【果たされる復讐】
魔獣化したラボラスの攻撃を避けつつ弱点はないかと探るシエル。
しかしドロドロの液体に包まれたような黒い皮膚はダガーの刃を通さず、唯一露出している目だけだと狙いを絞る。
シエル:「二人とも…!どうやら奴の目を狙うしか方法は無いみたいだ!」
デイン:「シエルのダガーでもあの皮膚は斬れないか……ならば」
レイン:・・・・・
レインは息を整え、一切動くことなく風を集める事に集中する。
シエル:ーレインの瞬羅ならあの皮膚も破れたりするのかな?ん〜賭けだな、ここまでしぶといと誰が殺るとかそうも言ってられなくなってきたー
巨体にしては動きが素早く、目に刺すことが出来たとしてもほんの一瞬。
唯一露出している目は分厚い膜で防がれている為、
あと数回……または数十回と刺す必要があった。
苦戦するシエル、しかしデインの行動で少し優勢になる。
デイン:「吼えろレオゼオン!!」
聖獣召喚をし、少しでも状況を変えれればとレオゼオンの咆哮を喰らわせる。
シエル:「うわっ……!!デ、イン……やるなら先にいってくれないと……んぐっ……」
レオゼオンの咆哮があまりのうるささに耳を抑えるシエル……。
しかし広範囲に響きわたる咆哮に、デインの狙いどうりではなかったがラボラスの皮膚も反応していた。
不気味に畝ねる皮膚。
まるで皮膚にも命があるようにラボラスの身体から剥がれようとしている。
シエル:ーなんだ……あの動き、……!もしかしてさっき兵が纏ってたあの鎧を……でも火が消えて影がない、月の光じゃ弱すぎる……いや?でも咆哮には反応してる。もし、あれを剥がすことが出来れば……ー
ラボラスの攻撃を避けつつなにか考え事をしているシエルに、デインはなにかこの状況を打破できる作戦がシエルにはあるのだと希望を感じ、問いかける。
デイン:「どうした……!?シエル!……なにか分かったか!?聖獣召喚も時期終わってしまう!!」
シエル:「あの皮膚、咆哮に反応してたんだ!さっきの兵を見たろ?あれと同じで奴の皮膚はあのきっモイ黒いうねうねの下にあると思うんだ!いや、絶対そうなんだ!なんとかして剥がせないかな!」
デイン:「ホムンクルスの集合体ということか……やってみよう、シエル!少し距離をとってくれ!!」
デインの掛け声にシエルは一度レインのいる場所へと離れる。
シエル:「まだかかりそうかい?レイン」
レイン:・・・・・
シエル:「かかりそうだね……」
デイン:「シエル!今だ……!!」
先程よりも威力の高い咆哮に、黒い液体の装甲が広範囲に広がる。
すかさず背に深くダガーを刺し込む。
先ほどまでとは違い確実に手応えを感じるシエル。
どうやら攻撃が効いているらしく、ラボラスは大きく吼えながら背を手で抑えようとした。
その動きを見逃さなかったシエルとデインが同時に目目掛け攻撃を仕掛ける。
ダガーで膜を割き、槍を目の奥へと抉るように深く刺す。
そこへレオゼオンが鋭い牙で目を噛みつき抉り出した。
ラボラス:「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッッ!!!!」
目部分から吹き出す黒い液体。
しばらく叫んだ後ラボラスは力が抜けたように崩れ落ちる。
しかし、とどめを刺すにも他に狙える箇所が無く、手出し出来ないシエル達。
シエル:「まだ起き上がるかい?……それともレインの出番は無いままかな……どう来る?」
デイン:「警戒を解くなシエル……まだ動いてる」
━━━━━━━━━━・・・・
何も無い白い空間が広がる。
地面は濡れているが、決して冷たさは感じない。
ー死んだのか……俺は……ー
ー主……起きて……死なないで……ー
ーもう……いいだろ……俺は面倒が嫌いなんだ……やれるだけやったー
ーだめだ……主を失ったら……私はどうすれば……ー
ー知るか……ここから逃げて違う主でも探しやがれ……俺に、もう構うな……どうせこのまま死んじまうんだー
ー主は……私に生きる目的をくれた……だから、次は私が主を救う時……奴らを許すな、主を"嵌めた奴ら"を……この邪魔者を殺して……奴らにも復讐しよう……ー
ー俺から……全てを奪った……この力があれば……俺は錬金術を新しく覚醒させられる……生命を造る術を……まだ……まだ死ねねぇ……お前の力を貸せ……"エイル"……ー
ー主が私にくれた名だ……私はエイル……主の為に……共に戦うー
ー馬鹿な奴が……ー
"エイル"妹の名だ……
俺は奴らに殺された妹の名をお前に付けた……
面倒だよな……死んだ後も自分の名前を使われんのは……ごめんな……エイル……こんな兄貴でよ……
お前の術をこんな事に使って……許せとは言わない……
やる事はやってきたからな……
ーだったら……・・・・・・・・
デイン:「な……なんだ……これは……」
シエル:「これが……本来の人ならざる者ってことなのかい?だったらこれは生命とは言えないよラボラス……生命への冒涜だ……」
黒い液体は節々に穴の空いた大翼へと変わり、目が四つに増え、
至る部分から人の様な形が現れ、その姿は苦痛を与えられ、神に救いを求めるかのよう……。
そして腕が六本に、更に大きくなり村をほとんど覆い尽くす程へ変貌していた。
ーワが……ナは……ラボラエル……フクシュうノ天使……ワれニ……ヒレふセー
シエル:「天使様だってさ……もう教会行くのやめようかな……」
デイン:「冗談きついぞ……シエル……だが、気持ちは分からんでもない……」
レイン:・・・・・・・
シエル:「来る!!!」
突如地面から湧き上がる黒い物体、空へと上がり、無数の棘に変わりシエル達目掛け一斉に降り注ぐ。
デイン:「このままじゃ不味い……!!村の皆が………」
シエル:「ここから一歩も出さなきゃいいんだ……簡単じゃなさそうだけどね……」
ラボラエル:ーさァ……ワがタメにキエナさイー
地面から現れる巨大な手に叩き潰されそうになるも回避する。
そして泣き叫ぶ人の様な場所から異音がし、目眩を起こしてしまうシエルとデイン。
幾度となく続く攻撃に一切反撃出来ず、苦戦するシエル達。
ダガーと槍では到底適う相手ではなかった。
シエル:「こんな時でもこの剣は抜けないのね……もう!恥ずかしがり屋だな!!うおっ!」
デイン:「レオゼオンもまだ無理だ……!くッ!!」
ただひたすらに消耗する体力。
シエルとデインはレインの一撃に期待する他なかった。
しかし、その場から動く気配のないレイン。
攻撃がかすり、腕や足から血を流していたが全く動じない。
しかし、
シエル:「まずい!!レインが……!!」
槍の様に形を変えた黒い物体がレインへと一直線で向けられる。
デイン:「無理だ……!!間に合わない!!レイン!!避けろッ!!!!」
レイン:ー駄目だ……逃げんじゃねぇ……動くんじゃねぇ……恐怖に……抗え……ー
レインはある老人の言葉を信じていた。
シエルに謎の卵を渡した老人はレインの元にも現れていた。
兵達が利用する訓練所で風を集め、体に纏う修行をしていたレイン……。
謎の老人:「ふむ……軸がぶれとるのぉ〜、下手じゃの〜……何がしたいんじゃ??」
レイン:「ッ……くっ……るっさいなもう!!てか誰だよあんた!!」
謎の老人:「んあ?わしか?……わしはわしじゃよ」
レイン:ーんだこのおじいちゃん……シエルみたいな事言うな……あいつ歳とったらこんな感じだろうな……てか邪魔だな……城にこんな人いたか??ー
謎の老人:「ほうほう?そやつはわしに似とるのか?良い顔なんじゃろうな〜??」
老人の発言にレインは困惑する。
口には出していない事をなぜあたかも聞こえていたかのように答えるのか、レインには理解できなかった。
レイン:「あ、あんたいま……」
謎の老人:「いい事を教えてやろう……おぬしのそれは"瞬羅"とは呼べん……瞬羅は不動を極めし者の技、無駄な動きが多すぎるんじゃ、何があっても動くな、集中するんじゃ、まぁそれが出来たとて瞬羅では無いがの〜」
レイン:「!?……おい……おじ……って、居ねぇし、何がどうなってんだよもう!!」
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レイン:ー不動を極めし者の技……つか不動ってなんだよ、動くなってことであってんのか?……まぁいい、あと少し……あと少しだ……ー
シエル:「レイン!!!ッッ!!」
瞬時にレインの前へと移動するシエル、ダガーを構え軌道を変えようとする。
しかし……ダガーよりも何倍と大きい黒い槍を受け止められる筈がなく。
シエルはそれをわかっていて犠牲をかってでていた。
デイン:ーシエル……!!?死ぬ気か!!ー
シエル:「レインが無事なら……それで……あと頼むよ?レイン」
槍が目の前へと迫り来るその時……。
シエルの目の前に突然防御魔法が現れる。
シエル:ー!?ー
デイン:「た……助かった……」
ロンディネル:「皆さん!!……ハァ……ハァ…ご無事で……!」
驚くことに駆けつけたのはロンディネル……そして……
魔法兵達:ーフェラスレイラ!!!シュザルガ!!デヴァルガ!!
数十人の魔法兵が炎・氷・大地……それぞれの上級魔法をラボラエルへぶつける。
ラボラエル:ーオロかナ……ケシテクれルー
ロンディネル:「皆さん!防御魔法を!」
ロンディネルの呼び掛けに魔法兵達が上級防御魔法を唱える。
ーガーディアル!!ー
降り注ぐ黒い棘をものともせず防ぐ魔法兵達。
ロンディネル:「私達も共に戦います!!この国は私達で守る!!!この村も!!」
シエル:「ロンロン……よし!行くよデイン!!」
デイン:「ロンディネル……今までで一番良い顔をしているな、援護するぞシエル!!」
シエル:「魔法のおかげであの赤く光る奴が見えた!あそこが核に違いない!」
魔法が直撃した腹部から謎に赤く脈打つ光が見えたシエル。
しかしシエルの言葉に戸惑うデイン、魔法で黒いドロドロが剥がれているがそんなものは一切見えず、シエルの鷹龍の目の効果だろうと思いそれをシエルに伝える。
デイン:「すまないシエル、俺にはその光が見えない。恐らくだがその目の能力ではないか?」
デインの言葉に困惑するシエル。
それもそのはず、何度も使用している鷹龍の目に相手の弱点や核が見えたことは無く、ただ複数の視点を見ることの出来るスキルだと思っていた……。
シエル:「もしかして……"覚醒"ってやつ~!?」
デイン:「よ、よくわからんが利用しない手はない!もっと詳しい箇所を教えてくれ!!」
赤く脈打つように光る場所をデインやロンディネル達に伝える。
シエル:「デイン!魔法が直撃した場所に俺がダガーを刺す、そこに槍をぶっ刺してくれ……!ロンロン、魔法兵達に奴のお腹を狙うよう伝えてもらいたいんだ!ロンロンは俺が叫んだら顔に一撃喰らわせてほしい!お願いできるかい?」
ロンディネル:「わかりました!任せてください!!」
シエルの指示に活路を感じ、魔法兵に伝えるロンディネル。
そしてその瞬間を待つデイン……。
一度の好機に全てを賭けたシエルの策が残された最後の可能性だった。
シエル:ーさて……やってみますかー
魔法をくらい続けるラボラエル、赤い光が濃く強くなり、シエルがロンディネルに指示を出す。
シエル:「ロンロン……!今だ!!」
ロンディネル:「【シュザスピアル(氷結の槍)】!!」
巨大な氷の槍が顔面に突き刺さり、暴れるラボラエル。
仰け反ったことで腹部が狙いやすくなり、シエルが赤く光る場所にダガーを刺す。
そこへデインが瞬時に槍を深く突き刺した。
デイン:「まだまだぁぁぁ!!」
シエル:「とどけぇ!!」
デインと共に槍を刺し込むシエル、みるみる奥へ刺さっていくが核にはなかなか届かない。
しかし……
ラボラエルーキサまラ……ナゼ……サセルモのカ……!!ー
魔法を受けたものの、残っていた目からムルュリュと黒い液体を纏った裸体のラボラスが姿を見せる。
そして手から一本の槍を出しシエル達目掛け素早く投げた。
槍はシエルの顔を貫く軌道で迫ってくるがシエルは避けようとせず槍を突き刺す。
シエル:「あと……少しぃぃぃ!!!うぁあああ!!」
デイン:「駄目だシエル避けろ!!!っ!?」
・・・・・・ー
弾かれる槍……突如首を斬り落とされるラボラス。
ラボラス:「キサま……ふざける……な……ゲバァ……!!」
ルスタ:「遅れて申し訳ありません!!デイン様!!シエル様!!」
槍を剣で弾き飛ばし、そのままラボラスの首を斬り落としたのはナルビスタ女騎士"ギルガメス・エルナ・ルスタ"だった。
デイン:「助かったルスタ!!」
シエル:「ありがとう!!……今だァァ!!!押せぇ!!!」
ラボラエル:ーウ゛アアアアアアア゛゛゛!!!ー
ラボラエルは腕でシエル達を掴もうとする。
しかし見事な剣技で腕を斬り落とすルスタ。
そして槍に硬い物が当たる感触が伝わる。
シエル・デイン:「いけぇええええ!!!!」
キィィィ…………ー
物凄い量の黒い液体が吹き出し、シエルとデインが吹き飛ばされる。
悶え苦しむラボラエルだったが、残っていた腕で抑え、穴を埋めようとしていた……だが……
シエル:「さぁ……出番だよ……"レイン"!!!とっておきを………」
デイン:「ぶち込んでやれ……!!」
━━━"待たせたな"━━━━━━
ッッッッッッッ!!!!!!!ァァァッッ!!!!
地面が大きく削れ、とてつもない破裂音が響き渡りその場にいた者達が目を奪われる。
ルスタ:「なんて威力だ……」
ロンディネル:「す……すごい……」
ラボラエルーア……アリえン……ワタシ……オれが……ー
ラボラエルの体が大きく跡形もなく吹き飛び、塵となって灰のように消えていく。
レイン:「やっと……やっと終わったんだ……終わったよ……遅くなってごめん……ゆっくり眠ってくれ……おやすみ……"セルナ"……」
復讐から解放され、涙を流すレイン。
ラボラエルに放たれたその一撃はレインの忘れられなかった復讐の過去に終わりを告げた……。
【敗北】へ続く……。
ここまで読んでくれている皆さん。
本当にありがとうございます。
投稿を初めて2年経つみたいです。
早い……
最近になって本気でこの物語を書籍化したいと思い。
ここにその思いを載せたいと思います。
最近1日……1週間、いったいどれくらいの方が自分の作品を読んでくれているんだろうとアクセス数を見ると、
びっくりです。
あと少しで3000人……こんなにも沢山の方が読んでくれているなんて思いもしませんでした。
感謝の気持ちでいっぱいです。
本当にありがとうございます。
これからもこの物語を完結まではかなり長いですが、書き続けますので、長い長い旅ではありますがよろしくお願いいたします。
そして次回は新しい章へ繋がる、話が大きく動く回となっています。
楽しみにしていただけると嬉しいです。
先に言っておきます。
耐えてください。
はい……。
もしこれからも応援していただけるようでしたら、
まだ物凄く未熟で下手くそですが、頑張りますのでブックマークやご感想頂けると嬉しいです。
最後まで目を通して頂きありがとうございます。




