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第710話 直感



 意識を失っているユントールの無事を一応確認した後。

 感知を含めできる限りの手段で他の間者が潜んでいないか調べてみたものの、気配の痕跡すら掴むことができなかった。


 となると、この件はユントールの単独行動。

 そう考えるのが妥当なんだろう。

 が、どうしても微妙な違和感が消えてくれない。

 他にも患者がいるはず、感覚的な何かが俺にそう訴えかけてくる。

 

 だからといって、これ以上はもう調べようがない。


「……ぅぅ」


 ユントールの覚醒も近いはず。

 なら、まずはこいつを伯爵家の者に引き渡すとしよう。

 いまだ地に横たわっているその体を肩に担ぎ館の玄関に足を向けた、その時。


 空気が変わった?


「……」


 ほんのわずかな変化。

 それも一瞬だけのもの。

 けれど、庭園内の感知に魔力を注ぎ込んでいる俺の感覚が誤認するとは思えない。


「いるのか?」


 頭を振り後方に一言投げるも、返答はなし。

 気配らしきものも皆無。

 ただ違和感だけが増している。


「……」


 駄目だな。

 やはりまだ館に戻るべきじゃない。


「いるんだろ?」


 直感に従い庭園に再度向き直った俺の目の前、月明りが消えていく。

 雲に覆われ翳ってしまったんだ。


「……」


 暗闇が支配した庭園。

 ユントールを傍らに寝かせ縄先だけを握る。

 冷気が増したようにも感じる闇の中、神経を研ぎ澄ませる。

 感知ではなく直感に身を任せ……!


 殺気だ!


「アイスアロー!」


 すぐそこには氷魔法。

 極細の氷矢が迫ってる!


「っ!」


 すんでのところでそれを躱し。

 剣を抜き放つ。

 飛来する第2の氷矢を。


 バリン!


 叩き割ってやる。

 続く氷矢も。


 バリン!


 第四の氷矢は?


「……」


 なし。


「どうした?」


「……」


「もう終わりなのか?」


「……」


「こいつを助けたいんだろ?」


「……」


 返答はないし、気配も消えたまま。

 けどもう掴んだぞ。


 敵は東屋の向こう。

 大柱で身を隠している。


「隠れても無駄だ。こいつを助けたいなら今すぐかかってこい」


 感知に注いでいた魔力の大半を解除。

 目と手足に魔力を流し込む。

 さらに剣にも……よし。


「姿を現す気がないと?」


「……」


「なら、ずっと隠れてろ!」


 こっちから攻めてやるよ。


 ダンッ!


 掴んでいた縄を手放し地面を蹴る。

 寸瞬で距離をつめ、東屋の先へ。


「っ!?」


 大柱の裏にはユントール同様の黒衣に身を包んだ男。

 驚愕の表情が魔力で強化した俺の目にはっきり映っている。


「アイスアロー!」


 おっ、まだ使えたんだな。

 が、遅い。


 氷矢が形をなす前に間合いに入り。


 ドスッ!


 剣を一閃。


「ぐっ」


 ただし、剣腹で殴っただけ。

 命は奪っていない。


「うぅぅ」


 よろめきながらも後退る間者に、次は掌底をお見舞いしてやる。


 ドンッ!


 手のひらに響く確かな感触。


「がはっ!」


 その手応え通り、黒衣の男が肺の空気を吐き出すような呻き声をもらし崩れ落ちていく。

 が、まだだ。

 殺気がわずかに残っている。


「ぅぅ……」


 月明かりが雲の隙間から戻り、男の顔を照らし出す。

 そこに浮かぶのは驚愕と焦燥が入り混じった表情。


「助けに来たのか?」


「……」


「それとも」


 殺気の向いている先は俺だけじゃない。


「口封じ?」


 ぴくり、と肩が揺れた。


「もちろん、させるつもりはないがな」


「……」


 このやり取りの間に鑑定は済んでいる。

 想定通りだったのは、こいつの素性。ユントールと同じシャリヌ家の一門だ。

 ただ、そのステータス値が想定よりかなり低い。

 当然、ユントールを凌駕する実力の持ち主だと思っていたのに、気配消去のレベル以外はユントールと同程度にすぎないのだから。


 となると、おそらく……この男は上官というより同僚と考えた方がいいんだろうな。


「ぅぅ……」


「で、どうする?」


 一歩踏み出し剣先を男の喉元に向け。

 皮膚に触れるか触れないかの距離でゆっくり動かしてやる。


「素直に吐くか、あるいは……」


 既に間者1人は確保済み。

 同水準の者2人は必要ない。


「自決を選ぶか?」


「っ!」


「こっちはユントール1人いれば十分だからな」


 男の瞳が大きく見開いた。

 これは恐怖、いや?


「……なぜ?」


 ん?


「その名をなぜ知っている?」


 ああ、なるほど。


「まさか……」


 しかし、この男。

 掌底を受けて気絶寸前だったというのに、もう息が整いかけている。

 大したものだな。


「まさか、自死を選ばず吐いた?」


「……」


「俺の指示に背いたと?」


 指示?

 こいつ、ユントールの同僚じゃないのか。

 上官だとしたら、死なせるのはまずい。


「ユントール!」


「違う、そいつは背いていないぞ」


「何?」


「自決できなかったんだよ。そして、おまえもな……雷撃!」


「っ、ががが!」


 念のため、もう1発。


「雷撃!」


「がが、がががが……」


 痙攣を終えた体が弛緩していく。

 今度は意識を手放したようだ。


 では早速、自決用毒薬をいただくとしよう。

 と。


「ううぅ、うっ?」


 背後から呻き声が。

 ユントールが覚醒しようとしている?


「おまえも追加で眠っとけ、雷撃」


「がが……」


 よし、これでもう問題はない。


 問題ないよな?

 他の間者は潜んでいないよな?


「……」


 感知精度を引き上げ庭園を再確認するも異常なし。

 違和感もなければ、嫌な予感も……ないと思う。


 なら、残る仕事は2人を引き渡すことだけ。

 長かった庭園の散歩もそれで終了だ。


「ふぅぅぅ」


 大きく息を吐いて空を仰ぐ。

 雲の切れ間から姿を現している月が煌々と輝き、何事もなかったかのようにひょうたん池を照らし出している。その様はまるで……!?


 嘘だろ!!




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