第730話 初志
とりあえず、混同している記憶については保留ということで。
「ところで古野白さん、その変わった顔つきには全く覚えがないんですか?」
「それが……よく分からないの。どこかで見たような気もするし、そうでもないような。ただ、確かなのは位相空間の彼とは違って見えたってことだけ」
なるほど、邪狼狗の認識はその程度か。
「あの、ボクにはよく分からないんだけど、2人は過去にあの異能者と関係があったてことだよね?」
そうだった。
里村は知らないんだった。
「ごめんなさい、彼についてはまた後で説明するわ」
「あっ、そうだよね。今は他にすることあるもんね」
「ええ……」
里村を軽くいなした古野白さん。
「有馬くん、話も終わったし……お願い」
期待と不安の入り混じった眼で俺を見上げてくる。
「できるんでしょ? あなたなら?」
「武上の連れ去られた場所を探すこと、ですか?」
「ええ、あの位相空間に進入できた有馬くんならできるはずよね」
さっきまでとは明らかに空気が違う。
「……今すぐには無理です」
「どうして? 和見家ではできたのに?」
「あの時も時間はかかりました」
当然、俺も武上を見つけたい。
救いたい。
けど、そんな簡単なことじゃないんだ。
「時間って、どのくらいなの?」
「分かりません。もちろん、急いで探してはみますが」
ここは和見家の地下じゃない。連れ去られた場所も前回とは異なっているはず。なのに、手掛かりがなさすぎる。
「武上くんが危ないのよ」
「分かってます」
だから、俺も焦ってるんだ。
「命が危ないかもしれないの」
「……」
「古野白さん、ちょっと落ち着こうよ。有馬くんも急ぐって言ってくれてるんだからさ」
「それで遅れちゃ意味ないでしょ。命を奪われた武上くんを見つけても……」
いつもクールな古野白さんがここまで取り乱すなんて。
「そうかもしれないけど、でも、ここは任せるしかないんだし」
「……」
彼女の様子を見ていると、俺の焦りなんて些細なものに思えてしまう。
余裕があるように感じてしまう。
けど、違うんだ。
俺には時間遡行があるから。
だから、古野白さんほど動揺せずに済んでいる。
それだけだ。
「有馬くん、お願い。誰にも言わないから、ここで見たこと絶対秘密にするから。あなたの本当の力を貸して」
「古野白さん」
「里村くん、あなたも秘密にできるわよね」
「もちろんできるけど」
「幸奈さんも」
「それは、まあ……」
「有馬くん、あなたが魔法使いでも異世界の勇者でもいいの。だから、有馬くん!」
「っ」
武上が心配なのは俺も同じ。
現状はもどかしいし、胸も痛い。
なのに、異世界という一言で急速に頭が冷えていく。
顔色が変わるのが分かってしまう。
こんな状況でも俺は……。
「功己?」
「有馬くん?」
一瞬で表情が変わった俺に里村と幸奈が声をかけてくる。
もちろん、それぞれの思いはまったく違うだろう。
けど、俺を心配していることに変わりはない。
そんな2人に比べ、俺は……。
「っ……勝手なことばかり言ってごめんなさい」
「古野白さん」
動転しているはずの彼女まで気遣った言葉を。
「でも、今はあなたしかいないから」
「……」
「だからお願い」
なっ。
「お願いします。武上くんを助けてください」
頭を下げてる。
あの古野白さんが。
「お願い……」
けど。
そうだよな。
この状況で武上を救えるのは俺だけだよな。
「……」
正直、露見確定だけは避けなきゃならない。
世界を渡れなくなるなんて考えたくもない。
特に今は駄目だ。あっちの世界にやり残しが多すぎる今は。
ただ、だからといって、ここで武上を見捨てていいのか?
古野白さんの思いを無視して、何もしないまま胸を張って異世界に戻れるのか?
「功己……」
何をおいてもセレス様や幸奈を救おうとした時、俺には打算も計算もなかった。
ただ救いたい思いだけで動いていた。
あの時と今は違うけれど。
状況も背負っているものも、何もかも違うけれど。
それでもだ。
確定すると決まったわけじゃない露見を恐れて身動き取れなくなるなんて、あっていいことじゃない。情けなさすぎる。
こんな姿、異世界に憧れていた子供の頃の俺が見たら何て思うよ。
どうしようもなく失望するに違いないよな。
「有馬くん……」
そう。
そうだ。
子供の頃の思い、何のために異世界を目指したのか。
それを忘れちゃいけない。
だったら。
「分かりました」
「えっ?」
「俺は勇者じゃありませんし、時間もかかるかもしれませんが」
「「「……」」」
「それでも、最善を尽くします。武上救命を最優先に動きます」
宣言した内容は、古野白さんが求めていたものじゃないだろう。
安心してもらえるとも思えない。
ただ、これまでとは違う俺の様子に何かを感じとったのか。
「ありがとう……お願いします」
さっき以上に深く頭を下げてくれた。
「有馬くん」
「功己」
里村と幸奈の表情も変わっている。
「……ああ」
これで、奮起しないなんてあり得ないだろ。
よし!
「任せてくれ」
となれば、早急に位相空間への鍵を見つけ出す必要がある。
そのためには空間異能者に関わる何かが欲しいんだが……。
「みんな、あの空間異能者の所持品が落ちてないか周辺を調べてくれないか?」
「武上くんを探すために必要なんだね?」
「そうだ」
「分かったよ、でも、そんな都合のいいもの見つかるかな?」
「なければ、あいつの毛髪なんかでもいい」
「髪の毛なら見つかるかも」
「それって黒髪? それとも銀髪の方かな?」
「黒を頼む」
「りょーかい」
腰をかがめ道路に顔を近づける3人。
俺も同様の体勢で探し始める。
と同時に、いくつか確認もしたい。
まずは時間遡行だ。
もしもの場合に備えて保持を確かめておかないとな。
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時間遡行(2刻)2
なっ?
時間遡行が増えてる!





