第727話 擬装
<武上大志視点>
オレが威圧を喰らってん中、後ろから古野白と里村が近づいて来る。
ただでさえマズイ状況なのに、こいつがあの半異形の成長型なんだとしたら……。
って、うだうだ考えててもしょうがねえ。
こうなりゃ、活路をそこに見だすしかねえんだ。
里村を逃がして、古野白の遠距離攻撃に頼るしか。
「さっきの勢いはどこにいった?」
「……」
よし、里村の声が聞こえてきたぞ。
「ふっ、まともに動けぬのでは仕方ないか」
「……」
「ん……なるほど、他力頼りだと」
もう少し。
「武上くん、武上くん! もう聞こえてるんでしょ? ねえってば!」
「……里村」
もう少し近づいて来い。
「そうだよ、って、聞こえてんじゃん」
そこだ。
「おまえは来んな、どっか行ってろ」
「そう言われても……」
迷ってんじゃねえ。
「私が様子を見てくるわ。里村くんは少し離れてて」
「古野白さんまで」
「お願い!」
「……分かったよ」
いいぞ、古野白。
そのまま里村を離して、適距離までやって来い。
「2人なら勝てるとでも思ってるのか?」
「……」
「ふふ、残念ながらそれは不可能というものだ。近づけば、あの女も動けなくなるだけだからな」
何言ってやがる。
んなもん、威圧の効果範囲外で止まれば問題ねえんだ。
だから、古野白。
ちゃんと見てくれよ。
オレの右手をな。
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<古野白楓季視点>
渋々といった表情で離れていく里村くんをしっかりと確認して。
ゆっくり歩を進める。
念のため異能の準備もしながら。
「……」
この距離まで来れば、あれの異常さがよく理解できる。
時折り武上くんの背から覗き見える顔、確かに見えているはずなのになぜか上手く視認できない。
声もそう。会話してるのは分かるのに、聞こえてくるのは武上くんの声だけ。あれの発声は頭に入ってこない。
こんなの、どう考えてもおかしいでしょ。
けど、それでも……。
前方からは依然として異形の気配は漂ってこないし、異能者という感じもしない。
だからこそ、さらに異質さが際立ってくる。
もう到着するのに、どう対処すべきか迷ってしまう。
えっ?
ここで突然、武上くんが右手を後ろに回し、指と手のひらで特殊な形を作り始めた。
あれは……ハンドサイン?
それも一般的なものでなく、研究所特有の?
「……」
武上くん、これまでは覚えられないと言ってばかりで使用を拒否していたのに、いきなりこんな状況で……って、内容は??
「……なるほど」
そういうことだったのね。
まだ分からないことも多いけれど、重要なことは理解したわ。
だからもう、私に迷いはない。
いくわよ。
「炎弾!」
ドガッ!
武上くんの背後、安全であろう地点から放った炎弾が炸裂。
炎が飛んでくるなど考えてもいなかったのか、狙い通り標的に命中してしまった。
おそらくは認識阻害的な何かを発動していたのだろう。
でないと、ここまでの無警戒は考えられない。
武上くんの助けがあったとはいえ、さすがにこの完璧な着弾はあり得ない。
と頭では理解しながらも、避ける素振りすら見せなかった無防備さには驚きを越え呆れを覚えてしまう。
「ぐあっ!」
ある意味、そんな私以上の表情を浮かべているのが標的。
驚色と苦悶のままに、こっちを睨んできた。
「ど、どうして?」
あなたの不見識。
それに加え、武上くんの擬装とサインがあったから。
あなたを警戒させないよう立ち回ってくれたから。
なんて、答えてあげるわけもない。
「なぜなんだ??」
だから、それは……って?
はっきり声が聞こえるし、顔も認識できる。
「ノロマだからだな」
阻害が消えたのね。
「おめえは鈍いんだよ」
「なっ!」
「頭も動きもなぁ」
「こ、この下郎が!」
「威圧しかできねえなんて、そういうこったろ」
やっぱり。
サインの読み通り、威圧だったんだ。
上手く立ち止まれて良かった。
「……もう手加減は無しだ」
「そりゃいい。ちょうどこっちも本気出そうと思ってたんでな」
またハンドサイン。
全身を縛っていた威圧が完全に解けたのね。
だったら。
「武上くん!」
一緒に仕掛けるわよ。
「おう!」
地を蹴る武上くん。
私も次を。
「炎弾!」
灼熱の塊が武上くんとほぼ同時に標的に襲いかかる。
「っ!」
初撃と違い避けようとする敵の腕を武上くんが捕まえ、その体を炎の前に。
ドガッ!
これも真正面から命中。
ただ……。
「つぅぅ」
最高の炎弾を2撃も受けたのに倒れない。
いまだふらつく程度。
「なかなかタフじゃねえか」
けれど、こっちは私1人じゃないの。
「ならよぉ」
心強い味方がいる。
武上くんが。
「こいつはどうだ?」
ダッ!
ダンッ!
まずは両拳。
左、右と連続で正拳突きを叩き込んでいく。
ガンッ!
そこから右廻し蹴りへ。
さらに回転しての左後ろ廻し蹴り。
ドガッ!
まだ倒れない。
「ぐっ、うぅぅ」
けど、敵は完璧な連続技に堪らず数歩後退、体勢も崩れきっている。
「どりゃあ!」
その腹部に助走をつけた強烈な蹴り込みが炸裂。
「ぐあっ!」
悲鳴とともに吹っ飛ぶ標的。
ついに地に落ちた。
「おい、おい、手加減はやめたんだろ?」
「ぅぅ……」
「おめえ、前の方が強かったんじゃねえの?」
「……」
「まっ、どうでもいいか。もう会うこともねえしよ」
形勢がこっちに大きく傾いているのは一目瞭然。
普通なら、あと1撃か2撃で終わりだと思う。
でも……。
何かおかしい。
今ははっきり認識できるこの人型の異形。
このまま滅却できるとは……。
「さってと、せめてもの情けだ。苦しまずに送ってやんよ」





