後日譚その4 転生うさぎと天空の城(?)
それは、わたしがいつものように月の領域でのんびりお月見をしていた時のことでした。中央広場でだらだらと空気のクッションの埋もれながら団子をもぐもぐとしていると、珍しい人から〈思念伝達〉が来たのです。
(久しいな。今から我の領域に来ないか?)
(…ウロボロスさんですか。突然なんです?)
(なに、少し面白いものを作ったからな。お前の話を参考にしたものだから、誘ったのだ)
……わたしの話を参考に作ったもの?嫌な予感しかしないのですが。
(…まあ、今は暇なので構いませんよ)
(そうか。来るといい)
めっちゃ上から目線でしたが、誘われたので行ってみるとしましょうか。前にウロボロスさんの領域にはお邪魔したことがあるので直接転移で向かいます。っとその前に。
(…弥生、卯月、如月、わたしは少し外出しますので、こちらはよろしくお願いいたしますね)
(畏まりました。行ってらっしゃいませ)
(気を付けて行ってください)
卯月からの返答が無いので、どうしたのかと領域内を移すモニターを出して探してみると、ちょうどミラーを追い詰めているところでした。夢中になっているようですね。まぁ、わたしの言葉を聞き逃すことはないと思うので大丈夫でしょう。ミラーは、その、頑張ってください。応援してますよ。
業務連絡を終えたのでサクッと転移します。月の出ていた常夜の風景から、天地の領域にあるウロボロスさんの寝床…つまりこの世界で一番標高の高い山の頂上まで転移してきました。
眼下には雲海があり、地上はよく見えませんが、あちこちにドラゴンが飛んでいるのが見えます。あれは眷族ではなくて野良ですかね。
天地の領域に出現する魔物はほぼ全てドラゴン種になります。地面に潜っているアースドラゴン。岩を溶かす炎を吐くフレイムドラゴン。反対に氷のブレスを吐くフリーズドラゴン。空高くから奇襲を仕掛けてくるスカイドラゴンなどなど…。ぶっちゃけ、人間が踏み込んだら地獄です。生き残れる人はとても少ないでしょう。ちなみに、ずっと前に王国と公国の国境門で戦ったドラゴンの変異種は、ここのスカイドラゴンがたまたま領域の外に出ていた時に例の魔石を埋め込まれたみたいです。そんなことが出来そうなやつは…ゼストぐらいでしょうね。あの人ももうこの世には居ませんが。
さて、ウロボロスさんについてですが、元々はとある龍種の眷族だったのが野生化してドラゴンになり、今では神獣として活動している古参の魔物です。種別的にはドラゴンですが、龍種の力に近い能力を元々の主である龍から継承しているらしいので、最強の生物である龍に近い能力を持ちながら特殊な進化をしているという、魔物界において間違いなく頂点に立つ存在です。わたしやわたしの他の神獣達よりも頭を大きく飛び越えるくらい差があるほどの強さです。ま、勝てない相手でもないですけど。
ウロボロスさんは基本的にこの領域でずっと眠っているそうです。悪魔の気配を世界のどこかに感知した時に意識的に目覚めるのだとか。あとは、フェニさんからの通信の時も起きるようですよ。そんな人が悪魔も居ないのに起きて活動して、しかも何か創作していたと言うのですから、異常事態とも言えます。面倒なもの作っていないと良いですけ…
空を見上げた瞬間、思わず脳内思考がぶっ飛びました。まさか、アレを作るとは…
世界で一番の標高を誇る山の更に上空。そこには、まるでどこかの有名なアニメ映画に出てきそうな、空に浮かぶお城がありました。下から見上げるとよくわかりますが、アホみたいに大きいオリハルコンの塊をいくつも取り付けて動力源にしているようです。あれを維持するの領域より面倒なのでは?
「驚いたか?」
いつの間にかわたしのすぐ傍に立っていた灰色の髪の男性…今は人の姿なのですね…がウロボロスさんです。わたしは空に浮かぶ白を見上げながら素朴な疑問を聞いてみることにしました。
(…これ、何のために作ったのですか?)
「特に理由はないが。強いて言うならば、暇だったからな」
(…アホですかあなた)
おっと思わず本音が出てしまいました。いやでも、この人アホでしょう?最初に会った時の強キャラ感を返してください。
「我個人では実用性は皆無だが、眷族達の居住スペースの確保が出来た。以前から、眷族として特別な巣が欲しいと思っていたようだったからな」
(…眷族のために作ったのですか)
「いや。先も言ったが特に理由はない。前にお前から聞いた話で面白そうなものを暇だから作っただけだ」
(…やっぱりアホでしょうあなた)
わたしが呆れた視線をウロボロスさんに送っていますが、彼はそんな視線など全く意にも関せずに空に浮かぶ城を見詰めています。
「そうだ。一応こんなものも用意した」
ウロボロスさんがそう言って片手をあげると、城の下側中央にある他より一際大きなオリハルコンの塊が怪しい光を放ち始め、巨大な魔法陣が出てきたかと思うと、地上に向けて超出力の魔力砲を放ちました。地上、真下…つまり、今わたし達が居る場所です。
「きゅい!?」
思わずうさぎ語で叫んでしまうくらいには驚き、わたしは慌てて月魔法『月鏡』…魔法攻撃を反射する姿見を召喚する魔法です…を真上に出して自分の身を守ります。ウロボロスさん?放っておいても死なないでしょう。
アホみたいな魔力を圧縮して発射した魔力砲は、ウロボロスさんの寝床に見事に着弾し、大きな轟音を立てて吹き飛びました。ついでにわたしも吹き飛びました。おのれウロボロスさん。
空中に投げ出されたわたしは、重力魔法でふわふわ浮きながら体勢を整えて、山の頂上が大きく抉れた様子を見てとても呆れた顔をします。あれを修復するのにも魔力を使うでしょうに…。
「威力は及第点だな。だが、これでは倒せてもせいぜいが下級悪魔程度か。今度悪魔が出たらこれで人の街ごと焼き払うのもありかもしれんな」
(…ある訳無いでしょう。アホなのですか?馬鹿なのですか?)
そんな感じで、ウロボロスさんは時々何かを作ってはわたしを呼んで見せてくるようになりました。フェニさん曰く、「とても気に入られているのね」らしいですが、毎回付き合わされるわたしとしては、時々本当に死ぬんじゃないかと思う時もあるので勘弁して欲しいです。
あ、ちなみに、天空の城はそのままウロボロスさんの眷族の居住区として残ることになりました。あれを維持する魔力なんて微々たる量と言われた時はこいつ頭おかしいのではないかと思ったものです。心が読まれるので恐らく口に出していなくてもバレていると思いますが。
異世界の話をする時は存分に注意しないといけませんね。そう勉強した一日でした。