第702話 幻想
自責は毒になる。
毒に……。
「功己だって人間なんだから間違う時もある。だけど、功己はいつも頑張ってるでしょ」
「……」
「だから、それで十分。わたしはそう思うな」
「……」
「きっとギリオンさんもそう思ってるはずだよ」
ギリオンも?
「絶対に功己を責めたりしないって。あっ、けど、そんな顔してると怒鳴ってくるかも」
幸奈の神舞には喜んで飛んできて。
それで。
「俺には怒鳴る、か」
「そう、そう、手合わせだぁ、なんて言ってね」
確かに、あいつならやりそうだ。
「実はもうそこにいたりして。うん、何だかそんな気がしてきたな」
「……」
「勝負勝負って剣を振りまくってるギリオンさんが見えるような気がしてきたもん」
自信満々に言い切る幸奈を見ていると、不思議と俺にもそう思えてくる。
豪快に上段から振り下ろすギリオン。
それを払うと次は水平に斬りかかってくる。
さらには右に左に上から下から、必殺の剛剣を叩き込んでくる。
顔を真っ赤にしながら、何度防がれても、どれだけ痛打されても諦めることがない。闘志あふれるギリオン。めげないギリオン。どんな時も前を向いて進み続けるギリオン。
そうだ。
おまえはそういうやつだった。
はは……。
そんなおまえに今の俺の姿なんて見せられないよな。
「……」
よし!
「えっ?」
収納から剣を取り出す。
「功己?」
「ありがとな、幸奈」
おかげで目が覚めた。
今なら頭と心の整理もできそうに思える。
そのために。
最後に思い切るために。
「何! ええっ??」
抜剣。
ブンッ!
居合のごとき一撃。
ブンッ!
袈裟懸けの二撃。
そして、三撃目。
唐竹割りだ。
ザンッ!
「……」
すべて空を斬っただけ。
のはずなのに、なぜか感じる。
あの感覚、懐かしい手応えを感じてしまう。
ギリオン……。
本当にいるのかもしれないな。
なら、もう一撃。
受けてくれ、渾身の剣撃を。
「ちょ、ちょっと?」
魔力を練り、剣に込める。
内部にも剣表にも満遍なく均一に込めていく。
「功己ってば!」
「……」
「もう」
「……」
仕上がった。
極上の強化剣だ。
「ギリオン」
おまえの大好物ができあがったぞ。
だから、思う存分受けてくれよ。
「ふぅぅぅ」
腹式呼吸で気を整える。
剣に合わせて最良の状態に。
「ふぅ……」
いくぞ!
ザッシュッ!
「……」
音が違う。
風が違う。
感触が違う。
「あっ、あれ?」
最高の一振りだ。
「斬ったの?」
「……ああ」
完璧な一撃。
今の俺にできる最高の一撃だった。
「斬ったんだ、ギリオンさんを?」
「……妄想の中でな」
いまだ錯覚とは思えぬほどの感覚が残っているけれど。
瞬間的な熱狂が過ぎ去り頭が冷えてくると、あれは妄想、幻想の一種だったとしか答えられない。
「それって妄想なのかな?」
「何か感じたのか?」
「うーん……」
珍しいことに、幸奈が言葉を探してる。
「自分でもよく分からないんだけど、笑ってる感じがしたんだ」
「……」
「そこでギリオンさんがね、満面の笑みって感じで」
「……」
「それから消えちゃった」
笑みを浮かべ消えたと。
「ほんとだよ」
「……」
「ほんとだって!」
けど。
「幸奈、さっきもそんなこと言ってたよな」
「今度はほんとだから」
「さっきのは嘘だったのか?」
「違うよぉ、あれも嘘じゃないけど今回はもっとはっきりと、じゃなくて、すっと感じたというか、ううぅぅ……上手く言えない」
「それを幻想って言うんだぞ」
「……功己、意地悪だ」
「悪い、悪い……けど、まあ」
「何?」
「ちょっとな」
「ちょっとって何なのよ?」
「不思議な感覚があったからさ」
「……妄想じゃなくて?」
「いや、言葉にすれば妄想、幻想、空想ってことになる」
「でも、ちょっと違うんでしょ」
「……ああ」
「だったら、やっぱりギリオンさんがいたんだよ。で、功己の剣を喜んでたんだって」
できれば俺もそう思いたい。
実際、さっきのあの瞬間はギリオンを感じることができたから。
この手で剣を交わし合う、そんな感覚を……。
ただ冷静になって考えると、やはり現実としては受け入れがたいものがある。
「功己も感じたはずだよ」
ギリオンはもういない。
逝ってしまった。
その上、ここはギリオンの暮らした世界でもないんだ。
「そんなにおかしなことかなぁ?」
「……」
「だってさ、世界は超常的なもので溢れてるんだよ。異能を使う異能者、怪異、異形、それに異世界に魔法まで」
まあ、そうだな。
「その異世界とこっちを功己は往来してるし、わたしなんて入れ替わって世界を渡るとんでも経験をしたんだから」
「……」
「だからね、ギリオンさんの魂とか霊魂がここにいたっておかしくないと思うなぁ」
「魂、霊魂なら世界を渡れると?」
「うん」
確かに、人の身での異世界間移動よりは実現可能性があるだろう。
ただし、あると言っても微々たるもの。
「来れそうでしょ?」
「そう簡単なことじゃない」
「どうして分かるの?」
「知ってるからだ」





