【契約】
ペケッタ公国の城壁が見えてきた頃、突然シエル達の前に現れた大蛇の魔物とキマイラ。
窮地に立たされるシエル達に更に追い打ちをかけるように現れた二人の兄弟と亜人らしき少女。
本から聖獣を召喚し、シエルへ殺意を向けていた……。
叫び声と共に現れた二体の聖獣。
炎王鳥ガールダは正に大樹の如く巨大な姿をし、雷王ギリムは通常の馬二頭程の大きさ……到底シエルが一人で戦える魔物ではなかった。
それと同時に、大蛇に周囲を包囲され身動きできない仲間達。
仲間達を逃がさんとばかりに大蛇の皮膚から出入りする棘、なんとかこの危機を脱したいと思う仲間達だったが、迂闊に動けずただ身を寄せ合う。
アルト:「頭……が……」
かなりの頭痛がアルトを襲い、妹であるセナが怒りに任せ聖獣へ指示を出してしまう。
セナ:「悪を……悪を燃やし尽くせ!!獄炎竜巻!!!」
体に纏った炎を翼で風を起こし巨大な竜巻へと変え、シエル目掛け放った。
そしてその竜巻に炎を吹きかけ更に威力を増幅させるキマイラ。
竜巻に吸い込まれそうになるも、地面に掴まり耐えるシエル……。
その渦の中へと引きずり込まれそうになるも間一髪、キマイラの尾に手が届き力いっぱい握りしめる。
あまりの握力に吼えるキマイラ……尾の蛇が舌を出し、苦しそうに暴れ始めた。
シエル:「あっぶな〜い……んぐっ……!こら!暴れるな……うあぁああ〜!!」
力強く掴まれた尾の蛇はシエルに噛み付こうと必死にもがくが、ダガーで蛇を刺し落ち着かせるシエル。
それに気づいた山羊がまた雄叫びを上げるが、竜巻の音で掻き消されシエルには何の効果も与えらず、シエルは難を逃れる。
アルト:「ギリム!あの竜巻に雷を放て!!」
アルトの指示に従うように、竜巻に雷を落とすギリム。
草原の草が燃え、電気が地面を走る。
そして不運な事にその電気がキマイラへと当たってしまい、驚いたキマイラが暴走してしまった。
シエル:「ビリビリするっ……うわっ!!うご……くなっ……危ない危ない!!……おとなし……く……しろ!!……あ……」
暴れるキマイラになんとか耐えようとしたシエルだったが、手が滑ってしまい竜巻へと吸い込まれてしまう。
シエル:「ぐっ……流石にこれは……まずい……まずいよぉ?!!」
アイリーン:「間に合って!!!」
竜巻に当たるその瞬間……
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ーんっ...?ー
地面から巨大な白い手がシエルをがっしりと掴み、地面から身体を出しその巨体で竜巻を防いでいた。
シエル:「た……助かった……ありがとうザーラ」
ユウト達:ーはぁ……間一髪……ー
アイリーン:「最強の魔神をなめないで!!自然魔法には特に強いんだから!えっへん」
ユウト:「ほんと……アイリーンが仲間にいて良かった……」
何とか死を逃れたシエル。
その光景に驚くアルトを見て、瞬時にレイン達を助けに向かう。
シエル:ーこの距離ならー
大蛇の元へ走るシエル。
ザーラの存在が好機と考えたシエルはアイリーンに指示を出す。
シエル:「アイリーン!!ザーラに蛇を殴ってって指示を出してもらえないかい!!」
アイリーン:「は!はい!!」
シエルの指示通りザーラに命令するアイリーン。
ザーラが大蛇へと飛びつき、大蛇の頭よりも巨大な手で下から強烈な一撃を食らわせる。
シエルはザーラの肩から大きく飛び、マキシスに大斧を投げるよう叫んだ。
力強く、高く投げられたその大斧の柄を上手く受け取ったシエル……、大斧の重さをのせ大蛇の開かれた口を真っ二つに引き裂く。
飛び散る肉片、雨のように降る血しぶき……。
ズシィィィ……と地面に打たれる大蛇。
仲間達の窮地を救うことが出来たシエルは満足気に笑っていた。
シエル:「うわぁ……血でベタベタだ……アハハ」
ユウト:「す、すごいですシエルさん!!」
レイン:「大したもんだな」
マキシス:「早く俺の返してくれ、魔物の血はクセェ……」
シエル:「あ!ごめんねマキシス!ありがとう!、アイリーンも本当にありがとう!助かったよ」
アイリーン:「いえ!仲間なので助けるのは当然です!...まぁ怖かったですが...えへ〜」
シエル達が無事な様子を見て、怒りに頭を焼き尽くされたような感覚に襲われるアルト...。
アルト:「僕のアルジャルトを……んぐっ!!あ゛あ゛あ゛あ゛!た、助けて……ミャーニ……」
セナ:「お兄ちゃん!!うぅ……私も……頭が……んぐっ゛!!」
セナも次第に頭痛が酷くなり始め、二人共その場で倒れ込んでしまう。
二人の異変に戸惑ってしまうミャーニ。
大声で二人に呼びかけるもミャーニの声が届くことはない。
ー解き放つのだ……神に与えられし超越した力をー
意識が何者かに支配されたように、二人の意識は遠のいていく……。
ミャーニ:「二人共!!どうしたんだニャ!!なにか答え……え……ニャァッ!!!」
瞳が赤く変わりミャーニを手で突き飛ばすアルト。
その光景に動じることの無いセナにミャーニは恐怖していた。
ミャーニ:「そ……そんニャ……」
アルト:「黙れ……醜い小娘め……我の邪魔をするな」
セナ:「さぁ、今こそ力を解き放つ時」
二人が手を繋ぎ、ブツブツと何かを唱える。
すると二人の前に大きな陣が現れ、その中から巨大な角を生やした四足歩行の魔獣が姿を見せる。
アイリーン:「なんなの……あれ……まるで悪魔じゃない……」
赤黒い目……鋭い無数の牙、真っ黒な体毛に長く尖った爪にとてつもなく長い尾...。
見るからに恐ろしく...おぞましい……この地に存在してはいけない魔獣が召喚されてしまう。
ミャーニ:「そんニャ……どうして"地獄の魔獣"が……これじゃ生態系が崩れてしまうニャ……この地が火の海となってしまうニャ……やめて……二人共やめるニャ゛!!」
明らかに様子が変わり、口調も違う二人にミャーニは涙を流す。
多くの生物、魔物を愛し……愛されてきた二人。
そんな二人がまるで別人にでも変わってしまったかのように、優しい二人では無くなってしまっていた。
幼い頃から共に旅をしてきた二人が突然恐怖に変わり果て、どうしていいか分からずただ涙を流し座り込むミャーニ。
そんなミャーニの前に突然長い紅髪が視線の先に映る。
ミャーニ:ー!?ー
シエル:「大丈夫……この二人は俺が止める」
シエルの言葉がなぜかはっきりと分かり、助けを求めるミャーニ。
零れ出てくる涙を拭いながらもシエルに救いを必死に求めた……。
ミャーニ:「お願い゛……どうか二人を助けて……助けてニャ゛゛!!」
シエル:「任せて……かわいいお嬢さん。アルフォス!この子を皆の元へ、安全な所に離れててくれ」
アルフォス:「分かった...シエル、あの子達からあの時のリオルと同じ気配を感じる……気をつけろよ」
シエル:「あぁ」
ミャーニを優しく担ぎ、その場を離れるアルフォス。
目を瞑りダガーを額に当て、息を整える。
セナ:「殺す……殺す……」
アルト:「貴様は死ぬべきなんだ……」
アルト・セナ:「この地を焼き尽くせ……"ゾルファ"!」
ゾルファ:ーグラバァアアアアアアアア!!!!ー
首元が赤く光り、口の隙間から青い炎が零れ出る。
辺り一面に火花が散り、草木が燃えるほどの熱を発する青い炎……。
立っているだけでも火傷をおってしまうほどだった。
シエル:「調子に乗るな……俺だけならまだ許した...でも、その子達やあの子...俺の仲間に手を出すなら……絶対に許さない」
アルト:「戯言を……」
セナ:「いつまでその減らず口を叩けるか見ものだな」
シエル:「その子達を返してもらう」
ゾルファが更に炎を溜め、とてつもない熱気が辺りを包む。
シエル:「感じろ...風の流れを、鼓動の音を...感じろ...己の強さを!!」
巨大な炎を吐き出すゾルファ。
瞬時に炎を避け目を突き刺すシエル。
避けられた炎が大爆発し、草原が炎の海へと化す。
レイン:「なんて威力だ...このままじゃ皆燃えちまうぞ!!」
アイリーン:「ま、ままま待ってください!!今呼び出してるので!!」
ユウト:「なるべく早口でお願い!!」
アイリーン:「馬鹿!そんな軽い気持ちじゃ来てくれないわよ!
ユウト:「ごめん...」
ミオシャ:「お兄ちゃん!邪魔しない!」
ユウト:「はい……」
シルフェ:ーぅぅぅ……助けて……ー
アイリーン:「大地に恵を与えし海の女王よ……枯れし生命に慈悲を...燃ゆる地に優しき雨を...」
ユウト:「た...耐えなきゃ...」
イナン:「ぅ...お父さん...」
店主:「イナン...!頼む……どうか……どうか龍の加護を...我らに」
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大角を避け、高速で何度も巨体を斬り刻むシエル。
しかし、ゾルファの傷口は瞬く間に塞がれてしまい、全くと言って無意味な状況だった。
しかし、攻撃の手を止めないシエル。
耐えるのがやっとの灼熱の中、シエルは意識を保っているのが限界まで近づく極限の中で戦っていた…。
シエル:ー汗でダガーが...!離すな...離すんじゃない!!ー
滑るダガーに気を取られ尾で足を掴まれてしまう。
大きな爪で襲われてしまうも間一髪で食い止める事に成功する。
しかし、ずしんとのしかかるその攻撃に熱さでやられていた今のシエルでは数秒しか耐えられず、運悪く腹部に傷を負い、勢いよく尾で投げ飛ばされ木に強くぶつけられてしまう。
シエル:「っぐあっ!!!……ぅ゛……内臓飛び出ちゃうかと...思ったよ...」
更にシエルを死へと近づける如く、ガールダとギリムも攻撃を繰り出す。
青い炎と赤い炎...そして雷が空へと放たれ、雲が渦の様に変わり徐々に大きくなっていく。
アルト:「さぁ...トドメだ」
セナ:「呆気なかったな...」
デイン:「あれじゃこの場にいる全員が道ずれだ...」
シオン:「シエル...」
ノルン:ーお父さん...諦めないで...負けないで!!ー
ノルン:ーん?!ー
ノルンの視線に一瞬小さな影が映る。
その影はシエルの元へと向かい炎の中へと消えていった事にノルンはもしやと袋を覗く。
ノルン:ー居ない...小鳥ちゃんが...ー
ノルンの行動に疑問を感じたシオン。
袋を見ている事に気づきシオンもその状況に気がつく。
シオン:「鳥ちゃん...!こんな時に...!」
ノルン:「そんな……どうしよ」
シオン:「今はシエルを信じよノルン……私達も全力でアイリーンを守らないと!!」
ノルン:「う、うん。わかった!」
ノルン:ーシオン...少しづつだけど変わっていってる。私も...私も強くならなきゃ...!!ー
シエル:「ぅ……避けられないな……あれは……」
グゥルロ...グゥルロロロと大きく響く雷鳴...。
雲が黒く、青や赤い光が交互に雲の中でうごめいている。
アルト・セナ:「神の怒りを!!獄蒼炎雷霆!!!!」
空が燦然と輝き、強大な光の柱がシエルへと一直線に降り落ちる。
シエル:「駄目...だ...」
ーキィィィルピィアァァァァァア!!!!!ー
ー!?ー
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真っ白な空間……。
鼓動の音が耳に響き、意識がはっきりとし始める。
ー死んだ...のか...ー
しかし、いつもと何か違うことに違和感を感じる。
視界に映るゆっくりと舞い落ちる茶黒い羽や白い羽...。
突然頭に知らない声が響いて聞こえる。
ー龍の加護を与えられし者よ……主はまだ死してはいない……ー
ーだ、誰なんだいー
ー我に名は無い……"まだな"ー
ーど、どうして俺をー
ー今...主は死神の元へ導かれようとしている...しかし、まだその時ではない。抗うのだー
ー抗うって言ったって……あれは避けられない、それに仲間達も……無事じゃ済まないかもしれない……どうしたらいいー
ー我と"契約"するのだー
ー契約...ー
ーそう...我と契約し、主の命を我に捧げよ...さすれば我も主に我が魂を……命を捧げよう。我が主の一部となろうー
ーえ……死んでも鳥にはなりたくないな……ー
ーふざけている場合ではない!我の命が主の命となり、主の命が我の命となる。我が死ななければ主も死なんという事だー
ーそういうことか…えっと……姿は見えないけど……君と契約すれば仲間達を...あの子達を救えるのかいー
ーあぁ、必ずー
胸に手を当て深く息を吸う。
ーわかった。君と契約するー
ー承知した………我……汝の剣となり盾となりて今ここに汝との契約を結ぶ……汝の正義を信じ……悪に鉄槌を下さんとする……!汝は我……我は汝……"空の龍王"の名を汝の為に捧げる……さぁ……我が主シエルよ……今……!我が名を……!!!ー
考えていなかったはずの...知りもしなかったはずの名が、不思議と頭の中へと流れ込んでくる。
そして迷うことなくその"名"を叫ぶ。
ー空を支配せし鷹龍よ我が元へ……...……来い!!!
【"グリフォス"】!!!!ー
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シエルが立っていた場所にとてつもない威力の光が落ち続け爆風が仲間達を襲う。
レイン:「シエルゥゥゥゥ!!!!!!」
デイン:「まずい...これでは俺達まで...!!……」
ー!?ー
突然爆風が止み、辺りが静かになる。
マキシス:「おい...どうなったんだ」
ミリス:「なにか変だわ」
ユウト:「アイリーン?」
アイリーン:「え……な、なに...なにがどうなったの!?」
ミオシャ:「私達...死んじゃった?」
アルフォス:「いや……違ぇ……」
・・・・・ー
アルト:「ンクク……ンハハハハ!!...ん?なんだ……?」
セナ:「なんだ...このただならぬ気配は...!?」
煙が立ち込み何も見えない景色が広がる。
そんな煙の中から薄く……少しづつ見える傷だらけのシエル……。
そしてとてつもなく巨大な影……。
アルト:「魔獣達の様子が...なにが起こっている!!」
セナ:・・・・・!!
煙の中から姿を見せる白く輝く大翼と黄金に輝く鬣……。
獅子の様な肉体に鋭い鉤爪。
鋭く尖った嘴に長く伸びた龍の尾。
空を統べる龍と呼ばれ……伝説とされていた存在がアルト達の前に立ち塞がる。
アイリーン:「し……信じられない……こんな事が……まるで夢みたい」
ミリス:「神聖龍グルュフォス……またの名を空王鷹龍グリフィン...……どうしてこんなところに」
ユウト:「シエルさぁぁぁん!!!よかったぁ!!!」
ミャーニ:「良かった……良かったニャ...」
ノルン:「小鳥ちゃんが...鷹龍だったなんて……」
シオン:「シエル……生きててよかった……馬鹿ぁ」
ユウト:ーシエルさん主人公補正ついてないかな……ー
シエル:「力を貸してくれグリフォス」
グリフォス:ー任せろ……行くぞシエルー
ダガーを構え魔獣と二人に強く視線を向け、シエルは再戦に鼓動を高鳴らせていた……。
【空の支配者】へ続く……。
どうしても……どうしてもこの台詞を書きたかった……。
どうかお許しください...。
前々からこのシナリオをずっと書きたくて仕方ありませんでしたがやっと書けました!
でもまだまだ終わりません!
次回は更にグリフォスの魅力をお伝え出来ればなと思います!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
ご感想心よりお待ちしております!!
まだ一度も貰ったことありません……。
誰か感想をください(泣)
貰えるように一生懸命頑張ります!!!




