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【珈琲と一粒の豆】  作者: 花やん
世界バリスタチャンピョンの男
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第2話焙煎ファクトリー

第2話焙煎ファクトリー

株式会社コーヒーファクトリーKOBEの焙煎部門。副代表で焙煎士の加藤隆弘さんが統括している。千波さんと僕が固い握手をしている同時刻、焙煎ファクトリーでは、スタッフの焙煎士が今日必要な分のコーヒー豆を焙煎し始めていた。

「加藤さん、千波さんが来ていたのですか?こちらにも拍手が聞こえてきたので」

「そうだよ。千波ちゃんが、試作のブレンドコーヒー豆を持参してきてくれてみんなで試飲していたのさ」

「あぁそうだったのですか。で、どうでした?」

「うーん、なかなか良かったじゃないかな。酸味と苦味のバランスが取れていて、香りも悪くないと思う。千波ちゃんは、アーティスト思考だからね。良い意味で明君とは違うね」

「いいなー。でも僕たちも負けていられませんね。明さんと加藤さんの目指すコーヒーを実現できるように、もっと学びます」

「君たち期待しているよ。さて、焙煎士全員集合だ。おぉ明君だ」

「朝のミーティングですね。皆おはよう」

「明さん、おはようございます。今ちょうど焙煎作業開始したところです」

「よし今日の焙煎予定の豆の確認をします。まずは…………」

―――そして、焙煎士たちの一日が始まる。

「明・加藤さん相変わらず焙煎ファクトリーは活気が良いね。うちの焙煎部門も負けないわ」

「なに明君のおかけで僕たち焙煎ファクトリーのメンバーは伸び伸びと日々焙煎技術向上にいそしめているよ。千波ちゃんのところの焙煎部門は最近新しい焙煎機導入したのだってね」

「えぇ、昨日導入した新焙煎機で早速試し焙煎してみましたけどすごく良かったですよ。焙煎時間が短くなって、豆のロスも少なくて良い感じでした」

「へぇ~それはすごいな。今度京都に行った際に見させてもらおうかな?」

「ぜひ加藤さんに見に行ってもらいたいです。僕も一緒に行けそうだったら行きますよ」

「分かりました。お待ちしていますよ」

3人で焙煎士のスタッフの作業を見ながら話をした。

ここで焙煎ファクトリーの一日の流れを紹介する。朝9時出勤、まずは、全員で朝のミーティングを行う。

明日以降KOBEファクトリーで必要となる豆の量の確認と、オンライン販売部門での注文を受けている商品の確認を行う。さらに焙煎中の安全確認を行う。

その後各部署に分かれて業務に入る。焙煎ファクトリーではKOUBEファクトリー及び近隣の小規模コーヒー店向けの豆担当とオンライン販売部門担当に分かれている。

「よし皆引き続き焙煎作業続けてくれ!」

「はい!!」

焙煎の手順は、まずコーヒー専門商社を経由して届いた生豆の入った麻袋を開ける。

そのあとに焙煎する分量を量りで測りながら取り出す。その後水分値を計測する機器で水分が一定の範囲内であるか計測を行う。

水分が多いとカビの原因となり、水分が少ないと味の劣化や豆の割れにつながる。

焙煎機を起動させて、余熱をする。

その後生豆を焙煎機に投入をして焙煎士が、産地・・品種・農園・精製方法・その日の天候・気温・湿度などを加味しながら狙った焙煎度のコーヒーに焙煎をしていく。その際にはそれぞれの焙煎所(コーヒー店)の味もしっかり出しながら焙煎する。

焙煎されたコーヒーは、そのまま焙煎機から取り出し冷却機で一気に冷却する。

焙煎されたコーヒーは、最低2~3日おかれてから商品として販売・KOUBEファクトリーでコーヒーとして提供される。KOBEファクトリーとオンラインストアーで取り扱うコーヒーは、焙煎ファクトリーで焙煎したものを直売している。

焙煎ファクトリーはコーヒーファクトリーKOBEにとても重要な部門でもある。

「うん、煎り上がりは少し遅めにしたほうがいいな。浅煎りは攻めすぎると、青臭さが出てきてしまう」

「このゲイシャ種についてはそうですね」

僕は加藤さんと、最近仕入れたコーヒー豆のサンプル焙煎の状態を見て話し合っていた。

ここでコーヒー豆の種類について説明する。

コーヒー豆には大きく、アラビカ種とロブスタ種に分かれる。ロブスター種は低地・高温多湿な環境でも栽培できて、病気や害虫に強いのが特徴です。その分価格が安くインスタントコーヒーや缶コーヒーなどに使われる。またブレンドコーヒーにもアクセントとして使われる。

そしてアラビカ種は、標高の高い高地で作られる。栽培品種は200種以上ある。ロブスタ種と違い品質はとても高く、品種によっては高級豆として、取引されている。ロブスタ種と違い病気などにはそこまで強くないとう特徴がある。

今回加藤さんと僕がサンプル焙煎したゲイシャ種は、今世界中のロースターの争奪戦となっている注目品種(アラビカ種の一種)である。

「もう少し投入温度の調節と、火力の調節をしないといけないな」

「加藤さん、煎り上げタイミングは一ハゼの中盤から後半にしますか?」

「そうだな。明君、それがいいと思うよ。酸味が尖りすぎるのはよくないからね」

「今後生豆の状態で一定期間熟成させての焙煎も挑戦したいから再度焙煎レシピ再考しないとだめですね」

「うん、それはそれで楽しみだ。ほかのメンバーにもカッピングしてもらおう」

「そうですね」

 焙煎機の前では焙煎士のスタッフが、焙煎機のそばでコーヒーの状態を確かめながら、豆の状態を見てコーヒーを仕上げている。火力・排気を微調整することでコーヒーの味わいが変化するコーヒーは、焙煎によってその豆の本来のポテンシャルを引き出しながら味を作れるかが重要である。

「おっうまくいっているね。良しもうそろそろ煎り上がりだね」

加藤さんはそれぞれの焙煎機の状態を確認して、焙煎スタッフの方をさすった。これがいつもの光景である。

僕は、加藤さんに会釈してサンプル焙煎したゲイシャ種を持ってKOBEファクトリーに戻った。

「明君、まもなく開店するね。あぁそれサンプル焙煎したゲイシャね」

「そうだよ。七海あとで試飲してくれる。千波さんは今からお願いします」

「明君分かった」「明イイよ。まだ時間あるしね」

KOBEファクトリーの1階・2階が開店した。いつも通り地域の常連の方や若者・全国のコーヒー愛好家やキャンパー達が来店する。

「千波さん、是非カッピングした感想を聞かせてください」

「えぇもちろんいいわよ」

カッピングのやり方はカッピング用にコーヒー豆を電動グラインダーで挽いて、カッピング用グラスに入れる。そしてその上からお湯(92℃)を注いで4分間そのまま置いた後、カッピングスプーンで3回ほど撹拌する。その後表面のコーヒー灰汁を取り除く、その後そのスプーンでコーヒーをすくって香味を確かめる。

ワインにおけるテースティングに当たる手法である。ただしスペシャリティーコーヒー鑑定では、国際機関の定める手法・ルールで行う。

「千波さんどうですか?」

千波さんは手慣れた手つきでかっぴんスプーンでコーヒーをすくい香や味を真剣な表情で確かめる。そしてひと口飲み込んだ。

「うーん、この酸味はやっぱりすごいね」

「そうですよね。僕も最初に飲んだ時衝撃を受けました」

「今ゲイシャ種は世界的に争奪戦だから」

千波さんが言うとおり、ゲイシャ種という品種は2004年にパナマの農園で偶然見つかりそのコーヒーが品評会でその年の最高額の評価を受けたことから注目を浴びるようになった。年々需要も高まっているが、取引価格が高騰しており注目されている。現在は中南米だけでなくアフリカ(エチオピアなど)・アジアでも栽培されている。

ゲイシャ種の特長としては、まず香りが良い。芳ばしさと爽やかな柑橘系の果実のような香味が感じられる。次に味わいが深い。濃厚かつフルーティでコクがある。

そして苦みが弱い。そのため初心者でも飲みやすいと言われている。しかし、栽培が難しいことや一つの樹木からとれる量が他のアラビカ種の半分であり、生産農家が少なく生産量が少ないことが希少性を高めている。

「確かにそうだよね。最近は、日本でも人気が沸騰しているからね」

「千波さんも1年前から仕入れていますよね。千波さんところのゲイシャは本当にアートです」

「ありがとう。でも、明君・加藤さんのサンプル焙煎のゲイシャも凄いよ。明君らしい」

「あはは、そうですか?でも、千波さんに褒められると嬉しいですね。照れますけど……」

「うん!だって明君・加藤さんの焙煎は凄いよ。私なんて到底できないもの!」

「いえ、そんなことないですよ!僕たちもまだ修行中の身なので……ただ、今月試飲会しますので、良かったら参加してください」

「もちろんだよ。参加させていただきます。楽しみにしているね」

「はい、ぜひお願いします」

「確か今月神戸でコーヒー協会のイベントあったわね。その時に合わせて試飲会するの?」

「はい、そうです。その時には小林コーヒーの小林智之さん・山本コーヒーの山本哲平さんにも来てもらう予定です」

「おぉ!小林さん・山本さん来るのね」

小林智之とは、コーヒー協会現会長であり、スペシャリティーコーヒーを日本に広めた立役者の一人である。

「そうなのです。その時に、カッピングしてもらって意見をいただく予定です」

そして小林智之は、スペシャリティーコーヒーの普及のために新たな取り組みを始めている。それは、コーヒー業界全体を巻き込んだ持続可能なコーヒー業界の実現を目指すための活動だ。

僕と千波さんがゲイシャについて話し込んでいるとき遠く東京青山にある小林コーヒー本店カウンターでは、創業者兼社長の小林さんが山本コーヒー2代目オーナー山本哲平さんと話をしていた。

小林智之さんは、日本のコーヒー市場の現状に危機感を持っている。

「山本君日本で一番飲まれているコーヒーは何だね?」

「えっと、インスタントコーヒー・缶コーヒーですね」

「その通りだな。つまり、この国では毎日コーヒーを飲む人が多い。しかしその一方一杯のコーヒーがどのように作れるのか知らない人たちが多い。もっとコーヒーついて関心を持ってもらえるようにしないといけないと思う」

「確かにそうかもしれませんね。何気なくコーヒーを飲んでいる人が大多数ですからね。他の飲料・食品業界でも同じ問題を抱えているところもあります」

「そうだろうな。そういった先例も踏まえて神戸のイベントでは、課題解決のスタートとしたいと思っている。山本君たち理事の皆さんにも協力いただき進めていきたいと思う」

「小林さん是非成功させましょう。当然明君や千波ちゃんを始め若いメンバーが中心となって進めてくのですよね?」

「そうだ。山本君、このイベントを成功させるためには、若い人たちが活躍できる場を作ることが必要だ。そのためにはまず我々が手本となるように頑張らないといけないよ」

「はい、わかりました!」

「あと、イベント会場の件だが、とても良い会場だね」

「はい、ありがとうございます! 実は、ここの会場の会社とは、知り合いなのです。だから、会社に頼んでみたのですよ。快く引き受けてくれてくれました」

「それは嬉しい限りだね。カッピングの準備できたことだし、香・味をたしかめよう。山本君の意見も聞きたい」

「では、確かめさせてもらいます!」

そういって小林コーヒーで来月出す予定のコーヒーのカッピングを二人でするのだった。

そのころ僕たちコーヒーファクトリーKOUBE・KOUBEファクトリーは、いつにも増してお客さんの数が多い。今日は2階でキャンプをテーマにしたミニイベントが開かれる予定であった。毎月週末にキャンプ・登山・自転車・その他アウトドア関連のイベントが開かれる。

今日は僕の父・成沢直樹によるイベントである。本日は、キャンプ中級者向けのイベントとなっている。

父直樹はこの僕が設立したコーヒーファクトリーKOUBEの前身のコーヒー店を20年母と一緒に二人で営んでいた。今は当時からの趣味であるキャンプの魅力を高めるための活動をプロキャンパーとして行っている。

「明、最近キャンプに目覚めたという人が増えてきているらしいよ。特に女性の間で人気が出始めているみたいだ。それで、父さんもそのニーズに応えるために、これからもっと魅力を伝えていこうと思う」

父はそう言うと、スマホを取り出して、とあるサイトを見せてくれた。そこには、「女性に大人気!おしゃれなテントがたくさん!」と大きく書かれた見出しがあった。

僕はその記事を読んでみた。どうやら、最近流行りのグランピングというジャンルのようだ。ホテルや旅館などに宿泊するのではなく、高級リゾート施設に滞在するような感覚でキャンプを楽しむことができるらしい。このブームの火付け役となったのは、海外セレブがSNSで紹介したのがきっかけであるらしく、最近では国内の有名芸能人も利用しており、テレビや雑誌などでも紹介されている。特に、若い女性を中心に人気を博している。

また、近年増えてきたソロキャンプにも適しているとのことだ。

「グランピングいろんなところできているからね。これからどんどん伸びていくと思うね」

「へぇー、そんなに人気があるのですか?」

僕がそういうと父さんはうなずいて言った。

「そうだよ、今日のイベントでもグランピングの話をする予定だよ。それはそうとして2階の準備は大丈夫か?」

「誠さん(成宮誠)と菜々緒が準備してくれているから大丈夫」

「それは安心した。じゃ二階に上がるよ。イベントはこっちでやるから明は自分の仕事に集中してな。お父さん明のこと自慢の息子と思っているよ」

「ありがとう。父さんの期待に応えられるように頑張るよ」

「おう!頑張ってくれ!」

父さんは笑顔で親指を立てて見せた。

その後イベント参加者がお店に入ってきて、30分後にイベントが開始された。イベントはいつも通り有意義な時間となった。

そのイベントが行われている同時刻隣の焙煎ファクトリーでは、熱気に包まれる中焙煎スタッフの焙煎作業が進んでいた。焙煎ファクトリーには、焙煎機が3台ありそれぞれ担当スタッフが分かれていて、一人一台の機械を一人で操作していた。

焙煎機には大きく直火式・半熱風式・熱風式の3種類がある。そのうち僕のところには直火式1台・半熱風式2台導入している。焙煎機は内部にモーターで回転するドラムが入っており、そこに生豆を入れて下から熱源で焙煎をする。熱源はガス(都市ガス・プロパン)である。

内部の熱は排気ダンバーを介して排気ダクト伝って外に排出される。このダンパーの開閉の微調整によって排気量が変わり。コーヒーの味にも影響を与える。

「うん和也君イイ感じの煎り上がりだね。君もだいぶ上達してきたね。加藤さんの指導の賜物だね。これからも毎日失敗と成長を繰り返しながらより良い焙煎を目指してね」

「明さんありがとうございます。まだまだ未熟者ですが、精進します!」

和也君はそう言って頭を下げた。

「よし!煎り上がりご冷却できた焙煎豆は機械に入れてハンドピックしてくれその後再度手作業でハンドピックだな」

 加藤さんがそうゆうと、スタッフは手慣れて手つきでハンドピックを始める。

ハンドピックは欠点豆を見つけて取り除く作業である。焙煎前・焙煎後に行われる。僕たちのところは人工知能を搭載した機械を試験的導入しておりそれで代替の欠点豆をとりのぞいて人の手で再度行う。

「明君この機械かなり欠点豆を取り除いてくれているが、まだ手作業で取り除いた欠点豆も多い。さらなる改善を要望しないといけない」

「そのようですね。データと実際の欠点豆の量を見て感じますね。共同開発会社さんに来週直接伝えますよ」

いま僕たちはベンチャー企業と共同で、焙煎士・バリスタの作業の部分的自動化を進めている。僕たちコーヒーのプロが一から監修に関わり開発することで・本質的な業務効率の改善を目指している。そして人間にしかできない作業に集中できる環境をつくことが目標である。

「質と効率をいかに両立できるかが鍵です。私達プロのデータをしっかり人工知能に学習させて、人間みたいな人工知能を目指したいですね」

「ああ、そうだな」

人工知能システムには大量のデータが必要であり。判断力や勘といったものがまだまだ弱い。だから、僕たちプロのデータを学習させる必要がある。

焙煎機につても人工知能搭載モデルの開発も、ほかのロースターさんを巻き込んで始めている。焙煎機の場合は火力・ドラム内&排気温度・ダンパーの調節だけでなく焙煎時の外気温・湿度なども加味しないといけない。それを人工知能で実現させるのはそう簡単でない。

「焙煎機の場合は時間がかかりますが、まずはデータをしっかり収集して、必要なデータを人工知能に学習させないといけませんね」

「ああ、そうだな。ただ人工知能搭載焙煎機が登場すると、自分たちの仕事がなくなると嘆く人が必ず出てくる。でも目の前の最先端技術を脅威と思って否定するのでなく、それを使いこなすことが、一流の焙煎士として生き残る道だと思う」

「はい、その通りです。またこれから自家焙煎コーヒー店を開きたいと思っているバリスタにとって、最低限の焙煎知識を知っていれば簡単に自分たちのコーヒーを提供できるよういなりますからね」

人工知能搭載焙煎機は、人間がやっていた細かい調整が不要になる。あらかじめ焙煎機にプリセットされているメニューを選んだらあとは自動的に焙煎してくれるので、誰でも同じ味に仕上がる。

そのプリセットには僕たちプロのデータを学習させた上に、世界中の栽培品種や精製方法などを組み合わせて制作する予定である。

「さぁそれもしっかり実現できるように進めながら、喫緊としては、来月のゲイシャ種のコーヒーの味を完成させていこう」

「そうですね。今回のゲイシャ種は微調整をすれば最高の出来になると思います」

「皆もうそろそろで夕方だ。ここからピッチを上げていこう」

加藤さんが皆笑顔で鼓舞をした。焙煎ファクトリーはKOUBEファクトリーと同じく毎週水曜日が定休日である。そして個人で水曜日を除く日で休みを取ることになっている。

「皆お疲れ様です。明日もよろしくお願いします。休みの方はゆっくり体を休めてください」

18時頃になり僕は、焙煎ファクトリーとオンライン販売部門・バックオフィス部門のスタッフに夕方の挨拶をした。あぁ千波さんのことを忘れていたが、彼女はサンプル焙煎のカッピングをしてくれた後、特別にサーブを手伝ってくれた。その後予定していた別件でお店を出てその仕事を済まして翌日の仕事先の大阪に向かった。

翌日も昨日同様にゲイシャ種のサンプル焙煎を実施して味を確かめた。昨日よりさらに良い焙煎になっていた。

焙煎ファクトリーとオンライン販売部門・バックオフィス部門のスタッフに朝の挨拶をした。

「おはようございます。今日も焙煎の調子がいいですね!」

加藤さんのテンションが高い。

焙煎ファクトリーとオンライン販売部門・バックオフィス部門のスタッフにも挨拶をした。

「おはようございます。焙煎は順調ですよ! あともう少しで完成すると思いますので、引き続きよろしく」

コーヒーの味見をした。うん。いい感じに仕上がっていると思う。

そこから数日たって来月から提供するゲイシャ種のコーヒー試飲会の朝を迎えた。

「加藤さん毎度のことですが、なんか緊張しますね」

そして今日は、前日神戸入りしていた小林智之さん・山本哲平さんが来店する。

「明君・加藤君・七海ちゃんおはよう」

「皆さんおはようございます」

「小林さん・山本さん、おはようございます。前日入りされていたのですね。昨日は忙しくて挨拶できなくてすみません」

「気にしていないから、君も忙しいそうだから仕方ないよ」

「もう少したら2階で試飲会しますのでお待ちください」

今日は小林さん・山本さんだけでなく株式会社Coffee Planet代表の千波さん・副代表(焙煎担当)の小宮健一君(僕と同い年)と千波さんのご両親・僕の家族や他のロースターさんが参加してくれた。

「みなさん、おはようございます! 本日は新作コーヒー試飲会ご参加ありがとうございます」

加藤さんが皆の前で話し始めた。

「ようやく皆さんにお見せできるゲイシャ種のコーヒーが出来ました。今日はカッピングでなく、実際お客様に提供するのと同じ状態で試飲してもらいます」

そして僕が事前に指示をしたレシピ通りにスタッフがドリップをする。ボルドー赤ワイン用グラスに実際と同じ量のドリップしたコーヒーが注がれる。レシピはゲイシャ種の香・味を嗜めるように七海と考案した。

「皆さん改めましておはようございます。お忙しい中ありがとうございます。加藤より簡単に説明がありましたコーヒーの抽出が終わりました。率直な意見を伺えればと思います。それではお渡ししていきます。その後皆さんのところを回りますので感想をお願いします」

加藤さん・七海・僕は各テーブに、生豆と後焙煎の豆をそれぞれいたトレイを置いて説明をした。

「おぉー明今回のゲイシャの香ホントに柑橘系のグレープフルーツの香がするな。口に含んだファーストインプレッションも酸が程よく際立っておりのどの奥に進むにつれて甘みが広がってくるな。甘みはブルベリーを思わせるね」

「健一君ありがとう」

「明君、このゲイシャ種は、味だけでなく香りにも優れているよね。今までとは全然違うよ。これは、絶対売れると思う。エチオピアの農園だよね?ゲイシャとは本当に不思議だなー」

「健一君そうだよ。ここの農園はいつか入れたいと思っていたんだ。最近注目が高まってきているからね」

「加藤君流石だ。明君はじめ君たちのコーヒーにはいつも驚かされる。型にはまらない香・味の引き出し方はたいしたものだよ」

「小林さんありがとうございます。こだわりの強いうちの明君と私の思いがここまでのコーヒーになっていますからね」

「確かに小林さんのいう通りですね。明君・加藤君には学ぶことだらけですよ。それにこういった新しい在り方は大歓迎ですね」

加藤さんが、小林さん・山本さんに今回のコーヒーの感想を聞いていた。私は、小宮君が両親と話をしている間に、カウンター内の片づけやら掃除をしていた。

そして、両親から返ってきた答えは

「こんなコーヒーは初めてだ」だった。

両親が言うには、前身のコーヒー店を営んできたときからいろんなコーヒーの香・味を見てきたが、今回はそれらとは違うコーヒーだそうだ。

試飲会でのみんなの意見は上々であった。

「お疲れ様でした。今日はありがとうございました。また引き続き株式会社コーヒーファクトリーKOBEに熱いご支援とご指導をよろしくお願いします。これにて試飲会は終了いたします」

僕が挨拶をした後皆が拍手をしてくれた。その際加藤さんと目を合わせこれで来月から出せると確信した。

「加藤さん来月からゲイシャ種コーヒー、メニューとして出せますね」

「ああ、楽しみだよ」

「私も飲みたいです」

「じゃあ、早速明日から準備しようか」

こうして、無事に試飲会を終えた。

*

***

数日後月は変わり、試飲会で好評であったゲイシャ種コーヒーがメニューとして加わった。もちろん世界的に大変希少な栽培品種であるため数が少ない。そのため価格は一杯2000円以上の設定であるが、その噂を聞きつけたコーヒー愛好家に評判となる。毎日数量限定として提供している。また同時進行で開発していたゲイシャ種コーヒー豆を使用したオリジナルブレンドコーヒーのオンラインでの受注販売も開始した。こちらも価格は高いがオーダーが殺到する。

「加藤さん、お疲れ様でした。試行錯誤しただけありますね。お客さんからもここで出るゲイシャ種のコーヒーの中で過去一などの評価いただいていますよ」

「明君それはよかった。今日いまから今日最後の、オンライン販売分の焙煎をするところだよ」

「明さん・加藤さん、そのオリジナルブレンド完売しました」

 オンライン販売部門統括の美保子が焙煎ファクトリーに完売したことを直接報告してくれた。

「え? もう?」

「はい。既に注文が50件入っています」

「すごいじゃないですか、明さん」

「ああ、これもすべて、焙煎スタッフとオンライン販売部門のスタッフのおかげですよ」

「いえ、明さんの人徳ですよ」

「おーいぼさっとするなよ。最後の焙煎始めるぞ。それに明君にとってまだまだ通過点だ。そうだろ明君」

「はい。まだまだ僕の目指すコーヒーを見つける旅は続きます。皆とまだ見ぬ世界を見たいと思います。これからもよろしくお願いします」

僕は丁寧にその場にいたスタッフに挨拶をした。スタッフの皆も僕の方向いて、返事を返してくれた。

このように僕たちは、毎月新しいメニュー開発を続けており。とりわけ注目度の高い栽培品種のコーヒーについては、試飲会を開くなどしている。

「美保子バリスタ大会に向けてのトレーニングも佳境だね。いよいよ来月日本大会だね」

「明さんありがとうございます。トレーニングは順調です。今年こそ世界大会に日本代表としてでます」

「うん。がんばってね」

「ところで、明さんは、もう競技は出ないのですか?」

「え? 僕が?僕はもう世界バリスタチャンピョンだから。今は自分の手で新しいチャンピョンを育てながらまだ見ぬ世界を見ることが目標だからね」

「でも明さんのコーヒーの技は本当に素晴らしいですよ。私は、バリスタで世界一になったら結婚しようと決めていました。私の夢が叶いました。明さん、私と結婚してください。一生大切にしますから。お願いします」

「・・・・・・」

「明さん冗談ですよ。結婚した相手は他いますから。後ここだけの話ですが、今付き合っている彼氏がいるのです。このことは内緒ですよ」

「へぇー、そうなんだ! 内緒にしておくよ」

そう笑いながら会話をして美保子を励ました。こうして一日は過ぎていった。来月美保子にとって大きな挑戦が始まることに、期待をしながら焙煎ファクトリーの窓から見えた夕空を見上げていた。


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