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第717話 露見



 ドガッ!


 叩き込んだ拳が胸を穿つ。


「ヴアァァ」


 魚人が声にならない悲鳴をあげ崩れ落ちていく。

 まずは1体。

 次いで後ろの魚人にも。


 ダガッ!


 これで2体。

 次は。

 ん?


「「「「「ゥゥゥ……」」」」」


 先頭集団が後退っている。

 中団も後方の異形も思い思いにわらわらと動くばかり。

 こちらに向かってくる素振りもない。


「「「「「ァァァ……」」」」」


 たった2体倒されただけで、もう怯んでるのか?

 やはり、連携も連係もあったもんじゃないな。

 これなら、思っていたより簡単に倒せそうだ。


「やったわ!」


「嘘でしょ!?」


 余裕ができると遠耳も利くというもの。

 今はもう2人の声もはっきり拾えてしまう。


「強化持ちでもないのに!?」


「……」


「素手で、拳で!」


 いや、実はばれないように魔力で強化してるんだ。

 拳もしっかり魔力コーティング済み。


「魚人の胸に穴を開けたの??」


 じゃないと、こう簡単には討ち取れない。

 というか、武器も魔法も使えない上に素のステータスで32体討伐するのはさすがに厳しいものがあるんだよ。


「有馬くん、おかしいわよ、普通人なのに普通じゃないなんて」


 困惑している古野白さんには悪いけれど、どうか見逃してほしい。

 こればかりは、ほんと。


「平気なの?」


 古野白さんとは対照的に囁くような小声で幸奈が尋ねてくる。

 心配しているのは……。


「使ってもいいの?」


 戦闘じゃなく露見方面か。

 魔力を使ってる俺を見て、戦闘面では少し安心したのかもしれないな。


「功己?」


「まあ、な」


 魔法や魔道具よりましとはいえ、魔力で強化した戦闘を見せるのはもちろん好ましくない。ただ、この程度ならギリギリごまかせるはず。実際これまでも数回魔力強化を目撃されたが、大きな問題はなかったのだから。そして、今もステータス画面の露見に変化は現れていないのだから。


「でも、気をつけて」


「分かってる」


 そうはいっても、魔力不使用が最善であることに変わりはない。

 使うにしても低出力に留めるべき。

 この後もなるべく……。


 っと、三足鬼が近づいてきたぞ。





***************************


<和見幸奈視点>




「分かってる」


 わたしの不安を振り払うように強く頷いた功己が動き出す。

 まるで散歩に行くみたいな軽い足取りで数歩進み。


 ドガッ!


「ギャァ!」


 接敵、即討伐。

 さらに歩を進め。


 ガンッ!


「グアァァ」


 ダンッ!


 ドガッ!


 ドシャッ!


「「「ァァァ……」」」


 拳を使い脚を振るって、次々となぎ倒していく。

 まったく危なげがない。

 いくら魔力を使っているからといって、これは……。


 ガンッ!


 グシャッ!


 ドガッ!


「「「ギャァァ……」」」


 恐ろしい異形相手の戦いなのに。

 功己は素手なのに。

 涼しい顔で圧倒している。


 まるで、優雅な武舞を見ているみたい。

 

「……」


 今さらだけど。

 あっちの世界では何度も経験したけれど。

 功己に護られていると、恐怖なんて消え去っちゃう。


 ほんと、功己はすごいな。

 頼もしいし、安心できる。


 それに……かっこいい。


「……」


 こんな頼りがいのある功己に護られたら誰でも。

 壁の上にいる古野白さんだって……。


 ううん、違う。

 そんなことない。

 古野白さんは、そんなんじゃない。功己のこと何とも思っていないから。


 けど……。


「はぁぁ」


 まだ戦闘中なのに、不安が消えると変なことばかり考えちゃう。

 不純な思いばかり溢れちゃう。


「……」


 それもこれも、全部功己のせい。

 頼もしくて凛々しくてあれな姿を見せつけてくるから。


 そんな功己に……。

 

 わたし、あの胸の中にいたんだ。

 それも水着にパーカーを羽織っただけの姿で。


 思い出すだけで頬が熱くなってしま……あっ!?


 腕の傷痕?

 パーカーの袖まくれてなかったかな?

 大丈夫だったかな?


「……」


 今残ってるのはよく見なければ分からない程度のほんの僅かな傷痕だけ。

 あとは全部セレスさんが消してくれた。

 だから、平気。

 少しくらい見られても大丈夫、と思うんだけど……。


 目ざとい功己なら?

 近くで見られたら?




「おい! 何だこれ!?」


「遅いわよ、武上くん。いったい何してたの?」


「さっきの揺れで砂浜に足が埋まっちまってよ。そんで出るのに苦労してって、んなことより、何なんだありゃ?」


「見ての通り多数の異形ね」


「そうじゃねえ、いや、そうだけど、そこじゃなくてだ」


「異形と戦ってる有馬くんね」


「それも分かってらぁ」


「じゃあ、何なのよ?」


「あの戦いぶりだろうが!」


「……」


「あいつ、1人でやったのか?」


「……」


「あの数の異形相手に武器もなく素手で、普通人の有馬が?」


「……凄いわよね」


 わたしが自分のことばかり考えている間に、壁上の古野白さんと武上くんが功己をあやしみ始めてる。これ、まずいような……。


「凄いなんてもんじゃねえ。こいつぁ、これまでのような少数相手じゃねえんだぞ」


「……ええ」


「廃ビルでも異空間でもあいつは大概だったけどよぉ、さすがに今回は異常すぎんだろ」


「……」


「ぜってえ普通じゃねえ。つうか、あいつ……やっぱ異能持ちなんじゃ?」


「そう思うわよね」


 功己は大丈夫って言ってたけど。

 この状況、どう考えても問題あるようにしか思えない。


「でも本人は否定してるし、何より異能を発動している様子がないのよ」


「異能を隠す術でも持ってんのか?」


「それも多分ないわ。研究所が否定していたから」


「なら……」


「異能者とは言えないわね」


「んなわけあるかよ!」


「……」


「あんな普通人いてたまるか!」


「同感ね。けど事実は事実だわ」


「ちっ、あり得ねえ」


 功己、ほんとに平気なの?


「けどよぉ、それが事実だっつうなら、そりゃあいつが……」


 今露見はどうなってるの?



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