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ピーナッツ

作者:

私は、柿の種に入っているピーナッツが嫌いな子供だった。




大酒飲みの父親一人に育てられた俺に与えられたおやつはいつも柿の種だった。

ポテトチップスやチョコレートなんて、大人になるまで食べたこともなかった。

いつものように柿の種を食べていると、父親が突然『新しい母親』を連れてきた。

その『新しい母親』が連れてきたのがアヤだった。

俺より一回りほど幼い少女。

別室で大人たちが仲良くしている笑い声がする中、追いやられるようにされた年の離れた連れ子2人が盛り上がるわけもなくただ柿の種の食べる音だけが部屋に響く。


「お兄ちゃん、ピーナッツ嫌いなの?」


皿の上に残されたピーナッツを見て、恐る恐る話しかけてくる。

知らない部屋で、知らない人と2人きりは気まずいだろうに見上げたコミュニケーション能力だ。


「……ああ。食べるか?」


「うん!」


ピーナッツを受け取ると「ママ~!お兄ちゃんにピーナッツ貰った~!」と母親の元へ駆けていく。

それからというもの、ウチへ来るたびに『新しい母親』が持たせたのか、アヤは手土産に柿の種を持ってくるようになった。

俺が柿の種を食べ、アヤがピーナッツを食べながら他愛もない話をするのが、いつしか日常となりつつあった。




そんな不思議な関係が続いていたある日のことだった。

部活だったか、補習だったか。俺の帰りが遅くなった。

アパートの古びた鉄階段の下で小さな人影が立ち上がったのが見えた。

その人影が俺に向かって駆けてくる。


「お兄ちゃん!アヤね!お小遣い貯めてね!」


大きな声でそんな風なことを言っていたと思う。

その声は、けたたましいクラクションと衝突音で消えてなくなった。

抱きかかえていたのであろう、柿の種のお徳用パックが道路に散らばっていた。




「いらないならそのピーナッツくれ」


「お前ホント変わってるよなぁ。柿の種のピーナッツが好きなんて」


酔っ払った友人がピーナッツをよこしながら私に言う。

それを小さな皿に乗せると「ちょっとトイレ」と言いながら席を立つ。

友人に隠しているわけではないが、こっそりと別室のアヤの前に供える。

私は、柿の種に入っているピーナッツが嫌いな大人になった。

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