第737話 休憩
俺には時間遡行という切り札がある。
もういちど4時間前に戻って、やり直せばいい。
そこで病因を見つけ出し邪狼狗を倒せば、今度こそ武上を救うことができる。
すべて上手くいくはずなんだ、が、現時点ではその原因が分かっていない。それらしいものの見当もついていない。
今推測できるのは、武上の死が今朝からの異変に関係しているだろうということだけ。
「駄目だな」
まったく足りてない。
これじゃあ、戻っても何をすべきか分からない。
時間遡行で稼いだ4時間を無為に過ごしてしまう可能性すらある。
「駄目って何? まさか、里村くん悪化したの?」
ああ、口に出てたのか?
「違う、里村は大丈夫だ」
「それじゃあ?」
「……ちょっと考えがまとまらなくてな。とにかく、幸奈が気にするようなことじゃない」
「ほんと?」
「ああ」
「ならいいけど、けど、功己もちょっと休んだ方がいいよ。さっきからずっと治療してるんだし、魔……あれなんかも使ってるだろうし」
確かに、遡行前からずっと動き続けてはいる。
「里村くんはわたしが見てるからさ、水分でもとって少し休んでよ。そうすれば、いい考えも浮かぶかもだしね」
水分補給も長時間していない。
ここは幸奈の言う通り。
「……頼めるか」
「もちろん」
いったん幸奈に里村を預け。
古野白さんの様子を見つつ、ロビー奥へと歩を進め。
「すみません、水かお茶をいただけますか?」
今回の旅でお世話になっている数人の内の1人、能力開発研究所の関係者であろう美藤さんに声をかける。
「承知いたしました。すぐお持ちしますので少々お待ちください」
慇懃な彼女の対応に変化はない。
彼女だけでなく他の関係者も皆そうだ。
さすがに武上の惨状を見た時だけは動揺していたものの、数分も経てば平静に戻っているのだから大したものだと思う。外見はホテルマンにしか見えないのに、やっぱり中身はまったくの別物なんだと、今さらながら実感してしまう。
そんな彼女、彼らたち異能関係の専門家でも武上と里村の症状についての正解は持てていない。病か毒かの判別もできていない。もちろん、東京の本部で詳細な検査をすれば話は別なんだろうが……。
この厄介な問題を俺はたったの4時間で解決しなければならないのか?
なら、すぐにでも過去に戻るべき?
それとも、もう少しここで調べた方がいい?
あるいは、あの窪地に戻って……ん?
ドスッ!
背中に衝撃?
何が?
「……っ!?」
胸から銀の刃!?
銀刃が突き出てる!!!
痛みはない。
何も感じない。
けど、力が抜けて……。





