【決まっていたシナリオ】
兵達に両腕を強く掴まれ叫びながら引きずり出されたバルバリアン二世、そんな見るに堪えない後継が繰り広げられたが……何事も無かった様に本題へと入る王会。
デイモアからすればこれはただの"余興"……しかしただの茶番を見せつけられまさに侮辱とまで取れる行いに、ベルトはデイモアに対し、抑えきれない怒りを露わにする。
デイモア:「余興は終わりだぁ……本題へ入ろうではないか……」
満足気なデイモアに対しベルトが強く睨みつける。
それを見たデイモアはニヤリと笑いベルトに強く敵意を向けた。
ベルト:「余興だと……!?……貴様、まだこんな事を続けているのか!……実にくだらん!!私たちは貴様の見世物を見に来た訳では無い!!馬鹿げている!!」
デイモア:「言いたいことがあるなら申せばぁよい……ベルトよ……貴様も時期わかる、我の行いが正しいとなぁ……この世界に相応しくない王とその国を消すだけの事……難民が増え、どこぞの国が勢力を増す……そしてまた他の国に滅ぼされる……その繰り返しではないか……だがぁ……争いは面倒だぁ……違うかぁ?だから我がこうして素早く対処しているまでの事ぉ……」
ベルト:「クッ……どこまでも落ちてゆくのだな貴様は……いいだろう、いつでもかかってこいデイモア……私は剣を構え、いつでも貴様の相手をしてやる……!そしてお前を殺し、私がその場に立ってやろう」
デイモア:「フッ……フハハハハハ!!!飽きぬなぁ……飽きぬぞ……貴様は昔からそうだ…今にも我を殺したがっておるその目……よい……よい目をしている……」
とてつもない殺意に満ちた空間に息を詰まらせそうなナルビスタ同盟国ギルッシャスの騎士王ギルガメス。
他国の王達が怯える中、同盟国のギルガメスとアレス、そしてラオルは互いに顔を合わせ仲介に入る。
ギルガメス:「ベルト殿……今はどうか抑えては頂けぬだろうか、皆……覚悟を決めこの場におるのです。しかし貴方から宣戦布告を申し立てるのは少しばかり行き過ぎたように感じます。どうか今は……」
ラオル:「主が苛立つ気持ちもよう分かるが、今は真摯に向き合おうではないか……ルガガ」
ベルトに落ち着くよう目で強く訴えるギルガメスとラオルの視線に、ベルトはハッと正気に戻る。
落ち着いたのを確認したギルガメスとランザールのアレスが視線を合わせ肩を下ろした。
デイモア:「フッ……邪魔をしおってギルガメス……貴様はなぜそいつにそうもして頭を下げておるのだ……いつかは崩れる定めの王をぉ……ラオル貴様もだぁ、獣王である貴様が人族の見方をするなど……悔しくはないのかぁ……?」
ギルガメス:「勝手に申しておればいい!ベルト殿の国が崩れる時、それは私の国も共に滅びる時だ……!……私は決してベルト殿の恩を無駄にはせん!!」
ラオル:「皇帝……勘違いしてくれるな……わしはただ自らの正義に従っているだけ、先代の面を汚すわけにゃ行かんからな……」
デイモア:「くだらん……じ〜つにくだらん……もうよい……さっさと本題へ入れ……リリア、今は王会を進めようではないかぁ……今回の議題を申せ」
リリア:「はい……ただいま」
リリアは何か書かれた紙を広げ、大声で読み上げ始める。
リリア:「今回の議題は魔族契約に対しての投票が多くなされていました。ですのでこちらについて討論して頂きたく存じます。異論なければどうぞ……お始め下さい」
デイモア:「・・・・」
デイモアは肘を着いたまま少しイラついた表情を見せる。
しかしそんな事を気にせずギルガメスが話し始め、空気が少し変わる。
ギルガメス:「それでは、ここは私から申させてもらう。
この件について、ここ数月で魔族契約を行った者の報告が後を絶えない……この者達の被害が後を絶たず、数多の村や国が犠牲になっている。
この問題はすぐにでも解決するべきだと、この場を借りて話し合いたい所存だ。ここにいる全王達のご意見をお聞きしたい」
この件にずっと黙ったままだったアール・ドラキュオル暗王国
国王【ドルトリオン・ドラキュオル】が口を開く。
吸血魔族であり、その王であるドラキュオルはこの件についてとても怒り心頭していた。
ドラキュオル:「実に許せませんな!なぜ"たかが人族"が魔族の力を使えるのだ!こんな事、どこぞの魔王共が黙っているはずがない……!もし六大魔王達にこの事が知られてみろ……恐らくは我々も……貴殿達の国も潰されかねんですぞ……まさかとは思いますが……皆さんかの"誓い"を忘れた訳ではありませんでしょうな?」
ドラキュオルの意見に後を追うようドワーフの長、ロルコッツのダルケ王が続いて話し始める。
ダルケ:「おんしの言う通りだ、ドラキュオル王よ……ぬしらもわかっておるだろうが今まで人族、その他種の者たちと魔族達は"あの一件"以来争いを避けるよう、誓いを守り…ある程度一線を超えぬよう努めてきた。
ところがだ……誰がこんなものを考えたのか知らぬが、人族が魔族の力に手を出してしもうとる始末、こればかりは向こうも黙っておらんだろう」
かの天・冥・魔の大戦……【三界大戦】……黒幕であった冥界の冥王を人族の王であった龍王も加勢し、大戦は幕を下ろす。
その後、審判の神が人族と魔族とが均衡を保つため、神と人、そして魔族とが立てた誓いがあった。
・人族は魔族に対し刃を向けぬこと
魔族は人族の領地に踏み入れぬこと
・魔族は人族を魔にしてはならない
また力を与えてもならない
・人族を襲い喰うことを禁ずる
人族もまた魔族を襲ってはならない
この誓いを破りし種族は死して冥界へと送られる
この誓いを審判の神、龍王、魔神王が破らんと守ってきたのだった……
ベルト:「しかし……時が経った今、この均衡は保たれていない……契約を交わした魔王アルデバラムは何者かに倒されそれを機に六大魔王が名を挙げた。
六大魔王はアルデバラムに忠実だったはず、裏切るとは考えがたいものだが……それに龍王様も姿を消した……こう立て続けにこの国と種族を纏めてきた者たちが姿を消した……何故だろうな、なぁデイモア」
ベルトは眉間に皺を寄せデイモアを睨みつける。
しかしそれに気づいていたデイモアはひるむことなく反抗するように話し始めた。
デイモア:「フッ……なにが言いたいベルトォ……あぁ?我が奴らに何か吹き込んだとでも言いたげではないかぁ……?」
ベルト:「ほざけデイモア……"魔神族"であるお前が関わっていないと……?どう証明してくれる」
ベルトの言葉に他の者たちが驚き戸惑う。
ただ一人、リオル王を除いて。
デイモア:「フハハハハハァ!!!今更我の正体をこの場で申したとてぇ……我に対し喜びを与えるだけとなぜ気づけん……愚かな……」
ギルガメス:「な……なんだと……」
ドラキュオル:「こ、ここ……このお方が、魔神族……ですと……!?」
エティメール:「・・・・」
アレス:「ベ……ベルト殿、それは本当なのか……」
この場にいた王達は皇帝の正体を知り喉が詰まった。
恐怖の正体……隠されていた力がまさか魔族の中でも神に近い存在である"魔神族"であったとは、ベルト以外誰も思いもしていなかった事実……。
皇帝の正体を明かし、更に追い討ちをかけるようにベルトは話し続ける……。
ベルト:「どうした……?この場において虚言は許されないのだろう?全て真実だ……そうだろう、冥界で暴れた挙句追放されし魔神アスモデーモス……忘れるはずが無い……なんせ貴様を地に送ったのは他でもない、我が父なのだから……!」
拳を強く握り、血管が浮き出るほどに怒りを表すデイモア。
しかし強い視線を外すことなくベルトは敵意を向けていた。
デイモア:「ぐっ……憎きシャーダルの王、"ナルビスタ・ダス・エロメス"……忘れもせん……あの屈辱をぉ……今でも奴を引き裂いてやりたいわ……」
そんな殺伐とした空気の中、一人の王が声を上げる。
パルテステラリオル王国国王【パルテナス・エラ・リオル王】その人だった……。
リオル王:「いい加減にせんか……争うのであればこの場が終わり次第好きにすれば良いだけの事……デイモア皇帝陛下、ここは貴方が上に立つ場です。ベルト殿も少し場をわきまえるべきでは……?」
突然口を開いたリオル王に、なぜかデイモアは突然静かになり、人が変わったように落ち着いた様子を見せる。
それを気味悪がったベルトはリオル王に視線を向けていた。
デイモア:「……失礼したな……主の言う通りだリオル王よ、場を濁した事……謝罪しよう。議題に関し、討論を続けたまえ……」
ベルト:ーなんだ……何が起きた……?!、あのデイモアがここまで大人しく言う事を聞いている!?それもあのリオル王に……いったい奴になにをした……!?ー
リオル王:「それと先程から気になっていたのだが……バウキス、お主はここへ何をしに来た……?まだ一度も口を開けていないでは無いか……誰かに口封じの魔法でも使われたかね?」
そう言われおどおどと汗を流し、震えた声で答えるのは大陸一貧しい国ーバウキスタル王国ー国王"エレモア・ファス・バウキス王"だった……。
バウキス:「そ……そそそそ、そんな……まほうなんて……かけられて……ぉぃぁせん…………おりません……!……わ、わわわ……わたしは……このぎだいになにもおこたえできません……」
リオル王:「ははは……平和な国は言うことが違う、良いことでは無いかバウキス、といっても、お主の国は誰も見向きもしていないだろうがな……フフフ……」
バウキス:「あ、ぁ、ぁ、……あ、貴方の……おかげです……」
リオル王:「お主の国は貿易に優れておる、利用させてもらっておるよ……お主の国があるのは誰のおかげか……わかっているな?」
バウキス:「あ、あぁ……貴方様のおかげです……」
リオル王は髭を触りながら嫌味な笑顔をバウキスに向ける。
バウキスは下を向いたまま、ずっと指を震わせていた。
リオル王:「皇帝陛下、何故このような者をこの場に?この者には不似合いではありませんかな?」
デイモア:「リオル王よ、これは王会……大陸中の国王を集め話し合う場だぁ……王であるこやつもまた参加する権利がある……異論あるかぁ……?」
リオル王:「いいえ……ございません、無礼な質問を……どうかお許しくだされ……」
デイモア:「・・・・」
リリア:「宜しければそのまま討論をお続けください」
ロキシル:「んだこりゃ……気持ちの悪い光景だな……」
ロキシルはベルト王がこの場で何を目的として出席したのか……その意味を探ってはいたがなかなか糸が掴めず、静かにこの王会の行く末を見ることにした。
リオル王:「魔族契約についてでしたな、この件には我が国も"少々手を焼いております"。
しかしながらこれを扱う者たちを"上手く利用できぬかと"近頃考えを練っておるのです……なにか助言して頂けませんかな?」
リオル王の思いもよらぬ発言に王達に緊張が走る。
口を出さずにいられなかったロルコッツのダルケ王はリオル王に諭すよう話し始める。
ダルケ:「おんし……その考えはまともではない……もし、おんしがその者たちを軍事利用する気なら我らは力ずくで止めなくてはならん状況になってしまう……それだけは辞めて頂きたいぞ……おふざけで言っていいような事ではない……」
ダルケが血の気の引いた表情でそう伝えるが、リオル王の表情と態度は依存として変わらず、意見を無視するかのように話し続けてしまう、それにダルケ王とドラキュオルの怒りをかってしまうがリオル王にとってはどうでもいい事だった。
リオル王:「何を申しますか、あの力……目の前で見た事がおアリですかな?……あれは言葉では表せぬ美しさ……まさに神の力と呼ばざるえない光景そのもの……!!あれを無くしてしまうと?……ぁあ゛!!!それはまさしく愚行……!貴方々は分かっていない!神が授けてくれた力だということを!!」
リオル王はどこかおかしい……この場にいた者たちはそう思わざるを得なかった。
しかしデイモアは真っ直ぐその光景を見つめ、何故か少し嬉しそうに微笑み、ただじっとリオル王を見ていた。
勢いよく立ち上がり、両手を広げ天に視線を向けるリオル王、
まるで何かに取り憑かれているかと疑ってしまう程気味の悪い存在感を放つ。
ロキシル:「ど……どうなってんだこりゃ、人が変わっちまってる……あの皇帝、奴になにした……!?」
ギルガメス:「狂っている……なんなんだアイツは」
ベルト:「……」
ベルトは目の前の光景に言葉を失う。
この場において危険なのはデイモアただ一人ではない……リオル王もまた、ここにいる王達にとっては直視したくない人物だったのだ。
リオル王……突然として現れ、パルテステラ・リオル王国を築き、アルラーク大陸において群を抜いて恐れられている王国。
圧倒的な武力、魔法や万物においての研究に力を注ぎ、他の大陸からも一目おかれている。
しかし王達の視点では違っていた……。
民達に隠されている真実……しかし王達のみがそれをしっている。
神に逆らった禁忌ー魔子ーの研究、そして国の剛健な者を、息のある状態でその肉体に苦痛を与えられ、生き抜いた者が最強の兵として従えているというのは噂ではなく事実として王達は知っていた……。
リオル王国は【楽園と呼ばれし聖域】などではなく【血と骨に埋められた地獄】であることを皆は知らない。
エティメール:「……リ、リオル王よ、貴方は魔族契約において……何も関わりはないのですね?」
先程まで黙っていたエティメールが誰もが知りたがっている疑問に口を開き、自らリオル王に問う。
もし事の発端がこの王の仕業であるならば、ここにいる王達はそれを阻止しなければならない。
しかし、リオル王国とデイモア帝国は同盟が決定している為、この場合帝国も相手することになるという、これ以上ない窮地が降り掛かってしまう事を皆が理解していた。
静かに息を飲む王達……ベルトはリオル王をじっと見つめ答えを待つ。
ダルケ王は立ったまま唖然とし、ドラキュオルは震えていた。
リオル王:「美しき王女エティメール、良き質問です。勘違いしている様なのでお答えしましょう……魔族契約の発端は私では無い」
リオル王の言葉に安堵の息を吐くがそれも束の間、リオル王から耳にしたくなかった言葉が発せられる。
リオル王:「しかし……それを"させているのは私"である事を事実として申しましょう」
デイモアはベルトに勝ち誇った顔を向け、ベルトは歯を食いしばった。
今ここでこの世界に一つの大きな戦争が始まってしまうことが確定してしまったからである。
ベルト:「デイモア……貴様……!」
ギルガメス:「"手を焼いている"というのは魔族契約の扱いの事だったのか……!!卑劣な!!」
デイモア:「お主ら……ここに集められた理由をようやく理解したようだなぁ……そう……これは宣戦布告だぁ……貴様らくだらんちんけな国共を喰う為のなぁ、我らを相手にするのだろう?覚悟しておくがいいぃ……フハッ……フハハハハァァ!!!!」
【解決】……この討論は既に答えが決まっていた。
デイモアが開いた"王会"、これはここへ来る王達へ、"恐怖"という名の宣戦布告である事をリオル王は端から知っていた。
全ては計画されていた。
王達の議論が【魔族契約】であること。
そして標的とされているナルビスタ・ダイル帝国、その傘下であるギルッシャスとラオルケミルが出席している事、それと同時に戦争に加わっていたランザールも交えているという条件が満たされた上で、デイモアの支配下にする事が目的だったのだ。
リオル王:「既に準備は始まっている。我が国もデイモア様の命により、我が国の困者を排除している所です。
驚いたものだ、私の国で勝手に暗殺組織を立ち上げ"アサシン"なんぞが蔓延っていたとは……私の許しなく情勢を変え、報酬を受け取っているなんて、いやはや……もっと早く気づいていれば」
デイモア:ー……?ー
ロキシル:ー……!?おい……そんな……ー
この時、ロキシルからは見えなかったがリオル王は不敵な笑みをこぼし、ロキシルまでもはめていた事に喜びと興奮とが高ぶっていた。
リオル王:「フフッ……フハハハハハハ!!!」
ロキシル:「こん…の……くたばりやがれ……!!!」
これ以上ない怒りに柄に手を伸ばすが、場が場であった為歯を食いしばりなんとか殺気を抑えるロキシル。
仲間達の危機を察し、急ぎでその場を後にしギルドへと向かう。
ロキシル:「間に合え……間に合ってくれ!!!」
そして、危機を感じていたのはロキシルだけではなく、息子達の安否を心配していたベルトもまたその一人。
ベルト:ーロキシル……彼のギルドにはマキシス達三人が……クソッ……彼には会えたのだろうか、会えていればいいが、この場でこんなことをしている場合では無い!…急ぎ国の者たちに伝えなくては……!!ー
しかし、デイモアがそう簡単に返してくれるはずもなく、王会は続いていく。
デイモア:「ベルトォ……降伏したらぁどうだぁ?今我に降伏すれば、貴様の国には手出しせんと約束しよぅではないかぁ……」
ベルト:「なんだ貴様、私達を相手するのが怖いか?
降伏?するわけがない……お前を倒せばこの世界は救われ、この魔族契約とやらも解決するのだろう?ならば絶好の機会……この機会に降伏する訳がないだろう」
デイモア:「どこまでも愚かな馬鹿めがぁ!貴様という存在が我にとってどれ程邪魔な存在かぁ!!」
デイモアの言葉に笑みを零すベルト。
ベルトは既に覚悟を決めていた……。
デイモアと相対する機会を今か今かと待ち望んでいたベルトからすればこれ程喜ばずしていられない瞬間があっただろうか……。
ベルト:「貴様……この私を恐れているな……?何を恐怖する、貴様程の化け物めが」
デイモアは悔しそうに歯ぎしりし、ベルトを睨みつける。
互いに向けられる強い視線……しかし、周りはそれどころでは無い。
帝国を相手にし、国が滅ぼされてしまうかもしれない恐怖に、構っている暇などなかった。
ダルケ:「あぁ……なんてことだ、国が幾つ滅ぶか……」
ドラキュオル:「わ、わわ…私は関わりませんぞ!!我が国は下級魔族国家……この件には関わらない事が国の為なのです!」
ドラキュオルの発言に苛立ったアレス王は殺意に満ちた表情で鋭い大剣のような視線を向ける。
ドラキュオル:「ひっ……ひひぃぃ……」
アレス:「ならば主ら下級魔族も我らが滅ぼしてくれる!!この戦に加勢しないというなら、我ら同盟国は貴様の国を敵と見なす!!!いいか!貴様の様な王が、国を滅ぼすのだ!このような事態に民を捨て剣を納める王など、俺の手で斬り殺してやる!!」
ベルト:「アレス、落ち着くのだ……我らはこの戦い、決して負けることが許されない。自らを乱しては剣を間違えるだけだ、いいか?」
アレス:「申し訳ありませんベルト殿……もう……大丈夫です」
落ち着いた声でアレスをなだめ、ギルガメスにも視線を送った。
ギルガメスは胸に手を当てアレスもそれに続き、ベルトへ覚悟を唱える。
アレス・ギルガメス:ー我ら同盟国の剣……正しく生きる者達の為に……!!!ー
デイモア:「さぁ、この件についてはもうどうでもよいぃ……他になにか申したい者はおるかぁ?」
ベルト:「いい機会だ、今は王会に集中してやろう。では問うが、【龍王の王冠】……いや貴様らの呼び名であれば、【暗殺者の王冠】……あれは今どこにある」
ベルトが口にしたその王冠とは、かつてこの世界に【楽園】を築き、本当の平和を手に入れた王の王冠である。
王冠の中心に嵌められた"龍玉石"には誰もが欲しがるある力が封印されていた。
遙か昔……龍神の民と呼ばれた存在がこの世界に居たとされ、そのもの達には不老の力と再生力……そして底知れぬ魔力があったと云われていた。
しかし、今となってその存在は無い物とされ、誰も龍神の民の話をしなくなってしまう。
だが、その存在を知る王達にはその力を我がものにせんと争いが起きた程、その三つの力が封じ込められた"龍玉石"にはとてつもない価値がある。
それを知っていたベルトはその王冠を死守すべき物として、長年探し続けていたのだ。
しかし、ナルビスタの考古学者がある書物から、驚く事に龍玉石は現リオル王国に存在しているのではとベルトに伝えた。
なぜなら……今リオル王国がある場所にかつて龍王の国があったからである。
その事をしったベルトはリオル王に近づこうと何度も申し出たが、何度持ち掛けても尽く断られてしまう。
今思えば、今回のリオル王の立ち回りが断られた意味だったことをベルトは理解する。
ならば、恐らく今王冠を手にしているのはリオル王ただ一人……。
何としてでもリオル王から王冠を奪い、"ある場所"へ隠さなければならない。
その為に、今ベルトはリオル王の口から証言を得る必要があった。
ベルト:「貴様知っているはずだろう。なぜ答えん?」
デイモア:「馬鹿めがぁ……我が手にしているなら既に使っておるわ……貴様こそ、なぜ今王冠を欲しがる?もしや、それが我との戦いにおいて重要だとでも?ならば尚更貴様には言えんなぁ……」
リオル王:「デイモア殿、隠しきれておりませんな……いいでしょうベルト殿、貴方のその意思に免じてお教えしましょう。残念ではあるが今……王冠は我が手にある。しかし、時期にデイモア殿へと渡されます……これが何を意味するか分かっているでしょう、しかし貴方は降伏しないと……そう仰るのだから、大した自信ですな……私も見習わなくては」
ギルガメス:ーやはり、ベルト殿の読みは当たっていた……!ー
ベルト:「そうか、お教えいただき感謝しようリオル王よ……。何度も言うが私は何があろうとこの地に立ち続けよう、いつでもかかって来るがいい……私からは以上だ」
デイモア:「ふんっ……他に……おらぬかぁ?……」
静まり返ったこの空間に、王達は誰一人手を挙げなかった。
皆、この後に何をすべきか考えていたからだ。
ダルケ王はナルビスタに付くことを決め、ドラキュオルは双方に怯え、エティメールは落ち着き心の中で誰かと話をしていた。
ラオルはナルビスタの傘下である為迷うことなくナルビスタと共に戦うことを決意していた。
そしてバウキス王はその存在感を無にし、ただ汗を流し黙って下を向いている。
用意されたその時の為に……。
デイモア:「……つまらん……よかろう、ではこれを以て王会を閉会するとしよぅ……"また会う時を楽しみにしておるぞ……フは……フハハハハハハ!!!」
デイモアは手すりに手を置きその巨体を立ち上がらせる。
笑いながらその場を後にし、兵たちが大きな扉を開け、王達に退場するよう案内する。
王会と名ばかりの死刑場に怒りを抑えられないギルガメス。
怒りが頂点に達し声を荒らげる。
ギルガメス:「こんなもの…… 決して王会ではない……!!……先代の王達がこの世界の為に設けた場を……侮辱だ……許せん……!!」
アレス:「我々を嘲笑う為だけに用意された舞台だったとはな……我々が苛立つのもそうだが、ベルト殿はそれ以上に苛立っておられるはずだ……」
ギルガメス:「……ベルト様」
ラオル:「ガルララ……元気じゃのギルガメス……見ておれ、我々獣人族を敵に回したこと、必ず後悔させてやる。魔神相手だろうと容赦せんぞ」
ベルト:「良い態度だ、お前のその勇ましさは先祖にも引けを取らないだろうラオル。あのお方がいなければ、私たちは貴殿ら獣人とはこうして上手くやっていけていなかっただろうな」
ラオル:「ルララ!!先祖様は龍王様にこっぴどくヤられたみてぇだからな!、暦書を読んだ時は驚いたが…前はこんな光景ありえなかったんだろうな…」
ギルガメス:「今度は我々がその絆を深める時、あのお方に笑われぬよう、強さを示さねばな」
ベルト:「ははは、その通りだなギル、しかし今は一度皆私の国に集まり戦略をたてるとしよう。異論は無いか?」
三人は首を縦に振り、その場を後にする。
・・・・・ー
王宮へと戻るデイモアとリリア、ベルトの態度に怒りを露わにするデイモアはイラつきをリリアに向ける。
リリア:「デイモア様、これからどうするおつもりでしょうか……?」
デイモア:「……?」
突然リリアの首を掴み宙へ持ち上げるデイモア。
リリアは今にももぎ取れそうな首に激痛を感じる。
リリア:「ぁ……ぁが……デ……モア……さま……」
デイモア:「これからぁ……?我のやる事は一先ず終えておる……、ベルトめぇ……奴の聖獣は敵にすると厄介だ、まずは奴が消えるのを待つだけよぉ……」
デイモア:ーリオル王……あやつ何を考えておるのだぁ……"あのお方"に挑む気かぁ……?ー
リリア:「んぐ……お、、…は……離して……くださ……い……」
デイモア:「……あぁ……すまんなリリア、少しイラついておるのだぁ……許せぇ……」
リリアの首を離し、リリアはその場で吐いてしまう。
リリア:「ぅっ……お゛ほっ……ぉ゛……ヒュー……ヒュー……」
デイモア:「今に見ておれぇ……貴様がいなくなれば、この世界を制するのは俺だァ……あとは、"あのお方"が我らを呼ぶまでぇ……フハッ……フハハハハハハァァ!!!」
影で渦巻く陰謀……
かつてなく悲惨な王会に、出席した者達は後悔していた。
王国を捨て隠れようとする者、帝国に立ち向かう為戦略をたてる者、情報を手に入れある者達へ伝えようとする者。
この時を最後に、平和は唄うのを辞めた……。
場所は戻り・・・・ロンブルク、、。
外の出来事は何も知らず、シエルの部屋へ来たノルンが仲睦まじく会話していた。
シエル:「ノルンはそんな甘いものたくさん食べてるのに、まったく太らないなんて……すごいじゃないか!」
ノルン:「そうなんだよ〜えへへ、お母さんも甘いもの大好きだったから、私も移っちゃったのかも!」
シエル:「ノルンのお母さんか、物凄く素敵なんだろうね。機会があれば会ってみたいよ!」
ノルン:「え……?あ、会えたらいいね!きっとそのうち紹介出来ると思う!」
ノルン:ーお母さん……お父さんはどうやってお母さんと出会ったんだろう、"この時代"のお母さんに早く会えないかな……ー
シエル:「ノルン?、どうかしたのかい?、あ、お母さんに合わせてって変な意味じゃないからね!!ほんと!」
ノルンは話を聞いておらず、我に返り顔を赤くする。
ノルン:「へ……?あ!ぁあ!うん!わかってる、わかってるよ!えへへ……」
ノルン:「そういえば、シエルのそのピアス……凄く綺麗だよね、どこで手に入れたの?」
ノルン:ーお父さんピアスなんかしてたかな〜?ー
シエルが着けている雫型のピアスが気になったノルン。
ーこれかい?ーと触るがシエル自身も困惑した顔をする。
シエル:「ん〜良く覚えてないんだ……、結構気に入ってるんだけどねアハハ!これ欲しいのかい?」
ノルン:「え?……ううん!違うの!凄く似合ってたから!どこかで見つけたら私も欲しいな〜って……えへへ」
シエル:「今度探してみようか!」
ノルン:「うん!」
シエル:「あ、結構日が沈んできたね。俺は一度村へ行ってくるよ、ノルンはゆっくり休んでね、こうしてたくさん話したのは初めてだったし、気分もかなり落ち着いたよ。ありがとうノルン」
ノルン:「ううん、シエルこそありがとう。凄く暗い顔してたから心配で、無理……しないでね?」
シエル:「アハハ!そういう事だったか……、心配かけちゃっていたとは、しっかりしないとだね」
ノルン:「もう……またそうやって一人で抱えようとするぅ〜、駄目だよ!ちゃんと皆に頼って!」
シエル:「は……はい、ごめんなさい」
ノルン:「正直でよろしい!じゃ、またねシエル。おやすみ」
シエル:「あぁ、おやすみノルン」
ノルンは静かに部屋から出ていき、浴場へシオンとミリスを誘いに向かった。
シエル:「一人で抱えちゃ駄目……か、シスナにもそう言われたっけ……」
皆に頼ろう……そう思っていてもなかなかそうできない事に深く悩む、決して信用していないだとか、無力だとかではなく、仲間が傷つく姿を恐れていたからだ。
そんな事を思っていると……突然シエルの脳内に覚えのない声が流れ込んでくる。
・・・・ーお前は一人じゃないー
ー貴方は一人じゃないんだから……ー
知らない声が頭の中で響き、頭を抱える。
シエル:「ぅぐ……まただ……なんなんだ……誰なんだよ……」
床に膝をつき、苦しんでいると誰かが扉を叩く。
デイン:「シエル、いるか?こんな時間にすまない、少し話せるだろうか」
シエル:「ぁ、あぁ、大丈夫だよデイン……とりあえず入っておいでよ」
デイン:「シエル、すまない…少し俺に着いてきてくれないか?あまり良くない事が起きてる気がするんだ」
デインはかなり深刻そうな顔をし、シエルは何事かと心配する。
部屋を後にし、デインの跡を継いていくと、視線の先には城の兵士達が松明を片手にどこかへ向かう途中だった。
シエル:「デイン、あれは?……兵達、どうしてあんな武装してるんだ?」
デイン:「分からない、魔物であれば鐘がなるはずだが……どうもそういう訳じゃないらしい」
シエル:「嫌な予感がする……あの兵達を尾行してみよう」
デイン:「わかった、何かあれば援護する」
シエル:「助かるよ!、久々だね、デインと隠密行動するのは!」
デイン:「フッ、そうだな……足を引っ張らないよう気をつけよう」
シエル:「うん!お互いに!……じゃあ、行こう……!」
ゾロゾロと森へ続く兵達を尾行することになったシエルとデイン。
時を同じくしてレインはというと……。
レイン:「たまには話しかけに行ってもいいよな……今は辞めとくべきか?……んん〜、いや、行くべきだ!」
ミリスの部屋へと向かっていた。
そして、別の階では……
エルト:「明日にでもシエルさんに伝えないと……あぁ……!どうしよ、ロンディネル様にも言うべきなのかなぁぁ……、早くしないと……い、今から……あぁ……でもなぁぁ〜!」
ドンッ!
隣の部屋から壁を蹴る音がする。
下女:「エルト!あんたうるさいのよ!!」
エルト:「ご、ごめん……」
そして………城内地下……【牢獄】
グじゃッッ……ジャグッッ……
「ぁ……あ………」
痛々しい音が響く部屋……そこには裸で鎖に繋がれた下女の姿があった。
腹を裂かれ、臓器が飛び散っており、もはや下女の意識は無いに等しい。
???:「ウホ……オホ……あぁぁ゛……い゛だいなぁ゛……ぎもぢぃなぁあ゛……」
・・・・
ヨルム:「なに……ここ…………え?」
目を覚ましたヨルム、服は脱がされ、手足を鎖で繋がれていることに理解が追いつかない。
カシャン……キシャンッ……
ヨルム:「そんな……ここ……地下牢獄だ……やばい、エレ兄にここだけは近づくなって言われてたのに……早くにげなきゃ……ヨルム……死んじゃう……ヒッ……」
ヨルムの視線に突然映る血だらけの大柄な男。
片手には大きな刃物を持ち、もう片方には鉄鋸を持っていた。
ヨルムは知っていた……目の前の男がこの世界で生きていては行けない程危険な存在であることを……。
???:「目……覚めた……覚めだぁぁ゛!!!ウハハハ!!めざめだぁぁ゛」
興奮した様子で鉄格子を掴みガシャガシャと強く揺らす。
ヨルム:「さいってぇ……このままじゃやばいな〜、どうにかしないと……」
どう逃げ出すか考えていると、男が鍵を開け中へ入ってくる。
ヨルム:「うわぁ……来ちゃうんだ、近づいたら死んじゃうよ?忠告してあげる〜」
ヨルムはこんな状況でもかなり余裕を感じていた。
自身の力を使えばこんな状況どうとでもなる……
━━━━そう思っていた。
ヨルム:「……え……どうして出てこないの……出て……出てこい!!」
???:「あ゛?力……つがえ゛ない゛……これ……あるがら……」
ヨルムが視線を下へ向けると、魔族の力を無効化する陣が描かれていた。
事を理解したヨルムは、武器を持たされず、魔物の前に放り出されたような絶望に打ちひしがれる。
事の危険性を理解したヨルムは体が硬直したように動かなくなり、途端に目の前の男が恐怖の対象に変わる。
ヨルム:「たす……けて……おにぃちゃん……せん……せ……」
男は興奮した様子でヨルムの顔を舌で舐め、手で体を撫で始める。
ヨルム:「ぁ……ぁ……いや……さわんな……」
???:「あとで……だのじむ……おどなじぐ……してろ……」
しばらく触った後その場を離れる男。
ヨルムは感情を無にしていた……。
・・・・・━━━
大臣室……
大臣:「王会が終わりましたか……王はもう……んくくく……くかかかか!!!私の番だ……あのお方の言うとうり、事は順調にすすんでいる!あと……あと少しだ、……ん?なんだ、急に現れおって」
突然大臣の目の前に現れたエイル、落ち着いた様子で
大臣に話しかける。
エイル:「貴様の言う通りにした……奴を解放しろ……もうすべき事はしたはずだ…」
エイルの言葉に苛立った大臣はエイルの髪を掴み、
顔を近ずける。
大臣:「なにを言っている馬鹿め、ラボラスはまだ使える……お前、奴を救いたいなら私の指示に従うのが賢いぞ?、勝手に終わりだと思ってるんじゃないだろうな?……な訳がないだろぅ、まだまだ働いてもらうぞ…くかっ…くかかかか!!次は……奴の仲間だ……まずは"女共"を排除する」
エイル:「……」
大臣:「そろそろ"あの魔法"の効果が切れる頃だな……早く終わらせてしまわねば……あぁ、神の御加護があらんことをぉ……」
【地下牢の悪魔】へ続く……




