シン・エクス・デウス・マキナ
ある日、東京の空に一つの神が現れた。それは富士山よりもでかく、突然の非日常に世界の終わりだと人々はパニックになってしまった。
逃げようと歩道から慌てて飛び出した人が車にひかれ、ハンドルの制御を失った車が歩道に突っ込み多くの人をひき殺した。
橋の上を逃げまどう人々は逆方向から来る人を押しのけて進むために、転んでしまって一斉に体勢を崩し、多くの人が圧死した。
官邸は突如現れた制空権を侵す地球外生命体に対して様々な会議を開いていたので対処が遅れた。こうして東京は一瞬で混沌とした世界と化した。
その時、空中に浮かんでいた神が人々に向かって光を出した。攻撃されたと思い、パニックになる人々。しかし、人々が体験したのはパニックになる前の日常に戻ったことだった。
神はさらに光を人々に浴びせる。
「….っ!えっ?宝くじが当たってる!!」
「うおっ!ライブのチケットが当たった!倍率四十倍なのに!」
「就職の内定が決まった!」
次々と歓声が上がる。
神は特別な力で人々の悩み事、困り事を次々と解決していった。神の名はエウス・デクス・マキナ。アメリカから秘密裏に来日していた学者がそう言った。
エウス・デクス・マキナは全世界に向かって六日間、絶えず光を放ち続けた。世界中の貧困、戦争、疫病などのあらゆる不幸や問題そして死さえも解決・克服し人々は福音を与える神に感謝し崇めた。
そして東京の空に現れてから七日目、エウス・デクス・マキナは光を放出するのを止めた。そしてゆっくりと手を前に出し、腕を横に広げながら手のひらを叩いたーー
大きな音が響き、人々は一人残らず世界から消えた。
「ある学者の手記」
これを読んでいる人間はあの神の光を浴びなかった者、そうだな….考えられるのは宇宙飛行士くらいか。エウス・デクス・マキナと私が名付けたのはあれがまさにギリシャ神話に登場する神と酷似していたからだ。あれはカオスと化した物語に突如として現れ、問題を全て解決し、“物語“を終わらせてしまう”。
原因はおそらく東京の一部に蔓延していた黒煙が原因だろう。あの黒煙にはこの世のネガティブが詰め込まれていた。黒煙が世界の均衡を崩したせいであれを呼んだのだろう。あれを止める手段は今の我々にはない。それでも一つ、幸運なことがあるとするならば私自身が物語が終わることを知っていることだ。
恐らく明日、人々はなんの前触れもなく自分の人生ー物語ーが終わるに違いない。その前に私は家族と最後の晩餐ができる。
物語が終わっても世界が終わるわけではない。我々が居なくとも世界はそこにあり続けるし、物語は人の手によって作られ、我々はまたもう一度その中で生き続けるからだ。
そろそろディナーが出てくる。
では、また別の物語で会えることを楽しみにしている。