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第732話 鱗粉


 どうしても。

 どうしても知らなきゃならない!


 この感情を吐き出す相手を、武上の仇を。


「ふふ、なるほど」


 ただ、俺には時間遡行がある。

 4時間前に戻ることができる。

 また武上に会うことができる。


「そういうことなら、教えてやらなくもないが」


 だから、仇を討つのは今じゃない。

 時間遡行を使うのもまだだ。


「ふっ、おまえには必要ないことだぞ」


 すべては次のため。

 感情を抑えて。

 情報を集め、備えを万全にして。

 すべてはそれからだ。


「仇など討てないのだからな」


 まずは。


「御託を並べてないで答えろ。おまえなのか異形なのか? どっちなんだ?」


 今の風貌は黒髪の空間異能者、おそらくは武上を連れ去った時もそう。

 だが、さっきまでは銀髪紅眼の邪狼狗だった。

 なら、武上を害したのは?


「そんなに知りたいか?」


 黒髪も銀髪もつまるところは同一と考えるべき。

 そんなことは分かってる。

 けどな、直接手を下した相手を討ちとることに意味があるんだよ。


「ふふ」


 もう何度も耳にした癇に障る嘲笑。


「ふふ、ははは……」


 ただ、今回は少し様子が違う。

 新月のように口を歪め嗤う空間異能者の顔つきが変わっていく。

 髪色も銀髪に。


「ふふ……あの蛮夫を屠ったのはもちろん」


 異形邪狼狗。


「おまえか!」


「その通り」


 これでようやく標的が決まった。

 とはいえ、二択の正解が分かっただけ。

 ただそれだけのこと、なのに抑えきれない。

 赤とも黒ともつかぬ激情が今にもこぼれそうになる。


「っ!」


 両手の爪が手のひらに食い込んでいく。

 奥歯がきしみ出す。


 けど、それでも。

 まだだ。

 まだ早い。


「……武上に外傷はない。スキルを使ったんだな?」


「スキル?」


「どんなスキルだ? 見せてみろ」


「くっ、くく……」


「どうした? 俺には使えないのか?」


「くく……馬鹿らしいことを言ってくれる」


「なら、今すぐ使えばいい」


「蛮夫に続くのが痴れ者とはな。さすがに笑えぬぞ。が、いいだろう」


 そう言って右手のひらを上に向け、天に掲げる邪狼狗。


 何だ?

 どんなスキルを使ってくる?


「冥途の土産に受け取るがいい」


 手のひらから溢れ出るあれは……粉?

 白い粉だ。

 なぜそんなものが?

 とりあえず、鑑定を。


「……」


 鑑定結果はただ一言。

 鱗粉という一言だけ。

 毒性の有無どころか、何ひとつ説明はない。

 やはり邪狼狗の鑑定は困難だってことか?


 しかし……。


 どうして鱗粉なんだ?

 あいつは蛾でも蝶でもない。

 獣人タイプの異形なのに?


 っと、考える前にまずは対処を。


「……」


 鑑定でも掴めない白粉の効果。

 当然俺に分かるわけもないが、手のひらから空中に飛散し始めたあれが有害だってことだけは分かる。


 なら、風魔法で散らすか?


 いや、違うな。

 ここは次回のためにも身をもって経験すべき。

 鱗粉の効果を知っておくべきだ。

 ただし、それは俺に限る。


「……」


 鱗粉を経験するのは俺だけで十分。

 古野白さん、幸奈、里村は受けちゃいけない。

 この粉が武上を害したのかもしれないのだから。


「謎の粉が飛んできます。古野白さん、下がってください。幸奈と里村も」


「うん。古野白さん、早く」


「……ええ」


 里村を先頭に3人が武上を抱えて後退していく。

 鱗粉はこの周辺を漂っているだけ、まだ後方には至っていない。


 よし、これで安心できる。


「おまえは逃げないのか?」


「ああ」


 対して、こっちは身をもって経験しているところ。

 謎の鱗粉を浴びる不快さはかなりのものだが、それ以外は特に問題を感じない。

 呼吸、脈ともに正常だし、手足も十全に動いている。


「せっかくの冥途の土産だ。受け取ってやるよ」


「愚かもここまでくるとはな」


「……」


 依然、異状は皆無。

 体内には既に入っているはずだが影響は微塵もない。


 ひょっとして、俺には効かないのか?


「まあ、その度胸だけは褒めてやろう」


 それとも、効果自体が薄い?

 自覚できないほど?


「……」


 何がどうなっているのか判別がつかない。

 それでも油断は禁物だ。

 万一に備えて、ここは備えておくべき。

 魔法でも、時間遡行でも、即座に使えるように。


「しかし、ふむ……なかなかの耐久力だな」


「そっちの力不足だろ」


「この期に及んでも減らず口をたたくか」


「いーや、まったく効いてないだけだ」


「ふっ、ふふ、ははは」


「嗤ってられるのも今の内だけだぞ」


「はは……後ろを見てみろ」


 後ろだと?


「けほっ」


 えっ?


「うぅ」


 幸奈、古野白さん?

 まさか?


「ごほっ」


 里村も!


「ごほっ、ごほっ」


 鱗粉の影響なのか?

 けど、飛散とほぼ同時に退避したはず。

 身に受けていないはず。

 仮に体内に入っていたとしても、ごく僅かとしか思えない。

 そんな微量で影響が出るのか?

 だったら、俺は?

 なぜ無症状なんだ?


「うぅ……手が、足が……」


「痺れて……」


 痺れまで!


「動けない……」


 駄目だ。

 もう悠長に構えてる場合じゃない。

 今はやり直しのことより……。


 いや、そうなのか?

 本当にここで動くべきなのか?

 咳と痺れだけなら、もう少し様子を見るべきでは?


「おまえはどうだ?」


「……」


「もう痺れてるんだろ?」


「……まったくだな」


「嘘をつけ」


「いや、症状なんて何もない」


「そんな、あり得ないぞ」


 邪狼狗が驚いている。

 なら、やはり、もう少し。


「うぅ……さ、里村くん!?」


 里村が倒れた?


「はっ、はっ……息が上手くできな……」


 呼吸器も!


「おまえの身体はどうなってる?」


「はあ、はあ……」


「うぅぅ……」


 幸奈も、古野白さんも。


「ほんとに人間なのか?」


「こうきぃ……」


 もう無理だ。

 これ以上は耐えられない。

 けど、それでも、ここはまず。


 ダンッ!


 一足で距離をつめ。


 ドガッ!


「うぐっ!」


 驚きで固まっている邪狼狗の胸に一発。

 さらに。


 ドガッ!

 ガッ!



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