【王会へ招かれた者たち】
ロンブルクから場所は変わり……アルラーク大陸中央に位置する帝国【デイモアール帝国】に各大陸、各国から国の代表が集まり開かれる会議ー
【王会】ー恐れを知らぬ者たちはこの会議の名を【デイモア会議】とそう呼んでいる。
帝国内会議場ー人族が約一千万人、巨人族であれば約十数万が立ち入れるというとてつもない広さを誇る建造物に招かれた者たちが国の顔となり座っていた。
デイモア皇帝の若く、美しい新たな執事が声を響かせる。
皇帝執事:「参加国……!アルラークから、"パルテステラリオル"!、"ランザール"!、"バウキスタル"!、シャーダルから、"ナルビスタ・ダイル"!、"ラオルケミル"!、"ギルッシャス"!、オリタルから、"ロルコッツダルケ"!、バルバザスから、"アール・ドラキュオル"、"バルバリアン"!、"エティメール"!……以上十一国」
腰に手を組み、円卓に座った王達に礼をすると後ろへと下がる。
そんな猛者達が集まるなか、リオル王の護衛として来ているロキシルの姿があった……。
ロキシル:「今回の王会、とんでもねえのが揃ってんな……なにしようってんだ皇帝様は……、一番驚いたのはシャーダルを統治するナルビスタ帝国が出席してるってことだな、こりゃどんな偶然だ……ちびっちまいそうだな」
腕を組み、壁に寄りかかりながら下の階で、大黒石で彫られた長い背もたれの椅子に座っているリオル王を見てロキシルは鼻で笑う。
ロキシル:「さぁ……リオル王、お前の時代はもう終わるぞ……馬鹿な事考えんなよ?」
突然ロキシルの背中に寒気がはしる……
まさに恐怖という鎧を身に纏った大柄な男が扉から出てくるその様はまるで魔王……恐怖と力だけで皇帝にまでなりえた者が今目の前に現れたのだ。
執事:「デズラエル・アスモ・デイモス・アズバン・デイモア皇帝陛下へ忠誠を……!!」
デイモア:「やめろ、リリア……忠誠心などこの場にはいらぬ……」
重い体を大きな玉座へと腰掛ける。
デイモア:「我が国へ良くぞ遠方から……感謝しよう。今日は我が皇帝となった祝すべき日だぁ……こうしてここへ座れているのはお主らのおかげよぉ……、ん?……なんと…これは驚いたなぁ……ベルト、お主が王会へ出るなど……何十年と久しいではないか」
ナルビスタ・ダイル帝国皇帝【ナルビスタ・ダス・ベルト】デイン達の父であり、名だたる王の中で唯一一人、争いをせず、差別を無くし、数多の革命を起こしたとし、砂の大陸シャーダルを統治する大陸随一の権力を持つと言われている者。
ベルト:「何を言うか……貴様が私をこの場に招待したのだろ、ここ最近色々と問題が多いのでな……出席する事にしただけだ。決してお前の国を喰おうなどとは思っておらんさ」
二人を除いて……この場で汗をかかない者はいないだろう。
唯一デイモアが手を出さず、対等に話す事のできる人物であるベルトにだけ立てる土俵である事を誰もが理解しているこの状況に、皆が口を閉じてしまう。
デイモア:「フフフ……フハハハハ!!ベルトォ、我が国に手を出すなど、貴様には到底出来ぬ事よぉ……貴様の国もいずれ、我が支柱へと変えてくれようぅ……」
ベルト:「そうか……言っておればいい、その時が来ようものなら、私の同盟国と共に貴様の相手をしてやろう」
互いに敵意を強くぶつけながら睨み合っていると、執事が二人を止めようと間に入る。
執事:「デイモア様……よろしいでしょうか?ベルト様も……このままでは進みませんので」
ベルト:「失礼した……どうぞ、続けなさい」
デイモア:「そうだったな、良いぞリリア…続けろ」
執事:「それでは、掟三ヶ条を読み上げさせていただきます。
一:討論は出席されている者達のみで行うこと、外部からの論議は行ってはならない。
二:討論と答弁に真実を答えなかった者
偽善虚言を申した者は永久に議会から追放し、
その王国の王権の剥奪、奴隷として帝国で無期限労働の強制を命ずる。
三:討論に対し最終的な全ての決定権はデイモア皇帝陛下が下すとする。……以上三ヶ条です。
くれぐれも破ることなく会議を終わらせてください。
私からは以上です」
デイモアは髭を触りながら片肘を手すりにつけ、ーさぁ始めよ……ーと全員に視線をおくる。
しかしなかなか誰も口を開こうとはせず、ベルトに関しては両手を顔の前で組んでじっと見ているだけだった。
しびれを切らしてデイモアが口を開く。
デイモア:「なんだ……?貴様らは何一つ悩みや解決するべき事がないのか?フハハハハ!平和と?そうぬかすか?」
デイモアは突然バルバリアン王国国王を指さす。
それに驚いたのか口元を震わせながらバルバリアン二世はその場で立ち上がり、話し始めた。
バルバリアン二世:「で…では、我ベーベルト・アシュ・バルバリアン二世が討論の論議をさせて頂こう……」
話始めようと立ち上がったバルバリアン二世に反応し、突然立ち上がるエティメール王女。
卓上を平手で叩き、二世に怒りを向け始めた。
エティメール:「……!良くもここに顔を出せたものですねバルバリアン、貴様の愚行……ここで全て吐くのです!」
バルバリアン王国はバルバザス大陸では小さい国ではあるが、兵力は他の国と引けを取らない強さを誇っている。
そしてエティメール王国を治めている"マルネルク・エティメール王女は戦争で亡くなった王の後を引き継ぎ
国民を纏めあげ、戦争反対を強く主張している。
バルバリアン二世:「なんと品のない、それも愚行とは……元はと言えばそちらの国の者が始めた事ではありませんか!」
バルバリアン二世もまた円卓を叩く。
それを睨む獣人王国獣王ラオル……。
獣人族だけが暮らす王国ラオルケミルの王として君臨し、勇ましきその獅子の姿は多くの者に恐れられている。
ラオル:「やめい!!貴様ら人族は昔からまったく変わらん……互いに国を潰し合い、互いに国に泥を塗っていることをなぜ分からんのだ!…主らの国の者達にその"勇姿"を見せてみたらどうだ?見せられるか!?その時は我が嘲笑ってやろう」
人族を馬鹿にしたような発言に苛立ちを感じたベルトは、ラオルを強く睨み、それに怯んだラオルは発言をを言い直す。
ラオル:「んっん゛……少し言いすぎてしまった、しかしだ、先程は勇姿などと馬鹿にはしたがお前たちのその姿は決して民に見せられるものではないだろう。これはよく理解出来るはずだ」
バルバリアン二世:「ラオル王の言う事はごもっともであります。しかしながら私の国の者が殺されているのです!それも何もしていない無実である行商人を!……私の国が何をしたと!?何も手出していない!そうではないですか?エティメール王女」
二世はエティメールを強く睨み怒りを訴える。
しかしそれに反論するエティメールもまた眉間に皺を寄せていた。
二世の発言に納得の行かない王女は余裕を感じさせる態度で二世に問いかける。
エティメール:「バルバリアン二世、貴方はこの場において虚言は許されないことを理解していますか……?
私は真実を言います。決して嘘偽りない事実を、貴方のお国の行商人を襲ったのは私の国の者ではなく、この戦争を起こそうとした何者かに雇われた者の仕業です……、そしてその者に行商人を殺められてしまい私達はまんまと戦争を初めてしまったのですよ二世……私達は嵌められたのです」
バルバリアン二世:「なんですと?何を言うかと聞いていれば……そんな戯言を、そしてそれを今更信じろと言うのですか!?私はランザールも巻き込んでいるんですよ!?それに……?」
二世の話を遮り、挙手をするランザールの王
"エファイストス・アレス王"は落ち着いた声で話し始める。
アレス:「話を遮ってすまないねバルバリアン殿、我が貴殿の国に力を貸したのは先程説明された話と違っていた為だ……貴殿は私に言った事を覚えているかだろうか……?無論覚えているだろう?ではあの時私に申した事を今ここで言ってみてはくれないかな?」
そう言われた二世は突然冷や汗をだらだらと流し、一言も話そうとはしなかった……、そしてそれを笑いながら煽り始めるデイモア。
デイモア:「どうした……バルバリアンよ……さぁ申せ、恥ずかしがる事はないだろぉ……申せ」
二世は恐怖の眼差しで皇帝を凝視し、震える部位を全て震わせ、今にも吐く寸前のように顔を青ざめさせ、
頭を抑える。
バルバリアン二世:「…がう……ち…ちがう……違う……違う違う違う違う違う違う!!!違うんだぁあああああ!!私は……私は……」
目が赤くなり、歯をギリギリとさせ、叫ぶ二世。
そんな姿を前に皇帝はにやりと笑っている。
皇帝は「申せ」とまた一言。
二世には上階で肘をつけて座っている皇帝が恐ろしく、おぞましく、抗うことが不可能なまさに無敵の悪魔の様に見え、この場で死ぬ事を覚悟した二世は目から涙を流し口を開いた……。
バルバリアン二世:「エ……エ…エティメール王国が貴方様の騎士国……あ、あ…貴方様の騎士国ランザールと同盟を持ち掛け……内部からつ……潰そうと企んでおると……情報を掴んだのですが……ど、どうか私の国も力となり……ますので……共に、エティメールと戦いましょう……私は……決して裏切らぬとここに誓います……アレス殿の国を共に守ろうでは……あ…ありませんか……」
デイモアは突然拍手し始め、二世を不敵な笑みで見つめる。
口をガタガタと震わせる二世……、二世は気づいた……
今気づいても遅いくらい後が無いのは理解したが、
この場でこの発言をさせられてしまう事はずっと前から決まっていた事なのだと。
今……思い知らされていた……有利だと思っていた自分が、実は手のひらで転がされていることを……。
アレス:「そうだったな……二世殿はそう言ってくれたのだった……しっかり覚えているではないか、その言葉を信じた私は直接エティメールに会いに行った。そしてそれが真実か私自身がしっかりと耳にした。がっかりだった……"虚言"だ……貴殿の国には色々と物資で助けられていたが……いやぁ……虚言を申すとは……私は胸が痛む……残念だよ……バルバリアン二世殿……」
デイモア:「では……二人に問おう……この議題、要するに今起きている争いを終わらせたいと言うことで間違いないな?……どうだ……」
エティメールは小刻みに体を震わせながら下を向いて頷く。
アレス王もまた恐怖こそしていなかったが、デイモアと視線を合わせることなく頷いた。
そして皇帝の決定が下される。
デイモア:「ではぁ……この王国間での争いを終わらせるとしようではないかぁ……事の発端となったバルバリアンは我が領地とし、現国王……ベーベルト・エシュタリヒ・アシュ・バルバリアン二世……お主には我が国での永久労働を今ここで決定とするぅ……以上だぁ……」
バルバリアン二世:「な……なぜ……私の母の姓を……そん……な……お前だったのか……お前がぁぁぁあ!!」
デイモア:「フッ……フハハハハハ!!実に美味かったぞ……玄人はぁ……連れてゆけ……」
巨体な兵に脇を掴まれ、部屋の外へと引きずられていく二世……。
二世は信じたくなかった……今、自身が地獄へと落とされる事を……あの日の出来事を……ー四年前に遡るー
・・・ある日突然いなくなった大陸内でも五本の指に入る程美しいといわれた母は、先代王であった父から国から追放したと突然伝えられる。
それを信じたくなかった二世は泣きじゃくりながら街へと逃げ……ある酒場の前で座っていると、巷では魔王の生贄にされた……ある王国で姿を見たなど、酒場にいた民達が噂していたのをのを耳にしてしまい、そんな事を耳にした二世は、父がなぜあんな血の気の引いた顔をしていたのかをその時はまだ理解出来はしなかった……。
しかし今この時二世は理解する。
母がいなくなった後の王国兵力のとてつもない増加、
物資が次々と増え、貿易国が次々と増えていく光景の意味を……
父は母をこの悪魔に捧げ、契約していたのだと……。
バルバリアン二世:「デイモァアアアアアアア!!!!貴様だけは……!貴様だけはぁぁあ!!……私は……私は真実を申した!!真実をいったまでだぁぁ!!虚言では……なぃ!!うぁぁあああああああ!!!離せ!!はなせぇぇえ!!!」
この時……誰一人としてバルバリアンを見る者はいなかった……。
皆、まだこの時が"余興"である事を知っていたからである……。
皇帝の遊間ーそれがこの場所の呼び名である理由であるように・・・
ギャィィィィ……バッアン…………ー
そう……この王会とは、話し合いという綺麗なものではなく……国と国が潰し合う慈悲の無い戦争よりも恐ろしく、誰が生きて帰れるか分からぬ地獄の牢獄……。
誰が騙され、死すのか……この場所で一体今まで幾つの国が喰われて来たのか……ここにいる者達だけが、それを知っている……。
ロキシル:「さぁ……始まるぞ……魔王のお遊戯が……」
【決まっていたシナリオ】へ続く……。




