいというメリットはあるが、強度を担保するためにはそれ相応の血液が必要になるし、血液が増えれば増える程に【血織刃】による変形に必要な魔力が増える。

 ただでさえ布を鉄並みの強度にするのにそれなりの血と魔力が必要なのに、【絡繰蜘蛛】の場合はそれが六本だ。ただ外套(コート)の状態のまま変形させず鎧として活用すれば魔力の消費も少ないが、武器として大きく形を変えるとなると血と魔力をそちらへ多く回さなければならない。そうなれば必然と同部分の血の量は減るし強度も下がる。

 両立できないことはないだろうが、十全に効果を発揮させるためには、攻撃と防御で使い分けなければならない。


「どこかが突出すれば、代償としてどこかが削れる。魔術とはそういう物だ。そも【絡繰蜘蛛】は基本的に複数人相手に使うものだ、一人を相手に使ったのはこれが初めてだよ」

「……つまり、それなりに追い詰められていたってこと?」

「そう捉えてくれて構わない。事実、お前のスピードと双短剣は厄介だった」

「……ふふんっ、そういうことならいいわ。今回は許してあげる!」


 そう言うとリアナは僅かに胸を張って満足げな笑みを浮かべた。やれやれ、やっと機嫌を直してくれたか。単純な性格で助かるぜ。

 リアナの機嫌が直ったタイミングで、奥から職員が戻ってきた。その手には平たいトレーを持っていた。


「お待たせしました。こちらが、お二方の冒険者カードです」


 トレーの上に乗る冒険者カードには、先ほどはなかった文字列が並んでおり、そこには俺たちの名前や出身地、発行日と支部名といった情報が記載されていた。カードの右側には大きく「F」と書かれており、それが冒険者ランクを示していることがわかる。

 カードを受け取り裏面を確認すると、魔力記録機(アウラ・レコーダー)で描いた魔力の波形が描かれている。


「書かれている情報に誤りはございませんか?」

「大丈夫だ、問題ない。ひとつ気になることがあるとしたら、カードの下に空白の欄があることだが、そこには何が書かれるんだ?」

「そこには今後、お二方が積み上げるであろう実績が書かれる予定です。カードの更新と共に、これまで達成した依頼件数が表記されていきます。依頼はすべて冒険者の役職で分類され、どの依頼をどれだけ達成したかで、その冒険者が何に向いているのかがわかりやすくなっています。言ってしまえば、能力の対外的なアピールが目的ですね。研究者(スコラー)だけはその仕事柄、少し特殊な表記をするのですが、能力のアピールに役立つのは相違ありません」


 なるほど、例えば討伐依頼を多く達成すれば、カードを見せた時「この冒険者は腕っぷしに自信があるんだな」とわかるようになるということか。

 役職が称号のようなものであると言っていた意味がやっとわかった。


「これで登録手続きはすべて終わりです。それでは――こほん」


 職員は咳ばらいをひとつして喉の調子を整える。そして、どこか台詞めいた口調で言葉を発した。


「フィリア様、アゼルさん、ようこそ冒険者協会へ! あなた方の道行きに、開拓の多からんことを!」


 そう言ってより一層の笑みを浮かべる彼女を見て、今この瞬間に俺たちは冒険者になったのだと実感した。

 魔力の照合はDNA鑑定や指紋認証みたいなもんですね。これによって本人確認したり、偽造などは発覚する仕組みになっています。

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