第725話 可能性
<古野白楓季視点>
「どこって、縄を取りに来たんだけど?」
「そうじゃねえ。今どこにいたって聞いてんだ」
「だから、縄を持って有馬くんたちを助けに行こうとしてたところだよ」
やっぱり、入れ違いになってたのね。
でも。
「それなら、どうしてここに戻ってきたの?」
「古野白さんの姿が見えたから」
「私を?」
「うん。あれ多分保管庫だと思うんだけど、そこの小窓から見えたんだ。それで、何かあったのかなと思って」
確かに、保管庫には小さな窓が2つ設えられていた。
あの窓越しなら外から室内を覗き見ることも可能だろう。
「古野白さんと武上くんがここに来たってことは、あっちで何か問題でも起こったのかな?」
「おまえが遅いから様子を見に来たんだ。って、さっさと浜に戻んぞ」
「あっ、ちょっと待って。古野白さん、鷹郷さんには連絡した?」
「それが、携帯も管理室の電話も繋がらないの」
「えっ!?」
「電波の方は分かんねえが、電話線はやられたんだろうよ」
「誰かが線を切ったてこと?」
「分かんねえ」
「誰かが故意に切断したのか、動物によるものか、あるいは経年劣化か、すぐには原因は分からないわ。けど、今はそれより」
「有馬だな」
「ええ、早く戻りましょ」
「おう。縄を寄こせ、里村」
「うん」
縄を手にした武上くんが足を踏み出す。
「先にあいつら助けとくからな」
「ちょっと、武上くん」
「おまえらはゆっくりでいいぞ」
そんな一言を残し加速してしまった。
「強化した武上くんの足にはついていけないけど、私たちも急ぐわよ」
「武上くん先に行っちゃったし、ボクたちはゆっくりでいいんじゃないのかな?」
「あっちで何が起こるか分からないの、ゆっくりはしてられないわ」
「ん? それって、また揺れるってこと?」
「……そう言えば、里村くんは見てないのよね?」
異形が溢れ出てくる前に縄を取りに向かったんだった。
「地盤沈下は見てるけど?」
「違うわ、異形の群れよ」
「えっ! どういうこと? 何があったの?」
「走りながら説明するわ」
「うん」
「実はね、里村くんが砂浜を去ったあと……」
突然現れた異形の群れを、有馬くんがひとりで素手で倒してしまった。
偉業ともいえるあの戦闘。
要約すれば、50文字もかからない。
「そっかぁ、そんなことがあったんだ」
「だから、急ぎたいのよ」
「うん、分かった。ところで、幸奈さんは怪我してないんだよね? あっ、古野白さんも?」
「ええ、問題ないわ」
「よかったぁ」
「里村くんの方は?」
「もちろん、平気」
「異形は見かけなかった?」
「全然、まったくだよ」
やっぱり、異形はあそこだけ。
あの丸穴からしか出て来れないのかもしれない。
「でもさぁ、もうそんなに心配しなくていいと思うんだけど?」
隣を走る里村くんが頭を傾けながら疑問を投げかけてくる。
「なぜそう思うのかしら?」
「だって、有馬くんがいるなら心配無用って感じでしょ」
それは……。
「さっきの話から想像できちゃうもん。次に異形が現れても有馬くんが圧勝するところ」
「……」
「実は古野白さんもそう思ってるんじゃないのかなぁ?」
「……」
「あれ? どうかした?」
「……あらためて感じてたのよ」
「有馬くんのこと?」
「ええ。普通人のあなたの目から見ても際立ってる彼の異常さをね」
「ああ……」
やっぱり、どう考えても普通じゃない。
おかしすぎる。
「里村くん、あなたはどう思う?」
「えっと、そうだなぁ……有馬くんが異常だという意見にはボクも賛成なんだけど、そこについてはもう慣れちゃったかも」
「異常な力を持つ有馬くんの正体についてはどう?」
「……異能者、じゃないんだよね?」
「ええ」
「ほんとに?」
「間違いないわ」
やっぱり、里村くんも武上くんと同じ。
異能者である可能性が高いと考えていたようね。
「だったら、うーん……」
「ちなみに武上くんは、超能力者、魔法使い、異星人、異世界人なんてこと言ってたわよ」
「なるほど、それ面白いなぁ」
まったく面白くないわ。
「でも、そうかぁ。そんな可能性もあるんだねぇ」
「可能性があると思うの?」
「まあ、可能性ならあるんじゃない。それに、ボクとしては超能力や魔法を見てみたいし」
「異能もある種そんなものじゃないかしら?」
「そう言われれば、うん、そうだね」
今さらこんな感想を抱くことも、このやり取りも里村くんらしいけど……。
「あっ、でも、異能者は基本的に1つか2つの異能持ちなんでしょ?」
「……そうね」
「だったら、そこが違うかも。超能力者や魔法使いは多くの術を使えそうだから……あれっ? あれぇ??」
何?
「……」
里村くんの顔に向けていた目を、彼の指さす方向に移すと。
「武上くんだ」
視線の先、武上くんが立ち止まっている。
有馬くんの待つ砂壁どころか、まだ砂浜にも足を踏み入れてないのに。
「そんなところで何してるの?」
「武上くん?」
まだ距離があるとはいえ、こちらの問い掛けに反応もせず背を向けたまま身動ぎもしない。
「ちょっと、無視しな……」
えっ?
何かいる?
大柄な武上くんの背中が邪魔でよく見えないけど、何かと向き合ってる?





