17話:属性魔術と固有魔術 魔力について
依頼を受けた翌日、俺は自宅で冒険者の迎えを待っていた。
彼らと協力するにあたって、俺は固有魔術を開示することにした。もちろん教えるのは【武具製造】としてだ。
既に弓矢を作ったところを見られたのだから、固有魔術の情報は遅かれ早かれ聞かれることは想像に難くない。それならばこちらから開示することで、彼らからの信用を取りつつ、今後の行動をスムーズにしようとい考えた。
それから、俺は血染布の出し惜しみをするのを止めることにする。もちろん敢えて教えることも積極的に使うこともしないが、最悪バレてもいいと割り切ることにした。謎の魔物と相対した時、【血濡魔術】を出し惜しみしたら、冒険者も俺も無事では済まないと感じたからだ。
あの時感じた威圧感から考えると、相手はおそらくAランク相当の魔物。そんな相手に体裁を気にして【血濡魔術】の秘匿を優先して戦っていては、戦闘中に命を落とす者が出るかもしれない。それは避けたい。
「よし、血晶ができた。コイツを昨日用意したバカ長血染布を巻き付けてっと……」
そもそもの話として、なぜ俺がこんなにも俺が固有魔術を隠したがっているのかというと、固有魔術自体が異端扱いされていたからだ。
前世の俺が生きていた時代では固有魔術は迫害の対象とされており、その理由は属性魔術使いと固有魔術使いが持つ魔力の性質にある。
神話では属性魔術を扱うための魔力は、精霊がもたらした「精気」に由来するとされている。精気は「聖」の性質を持っているとされ、生や恵みを与え世界を浄化する力があると言われている。そのためこの世界では精霊を信仰する宗教が多く存在している。
反対に固有魔術を扱うための魔力は、魔族がもたらした「瘴気」に由来しているとされている。瘴気は「邪」の性質を持っているとされ、死や不浄を与え世界を汚す力があると言われている。この魔族という存在は、人を堕落させ世界に破滅をもたらす悪しき存在と神話では語られ、そのため精霊を信仰する教会では、悪徳の象徴とされている。
「精霊」と「魔族」、「精気」と「瘴気」、「生」と「死」……とまあ、相対する関係のため当時から数の少ない固有魔術使いは特に酷い迫害を受けていた。
当時は属性魔術は限られた者しか使えない特別な技術だったため、先天的に魔術を扱えた固有魔術は有権者にとって目障りだったのかもしれないな……。
しかし現代では固有魔術は社会的にも認められるようになっていき、固有魔術を忌避する風潮は、昔の風習を残したごく僅かな地域でしか確認できなくなったそうだ。
今から一五〇年前、伝説の大賢者が属性魔術と固有魔術の存在を市井に広く伝えたことで、魔術は特別な技術ではなくなり、それに伴い市井が抱いていた属性魔術に対する「神聖視」と固有魔術に対する「忌避」の偏見の目をひとつずつ消していったのだという。
そのおかげで今では、こんな田舎村でも魔術を使う者は一定数いるし、俺は固有魔術が使えることを公言できている。
にも拘らず俺が【血濡魔術】を【武具製造】という偽りの名で広めている理由は、単純に「血の魔術は不気味で不吉」だという理由からだ。
なぜ不吉という風潮があるのか? それはロスウェル村が古い風潮が残った因習村だからではない。
そう「血塗れ夜王」が原因だ。詩や子供を教育するための唄にもなっているこの伝説――前世の俺の行いが、現在の俺の肩身を狭くさせているのだ。
まったく皮肉な話だな……身から出た錆か。
まあそうした理由で使いづらい【血濡魔術】なわけだが、それを何とかしようと考えた策が今作っているものだ。
「よし、見せかけ魔道具の完成だ」
【血濡魔術】を俺の力ではなく、魔道具の力ということにしてしまえばいい。
小さな鉄塊に大量の血を固めると「血晶」という血液のタンクになる。これを昨日の二十メートルの血染布と組み合わせ、血染布ごと魔術で圧縮する。そうすると、手の平大の赤い宝石のような物になる。
血晶に使用した血は、野盗討伐に使ったローブの血だ。出し見惜しみなく、すべてこっちに移しておいた。
俺の主な攻撃手段は血染布を用いた【血織刃】なのだから、こうして魔道具アピールしておけば対外的な言い訳がしやすい。
我ながらいいアイデアだ。血を介しているから不吉であることには変わりないが、森で拾ったということにして、都合が悪くなれば適当に捨てればいい。
人が人を迫害するのは、迫害の原因が本人と切り離せないからだ――それが力であれ性格であれ、な。それらを切り離せて、簡単に処分できるのなら、迫害する理由もなくなるというものだ。
「……まあ、それができないから人の手によって苦しめられるんだけどな」
最後の準備が終わったところで、都合よく玄関扉がノックされた。
「アゼルー! 迎えに来たわよー!」
扉の外から大声で俺を呼んだのは、案の定というかリアナだった。……あいつの煩さに慣れつつある自分がいる。
扉を開けるとそこには冒険者の皆が揃っていた。俺の家の前にこうして揃っているのを見ると、なんとも不思議な気分になる。
「待たせた。準備はできているから、さっそく行こう」
「ああ。これからよろしく頼む」
こうして俺は正式に冒険者の調査メンバーに加わることとなり、俺たちは再び南の森へ向かった。




