第733話 遡行
ガンッ!
ドガッ!
「ぐぅ%&!」
より痛みを感じる打撃を連続で。
ドンッ!
ガッ!
ダンッ!
叩き込んでやる。
「*@◇……」
なっ?
もう昏倒?
息も絶え絶え?
こいつ、弱すぎる。
高ステータス持ちとは思えないほどの呆気なさだ。
「……」
いや、昏倒どころじゃない。
既に瀕死状態じゃないか。
いったい、どうなってる?
ステータスと実力に差がありすぎるぞ。
ここまでのやつ、今まで見たこともない。
何か力を出せない理由でもあるのか?
けど……。
今の状況でこれは悪いことじゃないな。
なら、あっちだ。
「幸奈、古野白さん、里村!」
地に伏したままの3人の様子は?
「く、るし……」
「息が……」
「こう、き……」
顔から色が消えかけている。
呼吸もギリギリの状態。
「っ!」
どうする?
どうすればいい?
ここで俺は……治療を?
治療すべきなのか?
けど、魔法薬も治癒魔法もこっちの世界のものじゃない。
使用すれば露見の危険へとつながってしまう。
だったら、放置?
苦しむみんなをこのままにして。
ひとり時間遡行を使って離れると?
「……」
この後はどうせやり直すことになる。
だから、放置でいい。
冷静になればいい。
だから、このまま遡行を。
「うぅ……」
「ぅぅ……」
「はあ、はあ……」
なんて、思えるわけないだろ。
そんなこと不可能だ。
ここにいる3人を、この時間を生きる3人を見捨てるなんて。
できるわけないんだよ。
だったら……。
決断するしかない。
俺にとって最悪の未来も覚悟して。
腹をくくって。
治癒魔法だ。
よし。
3人の呼吸が安定してきた。
咳もほとんどない。
「「「……」」」
まだ若干朦朧としているが、血色も戻ってる。
これなら大丈夫、症状もすぐに消えるはず。
「「「……」」」
しかし、この邪狼狗の鱗粉。
俺にはまったく効果のないこの粉に3人の命を奪うほどの毒性が備わっているのか?
いや、とてもそうは思えない。
一過性の咳症状や呼吸系に軽いダメージを与える程度としか考えられない。
そうじゃなきゃ、俺の治癒魔法でこうも簡単に回復するわけがないのだから。
ただ、あれが弱毒だとすると、武上の直接的な死因は鱗粉じゃなくなってしまう。
なら、他のスキル的なもの?
あるいは鱗粉と何かの合わせ技?
駄目だ。
分からない。
そもそも、俺はこの情報が欲しかったんだから分かるわけもない。
「……」
その情報を持っている邪狼狗は向こうに転がったまま。
身動きすることもできない瀕死の様相。
古野白さん1人でも軽く対処できる状態だ。
まあ……。
瀕死の邪狼狗を回復させれば情報入手も可能かもしれないが。
だからといって、あいつを助けるのか?
この手で、武上の仇を?
「……」
さすがに無理だ。
やりたくない。
それに、治癒魔法をこれ以上見せるのも避けるべき。
だったら。
情報がもう手に入らないのなら。
時間遡行を先延ばしする必要はない、ってことか。
「……ありが、とう……助かったわ」
古野白さん、もう?
「話せるんですね?」
「え、え……何とか」
「ボクは、ちょ……」
「わた、しも」
里村と幸奈はあと一息といったところ。
「でも……どう、やって?」
「……」
「何を、したの?」
さっきも考えた通り、現時点の俺に時間遡行を躊躇う理由はない。
その上、古野白さんのこの疑念。
「こう、き……」
事情を知る幸奈も不安げな表情。
「……」
正直、感情的にはまだ若干後ろ髪を引かれている。
それでも、ここで留まると露見の恐れが高まるだけ。
やはり、古野白さんが平常に戻る前に消えるべきだ。
「ねえ、有馬くん?」
ただし、ひとことだけ。
「……気を注入したんですよ。それが上手くいったようですね」
一応嘘じゃない。
治癒魔法のあと、僅かながら気も使ったからな。
「気?」
「ええ、そうです」
まっ、信じようが信じまいが、どちらでもいい。
このひとことで露見が少しでも遠ざかってくれたら、それで。
ということで、行こうか。
2刻(4時間)前に。
いつも通りの感覚が全身を通り抜け、色を取り戻した世界。
ここは……宿の中、客室?
「有馬くん、そろそろ朝食の時間だよ」
ドアの外から聞こえるのは里村の声。
そうか。
今は朝食前の準備中だ。
ということは、無事に辿り着けたんだな。
「……10分ほど待ってくれ」
今さらではあるが、問題なく時間遡行することができて良かった。
実は心配だったんだ。
過去位相世界では時間遡行に成功したけれど、この世界の流れの中で遡行するのは初めてだったから。
だけど、上手くいった。
これで次に進める。
「うーん、できるだけ早くしてね」
「ああ」
さて、時間遡行した今は朝食前。
ということは、当然あの惨劇まで十分な余裕がある。
備える時間も策を練る時間もたっぷりある。
が、まずは確認しなきゃならない。
露見だ。
点滅や確定がどうなってるか?
治癒魔法の影響があるのか?
遡行前は見るのを避けていた現実を、今ここで。





