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第714話 重荷



「高さは7メートルって感じかな?」


 里村の目測通り、俺と幸奈がいるここは3人が立っている地点より7、8メートルほど低い。前も後ろも左も右もそれは同じ。つまり今は砂塀ともいえる白砂の壁が周囲に立ち塞がった状態。


「高さ7メートル半径10メートルくらいのほぼ円形の窪地かぁ。そこから出るのは簡単じゃないよね」


「いや、いや、有馬のとんでもねえ身体能力なら何とかなんだろ」


「……」


 確かに、四肢を強化した上で収納の中にある道具類を使えば多少の苦労はするものの上ることはできるはず。ただし、その登攀が可能なのは俺ひとりの場合だ。幸奈を抱えるか背負った状態での登攀は、これはもう相当な難事に違いない。ましてや、徒手でとなると……。


 もちろん、魔法を自由に使っていいのなら話は違う。

 土魔法で作り出した階段は俺と幸奈の2人を難なく壁上へと導いてくれるだろうから。


 が、事はそう簡単じゃない。

 露見の危険性を高める魔法は人前で気安く行使できるものじゃないんだ。

 中でも土魔法で階段を作るなんてことは露骨に過ぎる。


「つうか、こいつはただの砂なんだからよ勝手に崩れんじゃねえか。そうすりゃすぐに合流できるぜ」


 なっ?

 そんなうまい話があるのか?


「駄目よ、武上くん。この砂固まってるわ」


「ほんとだ、固いや」


 砂壁の断面を触った古野白さんと里村の一言を聞き、武上と幸奈も壁に手を伸ばす。当然俺も。


「……固ってえ」


「これじゃ崩れないかも」


 そうだよな。

 そう簡単じゃないよな。


「でもさ、功己」


 傍らで手を伸ばしていた幸奈が俺の耳元に。


「功己の剣なら斬れると思うよ」


「ここで俺がいきなり亜空間から剣を取り出すのか?」


 幸奈の囁き声にこちらも小声で返す。


「あっ、露見?」


「そうだ」


 さっき考えていたように、亜空間収納や魔道具、魔法の利用は露見危険が高すぎる。


「だったら、魔法もだめ?」


「……」


「みんなそこにいるもんね」


「……ああ」


 俺の秘密のほとんどを知る幸奈は既に露見確定の対象内。

 つまり、あの3人が壁上にいなければ、秘密裏に使えるのなら、露見なんて問題にはならないんだ。とはいえ、この状況で皆が遠ざかる可能性は……。



「功己……」


 ん?

 表情が曇ってる?

 大揺れに沈下という異常事態にもそれほど動揺していなかった幸奈が急に?


「ごめん」


「どうして謝るんだ」


「……功己ひとりなら上れるんだよね?」


 それは、まあ。


「またやっちゃった」


「幸奈?」


「わたし、迷惑ばかり。いつも功己の足を引っ張ってばかり……重荷になってるよね」


 違う。

 それは違うぞ。


「幸奈が重荷なんて、俺は考えたこともない」


「でも……」


「重荷どころか、こっちが助けられてばかりだからな」


「そんな、そんなことない」


「いいや、子供の頃からずっと一緒の俺がそう感じるんだ。これはもう確実だろ」


「……」


「いつも感謝してるんだ、幸奈にはさ」


「……ほんと?」


「ああ」


「功己……」


 少し顔色が戻ってきたか。


「多分、元気づけてくれてるだけだよね。でも、嬉しい」


「いや、いや、全部本音だぞ。それに、むしろ俺の方こそ幸奈に迷惑かけてるんじゃないかってな」


「そんなわけないよ。どうしてそんな発想になるの?」


「あの時もあの時も、この時もそうだったから?」


「1つも言えてないじゃない」


「話せば長くなるんだよ」


「もう、嘘ばっかり」


 よし、その調子だ。


「有馬くん、幸奈さん、そろそろいいかしら?」


 っ!


「古野白さん! ええっ!?」


「2人とも、全部聞こえてたよ」


「里村くん……聞こえて?」


 しまった。

 声を潜めていたつもりが、いつのまに。


 って、まさか魔法云々も聞かれたのか!?


「里村、どこから聞いてた?」


「重荷がどうこうってところ?」


 そうか、魔法の一言は聞いてないんだな。

 よかった。


「素敵な話だったよね」


 よくないのか?


「おまえらさぁ、こんな状況でイチャつくなよなぁ」


 よくないな。


「た、武上くん、そんなんじゃないから!」


「いや、いや、どう見てもイチャイチャくっついてただろ。それも水着でな」


「へっ! 水着!?」


「武上!」


 頼むから、水着の話は止めてくれ。

 そう視線で念を送ってやる。


「水着でさっきのあれは相当だと思うぞ」


 まったく通じない。


「……」


 ほら、幸奈がまた大変なことになってるじゃないか。


「武上、あれは緊急避難的なもんだ。それに幸奈はパーカーを羽織ってる。完全な水着姿じゃない」


「ほぼ水着じゃねえか」


 だから、もうやめろ!


「武上くん、その話はあとにしてほしいんだけど」


「何でだよ?」


「あなたが言ったんでしょ」


「何を?」


「こんな状況でって」


「……」


 武上が口を閉じて目を逸らしている。

 こっちを向こうともしない。


 助かったぞ、古野白さん。


「で、有馬くん、何か策はあるの?」


「……」


「思いつく手立てはあるの?」


 それは、まあ。

 有無で言うなら有だが。


「あるのね?」


「……少し考える時間をもらえますか?」


「ええ、脱出できるのならね」





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