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第687話 術は無し


 あの壬生伊織と幸奈が2人で会った?


「うん」


「どこで? まさか幸奈の部屋に来たんじゃないよな?」


「違う、違う、偶然街で会ったからさ、少し話しただけ」


 最近の伊織少年からは敵意を感じない。

 ともすれば協力的ですらある、が。


「あいつは危険だ」


 何を考えているか分からない腹の底が見えない危険人物であることは確か。強力な異能の使い手でもある。幸奈が単独で接触していい相手じゃない。


「でも、功己とは固い協力関係にあるって言ってたよ」


「……表面的にはな」


「そうなの?」


「ああ、それに固くもない。いつ裏切られるか分からない程度のものだ。あの位相空間での動きもあやしかっただろ?」


「あれは壬生の家との関係上変なことできないから様子を見ていただけで、隙ができたら助けるつもりだったって」


 そんなわけ、いや、あいつなら……あるのか?

 より大きな利を求めて?


 駄目だ、あいつの心は読めない。


「あの子、悪い子じゃないと思うんだけどなぁ」


「……とにかく、今後は幸奈ひとりで会うのは控えてほしい」


「いいけど、今回みたいに偶然会ってしまうこともあるよ」


「その場合はなるべく早く離れて人目の多い場所に行ってくれ。その後は俺か古野白さんに連絡を」


「うん、分かった」


 伊織少年のことは信じられないが、それでも今すぐに過激な行動に移る可能性は低いはず。なら、とりあえずはこれくらいでいいだろう。


「それで、あいつとはどんな話を?」


「最近の壬生家は静かだってこと、それと……武志の話」


「武志?」


「あっ、大した話じゃないの。ちょっと遅い時間に街で武志を見かけたってだけだから」


「それ、武志本人には聞いたのか?」


「うん……アルバイトだって」


 アルバイトか。

 そういえば、以前お金を貯めたいと話してたな。


「本当に問題ないと思うけど、何かあったら伝えていい?」


「もちろん、すぐ教えてくれ」


「ありがと、功己」


「感謝されるようなことじゃないぞ」


 当然のことだし、そもそもまだ何もしていない。


「そうだね……ふふ」


 何笑ってる?

 何だその目は?


「……他は?」


「他……あっ、古野白さんと武上君は今でも様子を見に来てくれるの。週に1回か2回ね」


 あの2人、今も幸奈を。


「ありがたいことだよね」


「ああ、また礼をしないとな」


「うん、うん。って、そうだ、明後日会うことになってるからさ、功己も一緒に会おうよ。それでお礼もその時に」


 今の俺に特別な予定は入ってない。

 もちろん、明後日の午前も午後も空いている。


 「分かった。そうしよう」








 ガチャッ。


「お帰りなさい、コーキさん。よい時間ですけど、今夜の夕食はどうしますか?」


「食堂でいただきますよ」


「では、奥の席へどうぞ」


 勝手知ったる夕連亭の廊下を歩き、これもよく見知った店員の先導で食堂に入る。向かう先はいつもの席だ。


「ご注文は?」


「まずは、エール。それと今日のおすすめを」


「承知しました」


 慇懃な会釈を終え下がっていく店員。

 馴染みになって長いのに杜撰な対応を見せることがない。

 彼らの礼儀正しさと温かさ、本当にしっかりしている。


 立地、部屋の作り、食堂の質、価格など夕連亭には多くの利点があるのだが、こういった店員たちの作り出す居心地の良さこそが俺にとっての一番の魅力なのかもしれないな。


 その心地良さゆえなのだろう、いろいろと因縁のあった夕連亭を今も定宿に選んでいる。今夜も重い体をおして足を運んでしまった。


 とはいえ、重いものは重い。

 そこは簡単に変わらない。


「……」


 もう何度も考えたギリオンの蘇生。

 今夜この時に至るまで、何度も何度も数えきれないくらい考え続けた蘇生方法。


 時間遡行でやり直すことができず、セーブもリセットも使えない今。

 当然、そんなものを思いつけるわけもない。

 神ならぬこの身が叶えられることじゃない。

 どう考えても不可能だ。


 ただひとつ可能性があるとすれば、それは……神の力。

 トトメリウス様、叡智の神の力しかない。


 だから、足を運んだんだ。

 魔落にあるトトメリウス様の神域に今日。


 けど……。


 駄目だった。

 助けてくれることも、方法を授けてくれることもなかった。


「……」


 分かっている。

 人の蘇生なんて許されることじゃないってことは。


 ただ、あのギリオンは普通のギリオンじゃなかった。

 兇神エビルズマリスの影響は明らかだった。

 なら、可能性はある。

 一度消失し蘇ったエビルズマリスのように生き返ることもできる。

 それが唯一の希望だったんだ。


 なのに。


 なのに……。




「コーキさん、お久しぶりですね」


 肩に何かが触れている。


「コーキさん?」


 朧になった俺の視界の中に中年男性の顔が入ってくる。


「っ……」


 夕連亭の主人ベリルさんだ。


「……ご無沙汰してます」


「大丈夫ですか? お顔の色があまり良くないような?」


「え、ええ、平気です。ちょっと考え事をしていただけですので」


「それでしたら良いのですが……お疲れのようですし、どうか無理はなさらないでくださいね」


「はい、食事をいただいたら今夜は早く休みたいと思います」


「では、料理を急がせましょう」


「いえ、それは申し訳ないですし……それよりベリルさん、ウィルさんの件ですが」


「えっ? 何か分かったのですか?」




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