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第712話 異変



「消えた?」


 音もなく溶けるように消えてしまった。


「……」


 これまで同様、感知できるものは皆無。

 が、姿を隠しているだけかもしれない。

 ここから仕掛けてくることも充分にあり得る。


「いるのか?」


 気配感知はあてにならず殺気も害意も感じられない状態で、彼女の存在を確かめる術は俺にはない。できることと言えば……異変に備え待機することのみ。




 シャリヌ家の2人を監視したまま待つこと5分。

 依然、気配はなし。

 何か起きそうな兆候もなければ、予感もしない。

 

 ということは……。


 本当に去ってしまったのか?

 口も開かず仕掛けてもこず、この2人すらも放置して?


 なら、彼女はシャリヌ家門とは関係ないと?


「……」


 いったい、どこの誰なんだ?

 何のために湖畔の館に来た?

 こんな夜遅くに樹頭の上で何をしたかったんだ?


 分からない。

 彼女の行動も意図も理解できない。

 それでも、目の前には確かな現実が存在している。


「……」


 とりあえず、オルドウ伯爵に会いに行こうか。





***************************


<和見幸奈視点>





「よーし、泳ぎに行こうぜ!」


 今日も武上くんは朝から元気いっぱい。


「もう飽きるほど泳いでるのに、まだ足りないの?」


 そんな武上くんに信じられないといった視線を送る古野白さん。


「明日の朝帰んだぞ、今日泳がねえでどうすんだ」


「……そう。いってらっしゃい」


「おい、おい、つれねえこと言うなって」


「私はゆっくりしたいのよ」


 古野白さんと武上くんの気持ち、どちらもよく理解できる。


「ねえ、幸奈さんもでしょ?」


「えっ、まあ……」


 でも、どちらかというとゆっくりしたいかな。


 来る前はみんなで癒しの時間を過ごすものだと思っていた今回の離島リゾート。

 昨日までの3日間が想像よりハードな毎日だったから。


「そういうことなので、武上くんひとりでどうぞ」


「ちっ……里村は行くよな?」


「うーん、どうしようかなぁ?」


「はあ? 今日も勝負すんじゃねえのかよ?」


「勝負してもボクが勝つだけだし」


「なわけねえだろ」


「そんなわけあるでしょ」


「っ、とにかく今日も勝負だ!」


「……」


「勝負だ!!」


「……はあぁ」


「里村!」


「……分かったよ。付き合ってあげるよ」


「おう、そうこなくっちゃな」


「あっ、でも、みんなにも付き合ってほしいかも。ボクひとりで武上くんの世話するの大変だし」


「「「……」」」


「古野白さん、幸奈さん、有馬くん、お願い。1時間でいいからさ」







「やっぱり暑いわね」


 古野白さんの言う通り。

 まだ昼前なのに肌が痛くなるくらいの陽射しだ。


「昼からよりはましでしょ。それに、パラソルの中にいればそれなりに快適に過ごせますし」


「有馬くんはそうかもしれないけど……」


 ビーチに来ることになってしまった古野白さんの機嫌はあまりよろしくない。

 部屋でゆっくりしたかったという強い思いが伝わってくる。


「武上と里村の勝負が終わるまでの我慢ですよ。ほら、もうゴールも近いじゃないですか」


「……」


 功己の言葉で海中の2人に意識を向ける古野白さん。

 功己とわたしも決着の瞬間を見ようと目を凝らす。


 水泳勝負の形勢はいつもと同じ。

 ゴールを前にして里村くんが大幅にリードしている。

 そして……。


「今回も楽勝だったわね」


「……はい」




 リードをさらに広げて圧勝した里村くん。

 余裕の表情でこちらに歩いてくる。

 その後ろの武上くんはうなだれたままだ。



「ボクの完勝見てくれた?」


「ああ、見てたぞ」


「これで6戦6勝だからさ、もう勝負しなくていいよね」


「いいんじゃないか、なあ、武上」


「……」


 さすがの武上くんも今回の大敗には言葉が出てこないみたい。


「ねえ、私は戻ってもいいかしら?」


「あっ、ごめんね、古野白さん」


「あなたが謝ることじゃないわ。謝るなら、そこの……」


 頭を上げない武上くんに古野白さんの追撃が止まってしまう。


「……」


「いつまでも落ち込んでないで、しっかりしなさい」


「……落ち込んでねえ」


「どこがよ?」


「……考えてただけだ」


「何を?」


「次に勝つ方法に決まってるだろ」


 えっ?


「何度やっても同じだって。それでもボクと勝負したいなら、そうだね、来年かな」


「里村……」


 こんな武上くん、見たことがない。

 だからかな、ちょっとかわいそうに思えてしまう


「その話は後にして。私は部屋に戻るから」


「ボクも一度戻るよ」


「俺もだな」


 歩き出す古野白さん。

 功己と里村くんも。


「武上くん、わたしたちも行きましょ」


「……ああ」


 結局、1時間も経たずにビーチをあとにすることになってしまった。



 ビーチから宿まではすぐ。

 そうはいっても、数分はかかるので陽射しの痛さは避けられない。

 だからだろう、古野白さんの足が速まってる。


 わたしも……えっ?


「みんな止まれ!」


 古野白さんの後ろを歩く功己が叫んでる?


「動くんじゃない!」


 何?

 どうしたの?


 と思ったわたしの前で。


 ズーーン!!!


 揺れてる!?


「っ!」


 砂浜が沈んでいく!?




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