【泣いている心】
仲間を失った辛さは、何度経験しても決して慣れるものじゃなかった……。
アルフォスは平然を装ってはいたが、目はどこか遠くを見つめている様に見えた。
・・・・ー
重い空気のまま部屋へと戻ったシエルは、ひとまず冷静にこの数時間で起こったことやラボラスについて多くの考えをまとめる事にした。
シエル:「シオン達を襲った魔人族の三姉妹、俺達の前に現れた少女とラボラス……ここになにか繋がりはあるのか……?もしあるとしたら、狙いはロンディネルだけなのかな……にしては敵が多すぎる、目立ちすぎなんだ…王の暗殺くらいならせいぜい派遣されても二人、でも現れたのは三姉妹とラボラスと少女……ラボラスは暗殺なんてできっこないし、あの少女が出来るとも思えない、三姉妹は堂々と窓から侵入したって聞いたし、いくらなんでも目立ちすぎてる……ラボラスはロンディネルとある程度の関係を築いてる、わからない……誰が何を狙ってるのか、リオル王が依頼した奴はどいつなんだ……」
ーコンコン……
ベッドに座り考え込んでいると誰かが扉をたたく。
ーシオンかな、でもさっき負傷したミリスとノルンの傍にいるって言ってたよね……?ー
扉の前に行き、誰なのか尋ねる……。
すると返事をしたのは聞き覚えのある下女の声だった。
シエル:「入っておいでよヨルム」
ヨルム:「声でわかってくれるなんて〜、うれしいなー、女の子を部屋に招いたってことは……キャー!!せんちぇったら積極的〜!」
シエル:「いやいや違うから……それにヨルムの方から来てくれたんじゃないか……俺は君のように小さな女の子をたべる趣味はないよ」
ヨルムはむすーっと頬を膨らませ、少し怒った態度をとった。
ヨルム:「せんせ、ヨルムこう見えても大人なんだよ?もう百と六年生きてるんだから〜、そういう事もできるもんね!べ〜」
シエル:「さすが魔人族、長寿だね……」
ヨルム:「ヨルム達せんせが思ってるような月並みの魔人族じゃないよ?お兄ちゃんとヨルムは王魔族、エレちゃんは闇の魔神族、三姉妹は亜人亜種魔族、みーんな種族バラバラなんだから」
シエル:「あれ、一人忘れてないかい?」
ヨルム:「ああ……あいつ? ベルザスは仲間じゃないもん、ヨルムあいつ嫌い……」
ヨルムは嫌悪した顔でそう言うと、ハッと顔を戻し、恥ずかしがる仕草をとった。
ヨルム:「ヨルムってばせんせにブサイクな顔見せちゃった…あぁ〜ダメダメ!」
ーアハハ!見てなかったやごめんーと伝えるとヨルムは見て欲しかったのかムスッと頬を膨らませる。
ー別にいいけど…!ーと少しいじけた表情をしたがすぐににこっと表情を戻す。
シエル:「それで、今のヨルムの言葉を纏めると、君達には何かの繋がりがあって、そのベルザスって奴は元々は居なかったって事なのかい?」
ヨルム:「そうだよ、だってベルザス以外の"ヨルムたちを巡り合わせた"のはせんせなんだもん……あいつは依頼主が連れてきたから全く関係ないの」
悲しげな表情でシエルを見つめ、指でもじもじと今にも話したそうなヨルムに、シエルはー話してごらんよ、俺も知りたいんだーと伝える。
ヨルム:「百年前、まぁ厳密に言うともっと前だけど……魔界ー冥界ー天界ーの争い【三界大戦】があったの、それに巻き込まれた人界で多くの人族が死んで、大陸同士でも争いが起こった……、そんな時に現れたのがせんせとたくさんのお仲間達、大軍を引き連れてその戦争を終わらせて、親のいない私たちを見つけて拾ってくれたんだ、嬉しかったな……」
シエル:「すごいな……そんな人物が孤児だった君達を、拾った……か、でもなんで先生なんだい?親にはならなかったの?」
ヨルム:「せんせはね、ヨルムたちの親でもあったし、せんせでもあったの!
私たちの様な魔族の子達を集めて毎日色んな事を教えてくれた、だからせんせ!……でも、それから二年後……せんせはいきなり皆の前から姿を消したの……、せんせの仲間もみーんな……」
ヨルムの表情が突然暗くなり、涙が流れる。
なぜか胸を強く締め付けられる感覚にシエルは、ヨルムに話を続けるよう伝えた。
ヨルム:「せんせがいなくなって、みんなで探したの……色んな街に行って、国に行って……でもねせんせが創った国に来たら、国の名前も、王も変わってて……突然魔族の私たちを襲ってきたの。
何人も家族が目の前で殺されて、残されたヨルム達は戦った……その時生き残ったのがヨルムたち六人……」
シエル:「そんなことが……あったなんて…酷すぎる」
ヨルム:「ねぇせんせ、どうして今頃戻ってきたの?今までどこに……どこにいたの!!せんせがいなくならなかったらみんな生きてたしお兄ちゃんもみんなも……こんな事しなくてよかったのに、
お兄ちゃんはみんな死んだのはせんせのせいだと思ってる……だからせんせを殺そうとしてるの、ヨルムはねそれを阻止したくてここにいるの……また…あの時みたいに……もどりたい……もどりたいよせんせ……」
涙を流しながら声をあげるヨルムに、シエルは言葉が出なかった。
争いの後、ヨルム達を育て、親のように接したというその人物が自分だという確証は無く、ここで謝る事も否定する事もできない状況に言葉を詰まらせてしまう。
ヨルムは強い視線でシエルに訴えかけるが、どうしていいか分からず、シエルはヨルムから視線を外してしまうのだった……。
シエル:「ごめんよ……ヨルム、俺には目覚めた時からの記憶しかないんだ……だから、だからね…ヨルムが言うように、その先生っていうのが俺なのかどうかわからないんだよ……だから今はどうする事もできない」
ヨルム:「せんせになにかあったのはヨルムにも分かる、でもさっきせんせに初めて会ってヨルムは違和感を感じたの。話し方、髪型、戦い方……全然前と違う。
でも、やっぱりせんせからはあの時と同じ優しい匂いがするの!だから私は信じてる、せんせは記憶をうしなっててもせんせだって」
ゆっくりとシエルに歩み寄り抱きつくヨルム。
シエルはぐしゃぐしゃな感情のままヨルムの頭を撫でていた……。
ヨルム:「戻ってきて……せんちぇ……ヨルムの大好きな……せん…せ……」
突然力の抜けたヨルムにシエルは驚く。
ーえ……ヨルム……クスッ……怒って泣いて…疲れちゃったのか、忙しい子だな…ん〜困ったな…どうしよ……ー
ヨルムをベッドに寝かし、頬を指でつついた後また頭を撫でた。
シエル:「今はまだ答えられない……でも、もし真実を知れたら、ちゃんと答えると約束するよヨルム……今はゆっくりおやすみ……」
ヨルム:ーせん……せ……ー
自分が何者なのか……いったい何をしてきたのか……考える事を辞めたかったが、ヨルムや三姉妹、そしてハディスやエレボロといった存在が呼ぶ先生という存在……、そしてあの時会った記憶にない"同じ長髪で灰色の髪をした男"……ロキシルがなぜ自分を拾い、ギルドへ招いたのか、ロキシルならなにか知っているのではないか……ーその真実に悩まされながらシエルは朝を迎えるのだった……。
ーん……んん〜!……?、あれ?ー
目が覚めるとベッドにはヨルムの姿は無く、ベッドに掛けていた腕によだれを垂らしていた……。
シエル:「いつの間に寝ちゃってたんだ……うわ、べとべとだ……ヨルムもいないし、昨夜は色々ありすぎた……もう朝じゃないか……」
水で顔を洗い、動物の毛で作られた布で顔を拭く。
ーコンコンー
レイン:「シエル、起きてるか?起きてるなら出てきて王の間へ来てくれとさ、待ってるからな」
シエル:「今行くよ!」
支度をし、外へ出るとレインが壁に腰掛け待っていた。
レイン:「行くぞ……?」
レインについて行き、長い廊下を話しながら歩く。
シエル:「ミリスは、なにか聞いてるか?」
レイン:「今朝、国の医療魔法士が治してくれたそうだ、さっき顔をあわせたよ、安心したぜ……まったく……」
指で鼻を触り嬉しそうなレインを見て少しホッとする。
デインもマキシスもかなり心配していたが、それに劣らないくらいレインも心配していたし、目の下を見るに心配で眠れなかったのがよくわかる…。
シエル:「ロイの星葬礼……アルフォスは大丈夫かな……」
レイン:「さぁな……かなり辛いだろうしな……」
アルフォス:「馬鹿……なに心配してんだよ……!」
突然背後から声がし二人でーうわぁ!!ーと声を出した。
レイン:「ア……アルフォス!いるならいるって言え!!」
シエル:「一応偵察班だもんね……アハハ」
アルフォス:「あ?言う訳ないだろ!てかお前ら、俺をなんだと思ってやがる、俺はあいつの兄貴だぞ?ここでめそめそしてたらあいつに笑われるっつの!そもそも、二人でアサシンになる時に覚悟は決まってんだ、どっちかが死んでも、絶対泣かないってな……お互いにその分を生きようぜって……」
シエル:「そっか……二人らしいね」
レイン:「んだよ、余計な世話だったな〜」
アルフォス:「おう……」
心配させないよう強がっている事は、シエルとレインにも分かっていた。
しかしアルフォスの意思を無駄にしたくないと、二人はいつもの様に接する。
アルフォスもきっとそれを望んでいるはずだから…と。
しばらくして王の間へと着き、皆と挨拶をかわす。
そして儀式の場へと連れられ城の屋上へと上がった。
何も知らない空は今日も青く、涼しい風を吹かせている。
星となったロイの肉体は残っておらず、アルフォスの持っていたロイの遺品を炎魔法で燃やし、粉にし、それを空へと撒いた。
透き通った空に舞っていく粉はきらきらと輝き、瞬く間に見えなくなってしまった。
アルフォス:「またな……ロイ、そっちで見ててくれよ。兄ちゃん頑張るから、かあちゃんととおちゃんによろしくな……」
零れてしまいそうな涙をぐっと堪え、空を見上げたアルフォスは強く口を噛み締める。
ロンディネル:「一度城内へ戻りましょう、アルフォスさん、大丈夫ですか?」
アルフォス:「えぇ、もう別れは済みました。弟の為に式を行ってくれて感謝します。
ロンディネル王。用も済んだので俺はまた姿を隠します。では……」
そのまま下へと飛び降り、ロンディネルが除くと既にアルフォスの姿はなかった。
ロンディネル:「すごい……偵察班というのはすごいですね、アルフォスさんの気配なんて全く感じませんでした。」
シエル:「うちのギルド自慢のアサシンだからね!」
デイン:「アルフォス、本当に強い男だ」
マキシス:「あいつの強い精神と力は俺でも憧れるものがあるな……俺はお前たち二人を失ったら、怒りでどうにかなっちまうだろうに……」
マキシスは腕を組みながらデインとミリスを見つめ、
長男としての愛と信頼を感じていた……。
シオン:「ミリス……無事でいてくれてありがとう」
ミリス:「私も兄様達に鍛えられたもの!そう簡単に死なないわ!……昨夜の戦い、なんの役にもたたなかった……これ程の屈辱を感じさせられて黙ってられない」
余程悔しかったのか、短剣を強く握りしめ、怒りを顕にする。
そんなミリスにシオンはーそんな顔してたら嫌われちゃうよーと言い、ミリスはレインの顔を見て頬を力いっぱいに叩いた。
レイン:「お、おい!なにしてんだよミリス!」
ミリス:「王国の王女たるものこんな顔を晒しているようではダメね!母様が悲しんでしまう。私がここにいるのは母様の許しあってだもの、後悔させたくない」
レイン:「…だからってそんな力で叩かなくても…」
シエル:「ミリス、今回の依頼……とても危険な匂いがする、焦らず気をしっかり持つんだ、悔しいのは分かる、だからこそ慎重に行動しよう」
ミリス:「ありがとうシエル、今ある命……大切にするわ」
ロンディネル:「……今ある命、ですか……ミリスさんの言う通り……?!全く、こんな時に…」
ドタドタと階段を上がってくる音がしたことに気づいたロンディネルはその正体を見てため息をつく。
大臣:「王よ!!なんですかあの有り様は!!?窓が割れ、床は血の匂い、昨夜一体なにが!?!」
シエル:「昨夜あれだけの事があって眠れていたのかい??」
大臣:「ぬっ!?……きさまは、んっん゛……客人には聞いておりません、少し慎みなされ」
ロンディネルはシエルに対し無愛想な態度をとった大臣を強く睨む。
その視線に汗をかきながら視線を逸らし、丁寧な話し方になった。
大臣:「私はなかなか寝付けないので壁を少し厚くしておるのです。そんなそっとやちょっとの音、私の部屋には聴こえてきません」
ノルン:「あの光景をみてそっとやちょっとって……あんまりだよ……そんな言い方」
大臣:「ん?なにか申されたかな?お嬢さん」
ノルンは大臣から視線を外すことなく怒りをあらわにし、それに気づいた大臣はムッと顔をしかめる。
大臣:「なんだ貴様、客人だからと……お?」
シエル:「大臣……失礼したね、皆、今は気持ちの整理がまだついていなくてね、だから今はその怒りをどうか抑えてはくれないかい?」
大臣:「ぐぬぬぬ……けっ!無礼な奴らめ!王よ!人はもっと選ばねばなりませんぞ!!ったく……」
大臣はブツブツとなにか言いながら階段を降りていく。
ノルン:「ありがとうシエル……」
シエルは無言で微笑む。
ロンディネル:「大臣は私の護衛に関してとても否定的なのです。狙われているのであれば自らの示しを見せるべきだと、しかし、昨夜の相手となると私は息をする間もなく消されてしまうでしょう……」
デイン:「大臣が言うこともわからなくは無い、国の王たるもの力を見せるのは国を背負ってどれだけ戦えるかという示しがつくからな、しかし無理に戦って負け戦をしているようではなにも意味をもたない。
俺はロンディネルの思う正義を貫いて欲しい」
シエル:「デインの言う通り!ロンロンはロンロンの〜」
レイン:「てめぇデインの言葉復唱しようとすんな!」
シエル:「ええ!?いやいやその後にね!こう…あれだよ〜!」
皆がクスクスと笑う。
少し緊張が解け肩の力が降りる…
ロンディネル:「シエルは道化のようですね、人をすぐに笑わせる事ができるなんて、アイル達に好かれる理由がわかった気がしますよ」
デイン:「道化…シエルにお似合いじゃないか、道化のアサシン…いいじゃないか、フフ…!」
一同:ーデインが笑った……ー
デイン:「おい!それをやめてくれ!私だって笑う!」
恥ずかしそうに怒るデインに大きく高笑いするマキシスは、なぜかデインの背中を力ずよく叩いた。
ーウグッーと声を出し痛そうに背中をさするデイン。
マキシス:「ハッハッハッ!!気持ち切り替えていこうじゃねぇか!しみったれたのは好かねぇ!」
ノルン:「そういえば、そのアイルって亜人族の子達、気になる!」
シオン:「会ってみたいよねって三人で話してたもんね!」
ミリス:「私たちナルビスタ家は亜人族をとても好んでいるの!早く会いたいわ!」
レイン:「亜人族の奴隷解放を宣言したんだよな?」
デイン:「あぁ、父上は多種族の差別を無くし、移民として我が国で迎えている。なんでもお爺様が騎士だった頃に仕えていた王がそういう事をしていたそうだ」
ロンディネル:「奴隷解放…私も協力していますが、やはり"あの皇帝"がいる限り、この法は覆らないでしょう…」
シエル:「デイモア皇帝…か」
しばらくして……
ロンディネルから亜人村の安否を確認してほしいと言われ、ついでに皆を紹介する事にした。
アイル:「び…びびび…美人な人だ……」
シオン、ノルン、ミリスの三人を見て、というより三人の胸を見てアイルは興奮していた…。
そんなアイルにミーシアは痛い視線をおくる。
ミーシア:「お兄ちゃん…バカ…」
ミリス:「キャァー!!あなたがアイルね!なんて可愛いのかしら!!」
アイルと目が合ったミリスはすかさずアイルを強く抱きしめる。
アイル:「わわわわわわ…!!むむ、むね…胸が…そんなに…??」
グキッッ
アイル…ミリスに背骨をやられる……
アイル: ーチーーン……ー
ミリス:「なんか聞こえたけどかわいいからいいや〜!」
ヘレナ:ーシエルおにぃちゃん!!シエルおにぃちゃんだ!ー
無垢な笑顔で走り向かってくるヘレナを優しく抱きしめる。
シエル:ー元気にしてたかい?ヘレナ!今日もいい笑顔だ!ー
ヘレナ:ーヘレナずっとまってたよ! はやくきてくれないかな〜って!おはなしたいことたっくさんあるの!ー
シオン:「この子がシエルの言ってたヘレナちゃん?」
シエル:「あぁ、すごく優しくて良い子なんだ…」
シオン:ーこんにちはヘレナちゃん、私はシオンっていうの、よろしくねー
シオンが【心話】のスキルを使えることに驚くシエル。
前々から謎の多いシオンだが、何を隠しているのか探ろうという気持ちにはならなかった。
しかし、なぜか少し悔しく感じたシエルはシオンに問う、、、
シエル:ーシオンが使えるなんて思ってなかったよ!
なんで黙ってたんだい?使えるならさっき教えてくれたってよかったじゃないかー
シオン:ーだって…別に聞いてこなかったじゃんー
シエル:ーアハハ…確かに……ー
突然シエルの頬に自分の頬を強くくっつけるヘレナ、
ムスッとした顔でシエルに何かを訴える。
シエル:ーん?どうしたんだい、ヘレナ、なんか怒ってる?ー
ヘレナ:ーべつに、おこってないもん!ー
シオン:ーあれ…なんかまずいことしちゃったかな?ー
ヘレナ:ーシオンおねぇちゃんは、シエルおにぃちゃんの恋人なの?ー
シエルーシオン:ーへ…!?ー
ヘレナの突然の直球すぎる質問に二人は顔を赤らめる。
しかし、この状況で二人はどう答えていいか分からず、少し気まずい空気が三人を包む。
心の中でなにか考えてしまえば筒抜けになり、
かと言って言葉に出すのも恥ずかしい…そんな二人は口をもごもごしつつ黙ってしまった…。
ヘレナ:ーちがうの?ちがうならヘレナがシエルおにぃちゃんとけっこんする!ー
シオンは更に顔を赤くする、なぜかはわからない…。
シオン:ー……うぅ…ー
シエル:「否定しないってことは…いひゃ〜」
とシオンに聞こえない声で呟く…。
嬉しいような恥ずかしいようなこの空気をなんとしてでも変えようとシエルが話を逸らそうとする。
シエル:ーアハ…アハハ!ヘレナ、昨夜は特になにもなかったかい?ー
ヘレナ:ーうん!なんにもなかったよ!でもね、でもね!おそらにとってもきれいな星がながれてたんだよ!!ー
ヘレナの言葉にシエルとシオンは顔を見合せ微笑む。
シエル:「ロイは星になってこの世界の子供達を笑顔にしてくれたんだな」
シオン:「私達で絶対守っていかなきゃだね」
二人がなにを話しているか分からず首を傾げるヘレナ。
寂しかったのかシエルの服を引っ張る。
ヘレナ:ーシエルおにぃちゃん、さっきからにやついてるー!なんで?ー
シエル:ーえ!?…色々あるんだよ、色々〜ー
ヘレナ:ーあ〜なにそれ!ずるいよ!…アッ!ー
暴れたヘレナは足を滑らせ、しゃがんでいたシエルの額にヘレナの額が強くぶつかる。
その瞬間ヘレナは突然黙ってしまい、全く動かなくなってしまった。
シオン:ーヘレナちゃん!?どうしたの?大丈夫!?ー
シエル:ーヘレナ!…ヘレナ?ー
ヘレナ:ーシエル…おにぃちゃん?どうして…泣いてるの?ー
ヘレナの言葉の意味が分からず、涙が出ているか目元を触って確認してもそんなことはなく、ヘレナにどういう事かを聞いた。
しかしヘレナからの返答はなく、突然ヘレナの瞳から涙が零れ落ち、ヘレナはシエルを強く抱きしめた。
シオン:「どうしちゃったんだろ…」
シエル:「わ、わからない…」
ーどうして泣いているんだいヘレナ、教えてくれー
ヘレナ:ーシエルおにぃちゃんの中にね、すごく悲しんでるおにぃちゃんがいるの…シエルおにぃちゃんに、すごくにてるんだ…ずっと泣いてる…ー
シエル:ーえ……どういう事…俺の心の中って…ー
ヘレナの言葉に頭が混乱したシエルは胸に手を当てる。
自分は誰かの皮を被った別人なのか…じゃあ今ここにこうして存在している自分は元々誰で、何者だったのか…ヨルムの言葉やヘレナの涙がシエルを苦しめる。
シエル:「いったい……俺は……"ぼく"は……誰なんだ……」
シオン:ー!?ー
「シエル!シエル!!しっかりして!」
シオンの言葉に遠のいていた意識が戻り、一瞬誰かに体を乗っ取られたような感覚が残っていた…。
シエル:「あ…ぁ…どうしちゃったんだろ、俺…」
ヘレナ:ーシエルおにぃちゃん、だいじょうぶ?ー
シエル:ーうん、大丈夫だよヘレナー
ヘレナの頭を優しく撫で、微笑む。
安心したのかヘレナはシエルから離れ、ーちょっとミーシアのところ行ってくるねーと走っていった。
シオン:「シエル…さっき…」
シエル:「え…?ごめん、アハハ!気にしないで!俺も色々わかんなくなっちった…」
シエルが明らかに同様しているのを感じ、何か言いたげなシオンだったが、余計に混乱させてもいけないと
黙って微笑みを返した。
シオン:「今日はゆっくり考えたらいいよ、なんなら私が話し相手になるよ!」
シエル:「ありがとうシオン、考えておくよ」
レイグに用事があるからと伝え、一度シオンの元から離れる。
頭を抑え、ゆっくり深呼吸する。
シエル:「しっかりしろ……今は、この依頼に集中するんだ…」
シオン:ーシエル……さっき…一瞬だけ……ー
離れていくシエルを見つめたまま、胸の前で手を握るシオンは、涙を一粒…瞳から零していた…。
【知ってしまった真実と隠された正体】へ続く……、




