第728話 大物?
<古野白楓季視点>
私に正体を気取らせない術を持っていながら、存外呆気なく地に落ちた人型異形。
その姿を見下ろす武上くんは自信満々。
どう考えても圧倒的有利な状況だ。
なのに、背中がざわつくこの感じ。
砂壁の上で有馬くんと話していた時のものに近いと思う。
ただ、だからといって、私にできることは限られている。
次弾の準備と。
「油断しちゃ駄目よ」
「分かってらぁ」
警戒を促すことくらいだから。
「けどまあ、心配は無用だぜ」
それも今の武上くんにはあまり効果がない。
この戦況では仕方のないことかもしれないけれど……。
「ってことで、とどめだ!」
「武上くん!」
こちらに軽く手を振った武上くんが強化した脚で駆ける。
慎重さの欠片も見せず飛び込んでいく。
対する人型は髪色が黒に?
顔立ちも変わっ……あの顔は!?
「おりゃあ!」
敵の変化などお構いなしとばかり間合いに入った武上くん。
その勢いのままに振るわれた正拳が直撃!
するその瞬間。
ブゥゥゥン。
「えっ!?」
何?
「武上くん?」
何なの?
「返事して、武上くん!」
返ってこない。
あの憎まれ口も、余裕の笑みも。
それどころか……。
武上くんの姿も人型異形の姿も私の目に映ってくれない。
確かに今、右拳がみぞおちを捉えたはず。
すぐそこにいたはずなのに。
「……」
「消えちゃったの?」
里村くん。
「あれと一緒に消えちゃったんだね?」
「……ええ」
「ということは、転移持ちの異形?」
「そう……」
かもしれない。
けど、あの顔は。
「違うと思っているんだね」
「……」
「教えて、古野白さんの考えを?」
「……断定できることじゃないわ」
「それでもいいからさ」
「……見覚えがあると思ったのよ、あの顔に」
「以前戦ったってこと?」
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「グギャア!」
「アアァァ!」
「ァァァ……」
砂壁に手を掛けのぼろうとしていた蜘蛛型、鬼型、獣型の異形たちをそれぞれ一撃で撃破。これでもう窪地に異形は残っていない。丸穴にも気配はなし。何の問題もないだろう。
「功己、これから砂壁をのぼるんだよね?」
「ああ。その前に階段を造るからな、少し待っててくれ」
「うん」
頷く幸奈を数歩下がらせ。
「ストーンウォール!」
小型の石壁を現出。
「ストーンウォール、ストーンウォール」
サイズを変え、階段型に複数の石壁を設置していく。
「ストーンウォール、ストーンウォール…………ストーンウォール」
「ほんとに階段ができてる!」
「まだ半分だぞ」
「それでもすごいよ」
「……驚くほどじゃないだろ」
あっちの世界ではこれ以上の魔法も見ているんだからな。
「ううん、驚くほどだって」
「……」
とりあえず、進めよう。
「ストーンウォール、ストーンウォール、ストーンウォール」
「すごいなぁ」
「ストーンウォール、ストーンウォール、ストー……ん?」
これは?
「……」
はぁぁ。
またなのか。
もう終わりだと思っていたのに。
「あれ、どうしたの?」
「次の異形が出て来るみたいだ」
「えっ!」
いっそ放置したい。
そんな思いに駆られてしまうが。
「隠れなきゃいけないかな?」
「いや、今回は1体だけだから隠れる必要はない」
「1体って大物?」
大物?
確かにまあ、あの図体なら。
「お、大きい!」
窪地中央の丸穴から今まさに這い出てきたその体長は人2人分以上。
まさしく巨体と呼ぶにふさわしい体躯を誇っている。
が、気になるのはそこより……。
「グアァァァ」
二足人型の下半身は粘度の高そうな赤茶の体液にまみれ、鋼のごとき筋肉に覆われた上半身はその体液により異様な圧迫感を醸し出している。さらに歪なのがその面貌。顔の半分近くが爛れ崩れた形状は独特の臭気も相まってこの世のものとは思えないほどだ。
ただし、各種数値は警戒が必要なレベルじゃない。
用心すべきスキルも持っていない。
そうは言ってももちろん、これまで湧き出てきた異形たちとは比べものにならない力の持ち主ではある。が、単にそれだけのこと。今の俺が単体として相手する分にはまったく問題ないだろう。
「ほんとに平気? 功己?」
「ああ、心配ない」
だから。
「幸奈はそこで待っててくれ」
「……うん」
壁際に移動する幸奈を確認し、視線を大物異形へと移す。
っと、俺を敵と認識したようだな。
「グガアァァ!」
巨体を揺らして襲い掛かってくる。
これは、ステータス数値以上の素早さだぞ。
とはいえ。
ドガッ!
隙も多い。
ガッ!
ガンッ!
「アアァァ!」
となれば、当然。
ガンッ!
ガンッ!
ドガッ!
拳も脚も避けることなどできるわけもなく。
攻撃は入り放題。
ガッ!
ガリッ!
攻め放題なのだが、問題はその防御力。
どうやらこいつの表皮は思っていたより硬く、堅いようだ。
ガッ!
ガッ!
ちょっと、まずいな。
このままの素手の戦闘じゃ、倒しきるのに結構な時間がかかって……。
そうか!
それが邪狼狗の狙いだったのか。
巨体異形で俺を足止めして、その隙に。
「っ!」
古野白さんたちは?
状況はどうなってる?
「……」
よかった。
今はまだ無事みたいだ。
けど、もう、いつどうなってもおかしくない。
ここで悠長に戦ってる場合じゃない。
ならば。
シュンッ!
「えっ、功己?」
この愛剣で一気にかたを付けてやろう。
ただし、念のためごまかせるように。
「ガアアァァ!」
素手の打撃に似せて。
ザッ、ズバッ!
胸を一突き。
さらに抉るように押し込んでやる。
バシュッ!
「ァァァ……」
よし、討伐完了だ。
「……功己?」
剣を収納し壁際に戻った俺の顔を幸奈が覗き込んでくる。
「問題ない。続きを急ぐぞ……ストーンウォール!」





